合成魔物
強い結界(愛菜評価)で護られていたスペースには、角無しのオスが大勢暇を潰す様にダラダラしていた。僕らに気付いた一匹が武器を取ろうとしたので、音の魔力刃が斬り割いた。異変に気付いてそれぞれ武器に手を伸ばしたが、手に出来た奴は優秀な方で、殆どが触れも出来ないまま骸になっていた。空間の浄化を済まし、お兄さん達は、実態どころか存在すらよく知られていない『角無し』の研究サンプルと報奨金用に耳を集めていた。
次の部屋へは、結界ではなく扉で仕切っていた。向こう側からしか開かない仕掛けのようで、ちょっと様子を見る。ガツンと強行突破も可能な強度に見えるけど、今の時点で向こうからの助っ人が来ていないと言うことは、戦力になる奴が誰も居ないか、こっちの状況に気付いていないかのどっちかだよね?知らずに出て来た奴から片付ける算段。
「中には、20匹、2匹ずつくっついて殆ど動いていませんわ!」
これまでのパターンから推測すると、扉の向こうは交尾のスペースで、こっち側は待合室的なスペースなんだろうね。
「一匹来ましたわ!」
扉の向うからノックの音が2つ。こちらも真似て見ると、角無しのオスが出て来た。抵抗は勿論、声を出す暇も与えずに始末する。5匹目が済んだところで、代わりのオスが入っていかない事に、メス達が気付いたらしく、10匹は奥の方に行って気配が無くなり、5匹が扉の直ぐそこに集まって来た。愛菜は扉ごと魔力弾を撃ち込むと、
「あと2匹ですわ。」
崩れ落ちた扉から一匹が顔を覗かせるとベルが少し動いて、気が付くと角無しは首無しになっていた。
最後のオスは逃げ出した。極光を構えた音に、
「掠めるだけにせい、泳がすんじゃ!」
音が頷くと、角無しの腕が転がって、本体は、向う側の岩壁へ駆け寄って、そこを叩いている。
「あそこが次の間への入り口じゃ、あいつにゃもう用は無しじゃ。」
また音が頷くと、最後のオスの首が転がった。
角無しが教えてくれた入り口は、隠し扉と結界でガード。少し努力をしたことが感じられる愛菜は赤く光っていた東雲を鞘に収めた。
「格段に厳重でしたわ!」
「では、カラクリは儂が・・・」
「ちょっと、どいて!」
姉貴が、子午棒をかかげて目一杯の助走。慌てて避難すると、大木サイズの子午棒が隠し扉になっている岩を直撃した。粉砕?と思ったけどビクともしなかった。ただ代わりに、周りの壁が崩れ落ちた。
「せ、狭い所、屈んで通るよりいいわよね?」
姉貴は、照れ臭そうに笑った。
次の間は、なんにも無くって更にその次の間への入り口だけだった。
「大きいのが一匹ですわ!」
魔窟なら、お宝リーチって感じだけど、そうも行かないよね?扉も結界も無く、すんなり通過すると、何の魔物?熊のような虎のような?狼みたいでもあるし、ホントに解らない。解るのは、小鬼のハーフって事かな?
「ありゃ小鬼と猛獣の混血じゃ、色んなのが混ざっているんじゃろう。」
ベルの解説によると、通常違う種のハーフは産まれ無いんだけど、小鬼ハーフ同士なら、何でもアリらしい。例えば、小鬼と熊のハーフと小鬼と虎のハーフで熊と虎の要素を持つ魔物が産まれるそうだ。色んな猛獣で強い魔物を作ったのかも知れないってベルは感心していた。
二足歩行で大剣を構える。飛び道具で片付けようとしたけど、魔法が効かない。結界も張れず、猫達はペットモードでおとなしくなり、カトリーヌは人型でぐったり。入り口迄戻ると結界は張れて、辛そうだったカトリーヌ達は復活していた。僕だけ残って、合成魔物と対峙した。靭やかで高速な動きはネコ科の遺伝子かな?パワーは熊だろうか?かなり押されながら、弱点を探した。間を取って様子を見てみると、風香の矢が魔物を捉えた。と思ったら、草食動物の視野を受け継いでいるようでほぼ真後ろからの矢を辛うじて払い落とした。体勢が崩れた所に斬り込んで、剣を叩き落とした。チャンスだと思って更に踏み込んだけど、手と前足を巧みに使い分けて懐に入り込めない。剣よりも爪の方が厄介かも知れない。剣を叩き落とした時の傷がハンデになって少しずつ攻勢になって来てやっと互角かな?って所で、奴は焦ったのかな?一発でケリを付けるつもりだろうか、前足(手?)を振り上げた。今度は正面から風香の矢が眉間を貫いた。何とか倒して、魔法が効かない原因をさぐっだ。周りを調べているとプランタンが透明の魔石を拾って来た。虫メガネで覗くと『消魔石』文字通り、魔力を打ち消す効果があるそうだ。
「あと3つある筈よ!」
姉貴がそう言ったら、黒猫達が競うように探しに行った。
「あの子達、姉貴の言う事聞くんだ!」
驚いていると風香が、
「ショコラが来て、お姉ちゃんに懐いているのを見て安心したみたいなの。」
程なく3匹は消魔石を見つけて戻って来た。ポーチに仕舞ってから魔法を確かめると、皆んなキッチリいつもの力を発揮出来た。
次の間はまた結界も何も無しで入れそう、愛菜は中の様子をチェック、
「10匹なので、さっき逃げたメスじゃないかしら?」
扉を潜ると先に潜ったお兄さん達が、盾で矢を受けてくれていた。愛菜の予想通り、角無しのメス確認10匹、二の矢を番える前にサクサクと首を落とした。
愛菜のセンサーでは10匹で完了の筈なんだけど、もう一匹何か動いた。猫達はすでに消魔石を回収していたので結界の中から様子を窺うと、じいさんが一人、
「不法侵入者め、好き放題やりやがって!」
ボウガンを連射した。消魔石の効果が切れている事に気付いていなかったようで、矢が弾かれて驚いていた。人間?人間だから魔物センサーに引っ掛からなかったの?姉貴はじいさんを結界で拘束、他の敵や罠を確認してから尋問をスタート。
「ジョンホ?ジョンホじゃろう?」
「何だお前、俺を知っているのか?あん?!青梅さんの幽霊か?」
「儂じゃ、儂じゃ、文京鹿雄じゃ。今は訳あってこんなナリじゃが、お主の同級生の鹿雄じゃ!姉の青梅にソックリじゃろう?」
あのじいさん、ベルって言うか、鹿雄さんの同級生なんだ!ここで何してるんだろう?




