盗賊狩り
葡萄酒を飲みながら、お互いの呼び方を確認、あらたは姉貴の事は『姉さん』と呼んで、あとは名前の呼び捨てに決定した。姉貴が『エリカさん』から変えようって言った時の本人希望だった『姉さん』になって喜ぶのかな?
それからベルは少し考えて、
「中身は最年長で見掛けは1番幼いからのう、『ちいねえ』とでも呼ぼうかのう?」
「それはくすぐったいです!今まで通り『ちー』が嬉しいです!」
どうやらヒヤカシだったらしい。
「だが、儂だけ『エリカ』ってのも如何なもんかのう。」
そっちは本気のようで、
「被らないのは『姐御』くらいかの?」
別に被っても良くない?
翌朝、寝不足なのにやっぱり朝日と共に目を覚ました。姉貴は遅くまで裁縫頑張っていたので、ご飯が出来てから起こす事にしていた。
ヒソヒソ話しで今日の予定を確認。のんびりしても余裕で明るいうちに着きそうな宿迄が今日のミッション。協会の出張所がある位のちょっとした集落なので、あたらの着替えなんかも調達出来そうだ。
ヒソヒソが楽しくて大きくなったせいか、朝ごはんの香りか、元気に昇ってきたお日様のせいか、姉貴が起きて来た。
「おはよう、姉さん!」
「おっ、おはよ!」
姉貴は妙に照れ臭そうな反応だった。そう言えば、本人希望を聞いたときも、微妙な反応だったよね?何か思い入れの有る言葉なのかも知れないね。まあ、尋問するなら今夜酔わせてからが良さそうだ。
朝ごはんを食べて、お昼のおにぎりも用意してテントを畳んだ。姉貴は現状、猫専用席になっている馬車の寝台に寝転ぶと、相性の悪い黒猫達が逃げてくると思ったら、一緒に丸まっていた。
「ショコラがお姉ちゃんに懐くのを見て安心したんじゃないかな?最近は仲良しよ!」
いつもは3匹が奪い合う、風香の膝が空いていてちょっと寂しく見えたので、膝枕にして、
「ニャー!」
って鳴いて見たら、喉をゴロゴロしてくれた。思ったより幸せな気分になって、猫達の気持ちがちょっと解った気になった。少しすると、猫達じゃ無く愛菜が、
「交代の時間ですわ!」
僕を押し退けて猫になっていた。
お気楽道中は長くは続かない。見るからに『悪人が乗っています』って感じの馬車が。行く先の方から連なって近付いた。ただの対向車?全部で5台。2台がすれ違い、3台目が並んだ瞬間、ゾロゾロと予想通りの悪人ヅラの男達が大勢降りて来た。僕らの馬車は、アンヌの鱗で装甲車並みなんだけど、協会で用意してくれたこの馬車はどの位の防御力なのか試して見た。馬は結界で護って、様子を見た。
なかなか頑丈で、冗談みたいなサイズのハンマーを弾き返していた。次に来たのは赤く光った大マサカリ、
「コレは、流石に不味いわね。」
愛菜はマサカリの柄を魔力弾で折って、
「馬車の試験もソロソロいいわよね?」
誰かの返事を待ってる感じじゃなく、魔力弾を連射した。最近では珍しく、黒い力の防具を身に着けているヤツがいなかったので、総勢23名、あっという間に始末しちゃった。懸賞金一覧に無いって言うのが不思議な規模なんだけど、なぜか見つからない。
「有ったよ、北国のリスト!」
音が発見した。一人起こして様子を確かめると、フンと答える気は無いようだった。
「あら、残念ね!」
姉貴はもう一人起こすと、黙秘のヤツを球状の結界で包んで転がした。元のサイズになった猫達が奪い合ってじゃれていた。
後から起こされたヤツは、
「アイツ、どうなるんだ?」
「あの子達が飽きるまでは猫じゃらしで、飽きたらオヤツかしら?そうしたら、あなたが次の猫じゃらしね!」
姉貴は涼しい顔で盗賊を眺めると、
「安心して、生首は残すように躾けてあるから!」
「ななな、何でもするし、何でも話す!何か聞きたいから喋ってんだろ?」
姉貴の拷問の新しいパターンだった。震える早口で、色々話してくれた。盗賊狩りが北国と西国に出没するそうだ、女の子だけで馬車で移動して、自らが囮になって、襲って来る盗賊を返り討ちにするそうだ。東国では出ていないって言うんで来てみたそうだ。
「その『盗賊狩り』って白い馬が赤い馬車を引いてたりしませんか?」
「ああ、そうだ!見掛けは天使で、剣と魔法は悪魔だって言う話しらしい。」
どうやら、その盗賊狩りって僕等の事みたい。天使って言われるのは照れるな。でも、そのうち『拷問』も悪魔の括りにされるかも知れないね。その他には目ぼしい情報は無かったので、もう一度眠って貰った。猫じゃらしは結界の中で泡を吹いていたけど、息は有ったので、拘束のまま馬車に積み込んだ。
小さな集落に到着。出張所が有るのが不思議な位なんだけど、山で働く人達のオアシス的な場所になっているので、民家はパラパラだけど、宿や食堂、魔石商なんかは、ちょっとした町より充実している感じ。
出張所にあらたと二人で行って盗賊の引き渡しや報奨金の手続きをして、あらたのパーティ加入の仮手続きをした。見習いをしていた出張所にはソコから連絡してもらう。僕らがパーティー組めずに下請けをしていたのと同じような立場なので、挨拶程度で済んじゃったので先に商店街に行っていた皆んなを追いかけた。




