耐魔繊維
病院の近くのホテルに泊まり、蛍先生の案内で、ひかりさんの研究所を訪れた。
「ママ、久しぶり!」
ん、病院に、お母さん居たよね?僕が不思議がっているのを気付いたのか、ひかりさんは、
「はじめまして、本来は蛍の父の光です。」
姉貴が変身する前とは違い、普通にお洒落なおばさんだった。ファッションの仕事がしたかったけど、病院を継がなければならず、医者になったそうだ。跡継ぎが出来たら、病院を出て好きな道に進んでいいとの約束で、蛍先生が医師免許を取った時点で、院長との約束をクリアして、晴れてパパからママになったそうだ。
姉貴は、
「コレ前ので、こっちが今の!」
2つのライセンスプレートを見せて、同じ境遇だった事で意気投合していた。目的の耐魔戦闘服の事はスポっと抜け落ちたように、マイノリティあるあるで盛り上がっていた。僕らはスタッフのお姉さんに、繊維の事や、染色で機能を付加出来る事を教えて貰っていた。僕らの情報は先に伝えてあったので、デザインを決定すれば今日のミッションはお終いなので、姉貴には普段は出来ない会話を楽しんで貰った。
姉貴とひかりさんがやっと落ち着いて、デザイン選定に参加した。
「父さんじゃなく、蛍に聞いとくべきだったわね。」
『学校出たての女の子』の情報でのデザインだったそうで、
「エリカにはちょっと厳しいかしら?でも折角ならお揃いが良いわよね?あっ、そうそう!!変身した時の若返りのお薬をもう7、8歳分飲んだら?」
僕は手持ちの素材を確かめて、麦酒と蜂蜜があれば作れると伝えると、
「じゃあ、ひかりも思い切ってみる?」
返事を躊躇うひかりさんの様子を見て蛍先生は、
「完全にママになるんでしょ?私は賛成よ!こうなるかもって、おじいちゃんにも言ったらすっかりその気だったよ『嫁に行くなら、一緒に赤絨毯歩いてやる。』って伝言頼まれたよ!お母さんもその方がスッキリすると思うな。」
父と娘の同意を得たひかりさんは目を輝かせた。
姉貴はサクサクと支度をして、若返りの薬が出来たら、半分をひかりさんに飲ませてから、変身魔法を掛けた。自分に掛けた時は黒い力を使って無茶な魔法だっけど、今回は紫の魔石、ネックレス、ピアス、指輪に加え、特大の紫魔石を谷間に挟んで安心の魔法を掛けた。
紫に鈍く光ったと思ったら、さっきより少し老けたひかりさんが立ち上がってあくびをした。
「老眼が治ってる!」
ひかりさんは肝心な変身の事より、屈伸したりして、体調の変化を楽しんでいた。姉貴が聞くと、
「もう何年も変身したつもりでいたからうっかりしてたよ!」
照れ笑いしながら、魔法の成功を確かめていた。
姉貴は若返りの薬の残りを更に5等分して一つだけ飲んで、残りは封印した。
「見掛けの変化は、ひと晩眠った翌朝だから、結果を見て追加するわ!」
ひかりさんのイチオシでデザインは決定して、ホテルに戻った。近くの日之出料理の店に行って晩ごはん。流石は本場と思ったけど、『味』のクオリティーの高さに改めて驚いた。お酒は地酒のいい物が揃っていて、しっかり堪能出来た。
ホテルはツインの部屋が3つ。風香、音と黒猫達で一部屋、愛菜と僕とシフォンとカトリーヌで一部屋、姉貴が一人で一部屋。
「一人で寂しくない?」
「だ、大丈夫!うん、平気だよ!おやすみなさい!」
逃げるように部屋に入った。
翌朝、いつものように日の出と供に目を覚ました。姉貴の様子が気になったけど、あんまり早く起こすのも気が引けて、朝食の時間まで我慢する。隣の部屋が騒がしくなったので、きっと3匹の風香争奪戦が始まったんだろうね。ノックしてみると、予想通り。プランタンは、音の膝で高みの見物。
「お姉様、起こしましょうか?」
愛菜も薬の効き目が気になっているようだった。風香も音も気になっていたけど、あと少しで朝食の時間なので我慢していた。
ノックの音がして、姉貴の声で、
「おはよう、皆んなこっちなの?」
急いでドアを開けると、ちょうど良く若返った姉貴が入って来た、
「気分はどう?」
「えっ、そりゃあ気持ち良かったよ!変身する前はした事無かったのよね、寝落ちする迄止められなかったわ!」
「あ、姉上!何の話し?」
「何のって、ひとりえっ、あっ、いや、何でも無い!朝ごはん何時からだっけ?」
ハイティーンの見掛けになった姉貴は立派な膨らみは健在ながら、妖艶さがかなり薄まった感じだった、清楚なお姉さんが真っ赤になって、昨夜の体験を話してくれた。変身以降、夜を日に継いで馬で僕らを追いかけて、合流してからは一緒の部屋だったり、テントや馬車で寝ていたからチャンスが無かったみたい。聞いた僕らは、姉貴より真っ赤になって、少し落ち着いてから朝食に向かった。
「ひかりの様子見に行こうか?」
戦闘服は一週間掛かる予定なので、その頃に行く予定だったけど、変身の様子が気になるのでお邪魔する事にした。
研究所に着くと、蛍先生が出迎えてくれた。
「蛍先生、病院は?」
「私、ひかりよ!」
姉貴の計算が間違っていたようだ。自分の経験から、変身の副作用でプラス25歳、薬を全部飲んでマイナス50歳で、現在の25歳と過程して、副作用分と相殺するように、薬を半分飲めば、女性への変身だけになると踏んでいた。どうやら、姉貴が老化したのは、変身の副作用は微々たるもので、大半はその時に使った、黒い力の指輪のせいらしい。良く良く見ると蛍先生のお姉さんって感じのだった。
体調も安定していて、何の問題も無さそうだった。ひかりさんは遠慮がちに、
「スタッフの2人が私の方が若くなったのを気にしてるの、昨日の残り一服ずつあげてくれないかな?」
ナイショにしてもらう口止め料を兼ねて、二人にも若返って貰った。
「ワガママ次いでに残りもお願いしていいかな?」
「いいですよ、外にばら撒く様な物じゃ無いし!」
「じゃあ、飲んで欲しい人を誘ってみます、お泊りのホテルで晩ごはんでもご一緒しましょう。ちょっと待っていて下さいね!」
ひかりさんは、通信の魔道具で誰かと話し、
「今夜の7時、ホテルの最上階にあるレストランでお待ち下さい、蛍も来ますから。」
研究所の見学が面白くて、色々聞きながら夕方まで教えて貰いながら一緒に働いた。僕らの戦闘服のデザインを見ながら、
「ここのリボンはシルクです、カイコは普通、桑の葉しか食べないんですけど、ひかり先生の新技術で、薬草で育てる事に成功したんです!」
フリルとか、可愛いだけかと思ったけど、それぞれ意味がある事を聞いて驚きながら就業時間を迎えた。




