コロニーの秘密
朝、食堂でご飯を食べていると、計算通り、未就学児に見えるようになった3人組と、蛍先生の同級生3人組がやって来た。効き目を確かめながら、キッチリ結果を出せるのはやっぱりお医者様。ひかりさんも満さんも計算通りの変化なんだけど、長年培った親子関係は一朝一夕で覆る事はなく、同じ位の年齢だけど、やっぱり3姉妹に見えた。昼の出港で帰国、港を離れる船が見えなくなるまで見送った。
ジョンホじいさんの研究の内容が解って来た。『小鬼使役案』が採用されず、山に籠もり独自で研究を進めていた所、非常識な研究を止めさせようと、彼の妹が連れ戻しに行ったそうだ。その時、ジョンホは長く洞窟を留守にしていて、帰った時妹は、飼っていた小鬼に襲われ、骸になっていた。その骸を相手に交尾をしている小鬼を斬り、妹を埋葬しようとすると、骸は小鬼を産んだ。産まれてきた小鬼は奇跡的な確率のメスだった。
産まれたメスは半年で繁殖可能に育ち、ジョンホは自分の子を産ませ続ける。1ヶ月程で出産するので、5年程で53匹、うち13匹がメス。自分の娘に自分の子で孫を産ませた。オスが産まれたら食料にして、メスだけのハーレムを作ったらしい。攫って来た人間の女性に自分の子を産ませたのが、パダ達らしい。産まれる小鬼が全て自分の子孫になるような作戦との事。その後、知能の高いオスを選別して残し、集団行動を叩き込んで軍を作り猛獣のメスを捉え混血魔物を産ませた。いいとこ取りのメス達に自分の子を産ませたのが、洞窟で僕等の花婿になろうとしていた奴ら。
合成魔物は数年前に成功し、今回倒した奴らが数少ない成功事例。これから人間に復讐する計画だったらしい。黒い力を操るグループとは別モノのようだった。ただ、人間に近いサイズの角無しを隔離し、角無し同士で繁殖させて出来た、見掛けはほぼ人間な角無しが15年位前に集団で脱走しているそうだ。高知能な小鬼の被害が出始めた時期に合致していた。そっちの集団の関与が疑わしい。
他のコロニーはジョンホの子孫が脱走して作った物らしい。独立したコロニーにはメスを数匹贈り支援したようだかその後コロニーがどうなっているかは把握していないそうだ。
1つ目に潰したモノと他3ヶ所が子コロニーで、孫コロニーと思われるのが1ヶ所。ジョンホの関わるコロニーは計6ヶ所。あとの4ヶ所は北側、岬の付け根の方に集中しているので、別の仕事が有るお兄さん達とは別れ、僕達だけで北へ向かう。
1週間のお休みを終えて北へ向かう。おっちゃん達と一緒に来た時の馬車なので、ベルが増えても余裕で、寝台は猫達の特等席になっていた。
「新入りじゃ、儂が手綱を取ろう。」
ベルが馭者席を陣取ると、すれ違う馬車は馭者だけじゃ無く座席の人までわざわざ窓を開けて凝視していた。
嫌な予感がすると、人里を離れて間もなく、盗賊達が押し寄せた。
「ちょっと、今の身体を知っておきたいんでのう、任せてもろうて良いか?」
ベルは馬車を飛び降り、盗賊のボスらしき奴の兜をサクっと斬ると、河童頭で泡を吹いていた。子分達が刀を振り上げ迫って来るが、サクサクと手首を落として行った。僕もそうだったけど、女は商品だと思われているんだよね。盗賊達は、本気では斬って来ないんだ、ボスがキレる迄はね。ベルはボスを挑発して本気を出させた。格段に強力になった剣を軽く躱し受け流し、バタバタと倒して行った。手際よく拘束して、落とした手首をヒールで繋いだ。拘束した盗賊達をショコラが咥えて、彼らの馬車に、積み込んだ。積み込み完了と思ったら、次の盗賊達。珍しく魔法を使う盗賊だった。ベルは嬉しそうに迎撃した。魔力弾で眠らせるつもりらしいが、ベルは飛龍をサッと振ると、魔力弾は数倍の輝きで撃った元に返った。撃った本人だけじゃ無く、盗賊団を一掃してしまった。ベルは飽きたようで拘束を手伝った。
「どんな悪さしたんじゃ?」
魔力がある人なら、盗賊に身を落とさずとも、仕事に困るはずは無いんだけど、魔法を犯罪に利用するとペナルティーが大きく、表の仕事に就けないので、こうなってしまう事になってしまう。
その後もちょっと進んでは盗賊に会う。面倒なので全力で瞬殺する。猫達が、元のサイズになってネコパンチで一発KOとか、飛び道具で殲滅とか派手に潰して、下っ端を1人逃して、噂の発信源になって貰った。午前中は馬車を進めるより盗賊の相手をしてる時間が長かったかも知れない。
お弁当を広げていると、如何にも駆け出し風の盗賊?恐る恐るやって来た。結界で拘束すると、
「ま、待って下さい!協会の者です!統括とご一緒だった皆さんですよね?」
ありゃりゃ、盗賊じゃ無かった!盗賊風の馬車が何台も連なって走っていると通報があったそうだ。
「少し遠回りなんですけど、この先を海側に出ると出張所があります、手続きして身軽になったら如何でしょう?」
早速話に乗って出張所ヘ向かった。報奨金の手続きをして、戦利品はほとんど売って、ベルが目を付けた刀をひと振りだけ残して旅に戻る。
協会のお兄さん情報では、この先海沿いの方が馬車移動は長くなるけど、集落が点在して盗賊も魔物も少ないし、馬車からコロニーまでの道なき道が短い可能性が高いので海沿いの道を勧められた。地元の人のお話しを信じて海沿いを走る事にした。
お兄さんは地図を見せて、
「今はシーズンオフですがキャンプ場です。馬車でここまで行って、明日の朝から山に入るのがベストだと思います。」
そう言うと馬に乗って、
「では、ご案内します!」
一緒に行くとも何とも言ってないのに、勝手に先導を始めた。取り敢えず付いて行く事にして馬車に揺られた。
午後は盗賊に足留めされることもなく、休憩がてらキノコや山菜を採ったりして、予定通り日が変わる前にキャンプ場に到着した。キャンプ場にはたいてい、立派とは言えないけどトイレが有るので有り難いんだよね!皆んなは結界で簡易トイレにしてるんだけど、僕はこっそり済ませるか、誰かに結界を頼まないといけないので、結構気が重いんだよね、頼めば快く張ってくれるし、自分の時に誘ってくれたりするから、実質的には困っている訳じゃ無いからいいと、言えばいいんだけどね。
テキパキと竈を作ってテントを張って、ご飯の支度。ご飯を済ませるとあっという間に爆睡した。ベルは残した戦利品のボロボロの刀を研ぎ直していたみたい。少しして、隣のテントで魘されているお兄さんの声で目を覚ました。長く続くので様子を見に行こうと思ったら、
「気付かなかった事にしてくれんかのう。」
「えっ?随分苦しそうだよ、大丈夫かな?」
「アレはいい夢観てる筈じゃ、パダ達が布団でやっていたアレじゃ。」
そう知ってから聞こえる声は、ベルを呼んでいるようにも聞こえた。
「先週迄ジジイだったって話せば正気に戻るかのう?まあ今夜は大目に見よう。」
ベルは複雑な表情で寝袋のファスナーを引っ張り上げた。




