極秘任務
裁縫作業が一段落の姉貴は、
「あとは手縫いで始末するだけだし、秋冬物とコートだから、宿で仕上げるわ!」
今の店主にお礼を言って、レンタル代として魔石を渡した。
「コレじゃあ、月の家賃より高価ですよ!」
「今は羽振りがいいから受け取ってね!」
姉貴はスーツケースにチクワの残りと裁縫の仕掛り品や道具を詰めて、馬車に乗った。魔窟に近い宿に泊まってご飯とお風呂。姉貴は裁縫の続きを頑張っていた。
いつものように朝日と共に起きて、朝湯に浸かってから朝ごはん。馬車屋が開くまでちょっとのんびり。馬車を返してから入窟。今日は最近の冗談みたいな大漁じゃ無かった。4階層まで降りた所で、
「あの円盤出して頂ける?」
愛菜が不思議なリクエスト。ポーチから出すと、
「ポケットにでも入れておいてくださる?」
取り敢えず、言うとおりにして魔物に対った。この階層はザクザク。5階層に降りると、
「円盤、ポーチに仕舞ってくださる!」
ん、この円盤ってアイテムの出方が変わるの?5階層はホドホド、6階層は出してザクザク。『便利な物』の正体が判明した。ザクザクのまま9階層、トンネルを通って東国の地上を目差した。
協会の人達との待ち合わせ場所は岬の付け根の魔窟のある集落で、まだ2日あるので、サッサと魔窟を攻略する事にした。
かなり辺鄙な土地柄なので、一つしか無い宿はガラガラ。魔窟の受付は無人で、メンバーの名前とランクを書いた紙を書いて受付ポストに入れるだけ。売店も無かった。
ガンガン潜ってマップの最下層の26階層まで降りた。普通に片付けて更に降りる。新規開拓って感じじゃ無いので、クリアした人が報告しなかったのか、マップの更新が追い付いてないんだろうな。29階層は黒い力に支配されていた。浄化を進めると、大蛇かな?薄明るくなると、鎌首を上げて2つに割れた舌を出した。風花の魔力矢が脳天を貫き瞬殺した。
いつものようにプランタンが下層への通路を探し、リアル招き猫になると愛菜が、鞘で突いて道を開いた。下層はいつもパターンで、黒い力を浄化すると、お宝が見えた。
砥石と水差し
虫メガネで見ても、『砥石』と『水差し』たぶん、めちゃ切れるようになったり、魔力が付加されたりするんだろうね。取り敢えずポーチに仕舞って地上に引き返す。
帰り道、まあ同じ感じで登って無事クリア。宿に入って砥石を試して見た。ノーマルな短刀を研いで見た。虫メガネで見ると、何か魔力が纏っていた。試し斬りしようとしたけど、手頃な物は無いし、魔窟のお宝ってとんでもない威力の可能もあるので、またの機会にして、ご飯にした。
宿の料理は岬風で、唐辛子とニンニクが効いたスパイシーなメニューだった。大陸向けにアレンジして辛さ控えめって言ってたけど、それでも結構辛くて、空腹を回避するだけの食事だった。一緒に飲んだお酒も白濁したちょっと酸っぱいお酒で、岬酒と言っていたけど、どうしても飲め無かった。何でも飲むと思っていた姉貴でも一口飲んだだけだった。代わりに、東国の米酒を飲んだ、日之出とは違って、蒸留酒なので、水割りとかで飲むのが主流みたい。炭酸水で割って、果汁を入れるのが最近の流行りと言うことで、柑橘類で作って貰った。スッキリ飲みやすく、結構沢山飲んじゃったかな?たぶん二日酔いにはならなくて済みそうかな?お風呂に入って布団に潜る。姉貴は裁縫の続きを頑張っていた。
翌日、協会のオジサン達が到着。この前のメンバーとオジサンが3人。あっ、おっちゃん!ナベさん!バラさん!極秘任務ってココの事だったんだね!おっちゃん達が一泊して体力回復してから明日出発する。宿オススメは岬料理だったけど、僕らがキャンセルして保存食で済ませると言ったら、おっちゃん達もこっちがいいって事になり、四季の姉さん達に教わった保存食ディナーを振る舞った。姉貴は日之出国の米酒をストックしていたので、ちょっとした宴会になった。
「チー坊、剣だけじゃ無く、包丁も使えるようになったんだな!」
おっちゃんは遠回しに料理を褒めてくれたのは解ったんだけど、照れくさいので、
「おっちゃんも3枚におろしてみる?」
おっちゃんの首筋に菜箸を当てた。流石に冗談でも包丁を突き付け訳にはいかないからね!菜箸でも結構ビビっていた。
四天王が揃うのは、父さんと母さん(と胎児だった僕)が魔王を封印して以来なので、皆んなハイテンションで姉貴は今まで見た中で1番幸せそうに見えた。
「限界前にお開きにしましょう。」
バラさんの提案に、おっちゃんとナベさんは、
「風呂入って寝るか!」
と盃を置いた。まだ飲むと姉貴はゴネていたが、おっちゃん達が風呂に行くと、変身したのを忘れたのか、男湯に追いかけて行った。まあ、昔馴染だから放っておこう。
しばらくすると、ノックの音とバラさんの声、
「エリカさんが潰れちゃいました。」
戸を開けると、お姫様抱っこで浴衣に包まれた姉貴が運ばれて来た。ナイスバディに変身した姉貴が男湯に乱入した事を謝ったら、
「中身は代わらないので気にしませんよ。」
バラさん至って平常な表情で、
「長い髪の処理が解りませんので、お願いしてもいいですか?あとコレも。」
姉貴が脱いだ物を渡してくれた。風香が引継いで、髪を乾かして布団に寝かし付けた。やっと落ち着いたと思ったら、おっちゃんが来て、
「永吉のあんな幸せそうな顔、初めて見たぜ、チー坊達のお陰だな。」
ほぼ変顔になっている姉貴の寝顔を眺めて、おっちゃんも幸せそうだった。
翌朝、定番の早起き、朝風呂、朝ごはん。食後のお喋りを楽しんでいると、生きているのがラッキーだねって感じのおじいさんが3人やって来て、
「よし、出発するか!」
おっちゃんの声だった。
良く解らないけど、変装なんだよね?取り敢えず出発した。




