キツネグマ
15階層は、やはりお宝のフロアだった。机の様な台に水晶玉が置いてあり、虫メガネで覗くと『水晶玉』と反応した。取り敢えず手に取ってみたけど何か特別な感覚は無かった。他に目ぼしい物は無いか、魔物は居ないかを確かめて、地上に向かって登り出した。
ワニの居た14階層には魔物は居なくて、13階層からは、降りてきた時と同じ感じだったので労せず地上に戻った。
明るいところで水晶玉をチェックすると、自分が映ったりや向こう側が見えたりするんじゃ無く、偶にさっき迄置いてあった、15階層の様子が映っているみたい。見る角度なのかな?ちょっと雰囲気が違ったりするけど、
大体は真っ暗になっていた。
「使い道、解らないね!愛菜、占いに使う?」
「私は、タロットだけですの!」
シャットアウトだった。
予定時間をオーバーしていたので、そのままテントでもう一泊。朝早かったので、皆んな早々に寝息を立てていた。
日の出と共に起きて最北端を目指す。途中、山羊を飼育している集落が在って、美味しいものが色々楽しめるらしい。牧場主が経営の食堂にお昼に着く様に少し急いで出発。
猫達の魔物オーラで、魔物は寄って来ないし、普段は獲物を見込めない田舎道なので、盗賊にも会わずに予定通りに牧場の食堂に到着した。噂で聞いていたのとは違い、ひっそりしていた。
食堂に近付くと、キツネグマが群れていた。随分前に、小鬼の天敵として他の大陸から輸入した外来種で、小鬼の駆除には予想通りの成果を上げたんだけど、増えすぎたキツネグマが在来種を駆逐したりするので、キツネグマも駆除対象の害獣になっている。勝手に連れて来られて、駆除されるなんて、気の毒な話だよね。でも、彼等って単独行動なんだよね?こんなに群れるなんてどうしたんだろう?
「ありゃ、小鬼とキツネグマのハーフじゃな。」
小鬼なら天敵であろうと、メスならば交尾を試みるのは自然な事だろうな。
「じゃあ、ミルクで呼んで見ましょう!」
愛菜は馬車を降り、小鬼集めに用意していた缶を開け魔力で温めた。姉貴と風香が追って、お馴染みの二重結界でキツネグマを待った。
推測は的中して、キツネグマの死骸で円筒が出来上がり。都合よく、成果物として提出する小鬼の耳と、キツネグマの尻尾、両方が付いていたので、ダブルで稼ぎになるかも知れないね。残った死骸の処理を相談しようと、牧場の人を探すと、窓に板を打ち付けた食堂に隠れるようにしていた。
「こんにちは!お昼を頂きに来たんですけど、魔物に会っちゃって、死骸の処理どうしたら良いか教わりに来たんです!焼却なんかしたら、山羊さん怖がったりしますか?」
「えっ?ああ、生き残りは小屋に閉じ込めてあるから、山羊の心配は要らないけど、埋めるんなら、私が掘りますよ。」
おじさんは不思議な物を見る目で僕を見ていた。
「いっぱい有るので焼いちゃいます!片付けたら、ゴハンよろしくです!」
店を出て、死骸の側で待っている姉貴達に、両手で大きなマルを作って見せた。あらたが同じマルを返すと死骸が輝く様に燃え、掘って置いた穴に骨を片付けて、僕が戻るまでにスッキリ片付いていた。
馬車で食堂迄来ると、さっきのおじさんは外まで出て迎えてくれた。
「キツネグマ対策はしていたんだけど、最近、罠も柵も役に立たなくなったんだ、山羊も半分近く殺られて、小屋に閉じ込めてるんだ。」
「小鬼の血が混ざっている魔物だったんです、これだけやっつけたから、もう大丈夫だと思います!」
約20匹分の尻尾を見せるとおじさんは驚いて腰を抜かしていた。
魔物のせいで閉店していたので、直ぐに支度をしても1時間程掛かるそうなので、近くの地理を聞いて、小鬼の巣になりそうな洞窟を調査する事にした。牧場の外れから森になっていて、直ぐ奥に洞窟があるそうだ。害獣が住み付かない様に、入口は塞いであるそうだけど、小鬼ならこじ開けて住処にしてもおかしく無い。そこにターゲットを絞って馬車を進めた。
牧草地を5分森を10分歩いて洞窟に到着。塞いでいた板は小鬼のサイズだけ剥がされていた。愛菜センサーには魔物が数匹引っ掛かった。板の隙間から覗こうと思ったら、朽ちた板壁はバラバラと崩れ、中にはキツネグマのメスが数匹と、産まれたてらしいキツネグマの魔物が数匹。結界で閉じ込め、サクっと始末した。洞窟は意外と奥が深く、さっき始末した分で丁度良さそうなので大きさだったので、ここの一件としてはエンドと思って大丈夫みたい。但し、他所でも起きても不思議じゃないので、次の出張所で報告しなきゃならないな。
食堂に戻ると山羊の乳で作ったチーズやクリームを使った料理が沢山用意してくれていた。
「有り合わせで申し訳無いけど、ドンドン食べて下さい!」
グラタン、スパゲティ、スープなどなど。牛乳より濃厚な味と香りを堪能した。おなかいっぱいになると、山羊の乳のソフトクリームがデザート。しっかり別腹に収めた。
お会計をしようと思ったら、
「駆除の礼金払うって言っても受け取ってくれないんだから、せめて奢らせてくれよ。」
そう言って、お土産迄持たせてくれた。ちゃんと営業している時に、ちゃんとお客で来る約束をして最北端を目指した。




