望月花
最初に付いた2パーティーがしっかり成果を上げたので、4日目からは『数年芽が出ない』っていう年長組を任された。愛菜、風香、音の下請け時代を知ってる人もいてちょっとやり辛かったけど、向こうの方が気不味い様子だったので、新人パーティーと同じ様に接して、なんとなく上手く過ごした。
5日目の指導は、男2女3の5人パーティーなんだけど、皆んな僕等の中学の先輩で、僕等がパーティーを組めずにいた事を知っていて、見下した態度でやり辛かった。しかも行き先も自分達で指定して来た。まあ、どこでもいいって言えばいいんだけど、結構難易度が高いんだよね。遠いし、夜だし。
前日から予定は聞いていたので、戦闘服で出動。今回は、舐められないように、メイド服じゃない新しい方で身を固めた。可愛さは抑えてある代わりに、露出が多くなっているので、実習の男性達の遠慮の無い視線がちょっと不快だな。
今日のっていうか、一泊二日でのミッションは、魔族の森に満月の夜だけに咲く『望月花』の採取。Eランクパーティーの彼等がE+にランクアップする条件との事。
魔族の森って言うのは、東北西の3国に跨がる森林地帯で、一応国境はある筈なんだけど、誰も立入ろうとしないので、曖昧になっているみたい。奥の方は標高も高いし、魔物がウヨウヨしてるけど、手前方の比較的安全な所に、レアグッズを採りに行ったりする事は偶に有って、今回がその偶にに当たる。
実習生達の馬車は、やっぱり赤黒の新車だった。それぞれ、2、3年目なので、買い替えた事になるんだけど、そんなに稼ぎが有るようには見えない。
「新車のようじゃな、景気がよいのう。」
ベルが話し掛けると、
「盗賊狩りの馬車が安全だって、パパが買ってくれたの。」
一応魔術師として社会人の男が、パパ?驚いていいのか、笑っていいのか反応に困っていると、
「昨日と一昨日の皆さんも、就職祝いに親御さんに買って頂いたそうですわ!」
愛菜は既に情報を掴んでいた。まあ、僕の財布じゃないので気にせず出発した。
馬車にはメンバーをシャッフルして乗り込み、今までの戦績とかを聞いたけど、お使いレベルしか経験していないようだった。
途中、小鬼の見張りが愛菜のセンサーに掛かり、魔力弾の3連発で倒し、耳を回収して魔力弾で開けた穴に埋めて、3匹を5分程で片付けた。もう少し進むとまた見張り。
「あんなの俺なら一発だぜ!」
制止する暇もなく、大きな火球を放った。3匹の見張りの2匹は、火傷位で逃げ、侵入者を告げる叫びが森に響き渡った。火球は小鬼が居た木を焼いて、燃え広がった。姉貴は結界で延焼を防ぎ、愛菜は氷弾を細かく砕いたように撃って消火した。森林火災をボヤで食い止めた頃、見張りの叫びに反応した小鬼の大群が押し寄せた。2重結界でドンドン数を減らし追撃が無くなるまで斬り続けた。小鬼の亡骸で出来た円筒に、飛び道具で倒した小鬼達を、猫達が元のサイズになって咥えて集めて来た亡骸を放り込んで清掃完了。他の残骸を確かめて小鬼の山を焼き払った。結界で囲って高温で一気に焼き尽くし、キチンと消火して奥へ進んだ。
もう、地図かアテにならないエリアに突入していて、あらたのカンで山道を進み、馬車が通れなくなったので馬車を隠して結界で護りカトリーヌとシフォンに留守番を頼んだ。徒歩に変えて、しばらく進むと、西の空が赤くなっていたので、野営地を探す事にした。
「ほな、コッチや!」
あらたは、山を降りる方向に、右折して少しすると、水場のある平坦な場所に着いた。早速テントと晩ごはんの支度。僕らはサクサクと済ませたけど、実習生達は、テントが組み上がらず、喧嘩になっていた。ご飯支度どころじゃない様なので彼等の分もつくっておいた。埒が明かない様なので、ベルがヘルプに行った。支柱が足りなかったので組み上がる訳も無く、ベルは適当な枝を伐り小枝を払って支柱にした。あっという間に2張り完成させ、ディナーに招いていた。
作戦会議をしながらご飯を食べて一休み。真夜中に再出発。ショコラとプランタンに留守番を頼んで、沢伝いに森を進んだ。1時間程で、群生地に到着し、開花した望月花を採取、また1時間掛けてテントに戻って、ちょっと夜食を食べてから寝袋に包まった。
翌朝?寝付いたとも思ったらすぐにお日様に起こされた。実習生達がまだ寝ている様なので、寝袋でのんびりしていると、人の気配がしてすぐに居なくなった。実習生の男子達なんだけど、起こすのを遠慮したのか、黙って帰ったらしい。
もう少しすると、悲鳴が響き渡った。今度は女子の方が、結界の外に出て戻れずにいる所、魔物に襲われたらしい。急いで助けに行くと、魔物では無く野犬の群れだったので、ボス犬を締め上げると、皆んなおとなしくなり、ボス犬を放したら、さっさと逃げていった。あちこち咬まれていたけれど、命には別状無さそうなので、風香がヒールを掛けた。
テントに戻ると皆んな起きていたので、朝ごはんにして、テントを片付けた。さて降りようとしたとき、実習生女子達が大笑い。僕らは気付いていたけど、実習生男子達が、覗き防止のトラップに掛かった様で、真っ赤な顔に白地でスケベ。僕等のテントを覗いた証拠。寝袋なんだから、期待するようなシーンなんて無いのにね。気不味い2人はトボトボ付いて来て、馬車に着いてからは、御者席に逃げていた。
やっと街道に辿り着くといきなり盗賊に、囲まれていた。
「お兄ちゃん、折角カワイイ馬車で盗賊狩りの真似するんなら、女装でもしなきゃ騙されないぞ!」
盗賊は実習生を掴んで、引っ張って行った。緊急以外はなるべく手を貸さないのがルールだけど、今って緊急だよね?サッと飛び降りて、実習生を取り戻すと、
愛菜と音が飛び道具でバタバタと眠らせた。助けた実習生のヒールを風香に任せ、逃げたボスらしいヤツを追った。馬車に辿り着いて逃げ切った積もりでいるようだったけど、カトリーヌの号令で馬はビクともしない。諦めて剣を抜いて振り返った。立派な剣だけど、腕は伴っていないいので、軽く躱しながら手首を落した。毎度の事で、すっかり慣れた盗賊の処理を済ませ、支部に帰った。いつものように手続きを済ませロビーを出ようとすると、受付で騒ぎになっていた。望月花を提出した、さっき迄同行していたパーティーが、自力の採取と認められずにE+に上がれ無かったみたい。火球でボヤを出したお兄さんと、盗賊にボコられたお兄さんは、協会を辞めるらしい。一応、皆んなEランカーなので、3人でもパーティーは存続出来るけど、バランスが悪いんだよね。ちょっと心配なので、ご飯に誘ってみた。




