ガイド・新(あらた)
いつもの様に朝日と共に目を覚まし、山に入る準備。案内のお兄さんと朝ごはん。
「じゃあ、気を付けて帰って下さいね!」
皆んなで見送るつもりが、
「いえいえ!女性だけで小鬼のコロニーなんて危険過ぎです!俺も行きます!」
「ガイドも護衛も依頼してませんけど?」
愛菜がツンと言い放つと、
「俺、休暇取って来ました!荷物持ちだって必要でしょ?」
音は、ちくわを仕込んだウエストポーチに畳んだテントを仕舞いながら首を振った。
「火起こしから、火の番、薪集め、得意です!」
姉貴は近くの木の枝を短剣で斬り落として、粉砕するとそこに火を付けて焚き火を完成させた。
「ヒール得意です!」
風香は姉貴が斬った枝の切り口に、焚き火で燃やさなかった小枝を挿しヒールで繋いで見せた。
「雑用でも何でもしますから、どうか連れて行って下さい!」
懇願するお兄さんにベルは、
「ガイドとして依頼して、足を引っ張ったら即解雇って事でどうじゃ?」
皆んなの顔を見ると、しょうがないなって顔だったので、条件の確認と自己紹介。1日金貨1枚で3食、おやつ付き。
赤坂 新さん、17歳。Eランカーで協会職員見習いとの事。生まれ育った集落は小鬼の襲撃で一夜にして全滅したそうだ、たまたま学校行事で外泊していた当時の中学生4人だけが生き残り、新さんがその一人であとの3人は協会で小鬼対策の仕事に携わっているそうだ。つい先週一緒に小鬼退治をしていたお兄さん達で彼等は19歳との事。
「小鬼をやっつけたいんです!」
襲撃のあと、集落に帰って見た最初の光景は小鬼を孕んでいる可能性が有る女性の腹を割く作業で、家に帰ると愛猫が小型の小鬼、尺鬼に犯されている場面だった。尺鬼を斬って、既に息の無かった愛猫を火葬したそうだ。
「猫ちゃん飼ってたのね。お名前は?」
風香は黒猫達に人気なんだけど、元々猫好きなので、新が猫を失ったショックを深く理解しているようだ、
「あっその、いや・・・。」
隠すような名前?
「なんか、気を使っているようじゃな、ムリに言わんくても良いが、しばらく間、命を預ける仲じゃ、気兼ねは良くないぞ。」
新はちょっと黙ってから、
「ベル、ウチの猫はベルちゃん!昨夜も襲われた時の夢見ちゃったよ、絶対に仇を取るんだ!」
ん?ベルがめちゃめちゃ動揺している、
「お、お主の腕力じゃその刀は重かろう、これを進呈しよう。」
ボロボロだった刀がピカピカに!
「虫メガネで見たら名前が付いてます!『登鯉』です!」
「良い名じゃ、古来、『鯉は滝を登って竜となる』と縁起モノじゃ!」
「じゃあ、元々竜の私も縁起良いの?」
カトリーヌが嬉しそうに喰いついた。
「そうじゃな、日之出国の港町には、海の神様として祀られておるぞ!」
ご機嫌のカトリーヌとは対象的に、新は神妙な顔だった。
「そんな貴重な刀、頂いていいんですか?」
「お主が喜んでくれりゃ、儂の気が済む。」
「遠慮しなくていいわよ!君が強いほうが、アタシ達もラク出来るからね!ベルにも思う所が有るんでしょ?」
姉貴が視線を合わせたベルは微妙に赤くなっていた。昨夜同じテントだったので、僕らの会話を聞いていたんだね。悪夢に魘されていたのに、下衆の勘ぐりで、えっちな濡れ衣を着せてしまったお詫びのつもりみたいだね。新さんの同行が決まって山に踏み入った。
迷路のような獣道をスイスイ進む新さんに付いて行くと、険しい山の筈なんだけど、アップダウンもそれほどでもなく、途中には水場があったり、トイレにしやすい茂みが有ったり、快適なハイキングだった。
「こっちのアピールした方が仕事になるわよ!」
姉貴が驚く位だから、相当凄いんだなよね!
「勘だからね!確実に提供出来るかどうか解らないからね!オマケみたいな物さ!」
コロニーが見える所まで移動して、
「戦闘も、頑張ります!!」
見張りを矢で倒して洞窟前まで攻め入る。グルリと見渡し、他の見張りを射落とした。
「見えてるのかしら?」
愛菜はセンサに反応した見張りが新の手によって効率よく潰されるのを見て驚いていた。あと、ミルクを温める前からドンドン小鬼が出て来るので、急いで追いついて、二重結界で数を減らした。洞窟からの増員が無くなって一休み。
「見張り、良く見つけたね!」
僕はどうやって見つけたか気になって聞いてみたら、
「勘だよ!地形を見て、あの辺かもって思ったんだ。」
「あなたのガイドとしての能力は解ったから、いきなり一人で突っ込んだりしちゃダメよ!」
姉貴はちょっと怒った口調だった。ちょっと早いランチをしながら作戦会議。ひとまず、僕らのパターンを見てもらってからと言う事で洞窟に入って行った。
「ここは、さっきやっつけた奴らの巣です、数的に、この位のスペースならもう一つ位有りそうです。」
新は、奥を指差した。
そっちに進むと、隣の空間の入り口があって、同じ位のスペースだった。
「雑兵達のスペースはこのくらいで辻褄が合うので、次は武装した奴に注意です!」
新が指差す所には、結界で護られた入口が有った。愛菜は赤く光らせた東雲で破壊すると、
「デカイのが3匹ね!」
結界でガードしながら入ると、黒い力が籠もった鎧で武装したデカイのが3匹。ベルが洞窟内の黒い力を集め、奴らにブチ込むと、1匹は壁で圧死、2匹は左右に逃げて、片方は風香か結界で邪魔をしながら愛菜の白い霧で黒い力を浄化しつつ、音とベルが接近戦で鎧の力のを削り、黒い力が薄まった所を魔力攻撃でトドメ。もう片方は、姉貴の結界と僕の浄化で鎧をただのブリキにして、姉貴が子午棒を光らせて終了。
「また効率よくなったわね!」
姉貴もご機嫌で次の間に進もうとした。
「待って下さい!」
新が呼び止める。姉貴の事なので、無警戒で突っ込む訳じゃ無いけど、一応忠告は聞いて留まった。新が倒した小鬼の腕を斬って隣の間に投げ込むと、入り口部分が落とし穴になっていて、底には黒い力に満ちた刃物が上を向いて待ち構えていた。姉貴なら回避出来るかも知れないけど、かなり危なかったのは間違いない。
「なんか、嫌な感じで・・・。」
新は何事も無かったように、別の隅っこを指して、
「あっちです!勘ですけど。」
罠に注意しながら進むと、結界に護られた入口があり、東雲で突破すると、中は交尾のスペースだった。姉貴と風香の二重結界で順番待ちしていたオス10匹位を始末、残りで手分けして小部屋のような窪みで交尾中の小鬼を処分。交尾に集中して異変に気付かぬまま、サクサクと片付いて行った。他にも部屋は無いか確かめ、来た道を戻った。
洞窟を出て深呼吸、まだ陽は高かった。




