輝曜石
先生の師匠は、飄々とした感じのおじいさんだった。血液を抜いて、キレイにして身体に戻すそうだ。血液は空気に触れると固まってしまうので、特殊な装置を使う。輝曜石と言う特殊な魔石を使うんだけど、小さいのが何個かある位ですごく時間が掛かるそうだ。
「石がもっとありゃな。」
「輝曜石ってどんな石ですの?」
愛菜が聞くと、おじいちゃん先生は機械から石を出して、
「これだよ、この虹色だよ!」
「少しお待ち下さる?」
愛菜は高額過ぎて、買い取って貰えなかった魔石を持ってきた。虫メガネで確かめると、輝曜石って確認出来た。
「デデ、デカいな!コレなら2、3回で済むぞ!」
3日に一度して、2ヶ月ほどって言ってたので、かなり短縮出来るんだね。
まだ、首から上しか動かないし、声もで無いけど、そんなに早く治るのかな?
ベッドに寝かされ管の付いた針を2本打たれた。しばらく寝たまま待たなきゃならないけど、元々動けないので特に問題無いよね。3時間ほどの治療で、なんと自力で起き上がる事ができるようになっていた。
驚いたのは先生達も一緒だったようだ。追加した輝曜石の大きさに先ず驚いて、石のパワーに驚いたそうだ。極めつけが、僕の回復力。寝不足の時にちょっとお昼寝したようなスッキリした目覚めみたいだと、少し呆れ気味に笑っていた。
お喋りが出来るようになって、露天風呂の襲撃事件の経緯を話して、チョエンの事も説明した。魔王復活の邪魔になる僕を始末する為、薬草採取の依頼と称して、オオカミの魔物に襲わせた事、そのオオカミを返り討ちにした事を逆恨みしている事も話した。
お粥と何かを摺り下ろした物、それから薄いスープが今日のランチ。胃袋のリハビリとの事。他の皆んなは、食事制限無しの患者さん用と同じランチ。
慣れない異国で宿を探したり、病院に通うのも大変だろうと、特例で皆んなも入院?病院に泊まらせて貰っている。昨夜は、空いていた病室を借りていたらしいけど、僕の容態が良くなったので、この部屋にお引越し。本来は4人部屋なんだけど、他の3つのベッドと床にシートを敷いて寝袋で寝たりしている、定員をひとり位オーバーならテント泊に慣れているので快適な方なんだけど、ペット持込不可なのでカトリーヌ達も人型で過ごしているから、かなり混雑している。
「本当に『魔族の3石』なのかな?僕を倒す為に魔族のお宝使っちゃうって作戦的にどう?って気がするんだよね。」
「敗戦確定と相手の主力と欠いた延長戦どっちがいい?アタシは延長戦ね!」
姉貴が考えるチョエンの作戦は、魔王を滅する僕が1番の敵で僕さえ居なければ、魔王復活に必要な魔力なんて、十数年もあれば貯められるので、奥の手を使っても惜しくないだろう、って感じ。
「オオカミが殺られて、理性より感情の戦かも?」
音は、人海戦術で同時に部屋も襲撃していたら、僕は助からなかったかもと推測、3石があれば自分の手勢で勝てると踏んでの独断専行と考えていた。
「自分、思うに、あのオオカミも、普段は可愛いのも知れないから・・・。」
プランタンを撫でながら、視線を落とした。
「魔窟で幹部クラスを始末したから、アレが総攻撃ですの!」
愛菜は勝鬨の様なドヤ顔で言い切った。
「希望的には愛菜説ね、わたしもそう思いたいけど、音説だと思っていた方が安全ね!」
スプーンだけで用が足りるランチはあっという間に食器だけになった。
「族を5人やっつけたあと、気を失ったみたいなんだけど、その後なんか、身体を、抜けてたって言うか、幽体離脱みたいな感じだっの。」
愛菜の肩を揉もうとしたら反応した事や、姉貴と大将に朝イカ食べるように叫んだら交代で、ご飯にした事を話すと、
「ホントのホントでギリギリだったのかもね!アタシも変身魔法の時、黒い指輪外してくれる迄、そんな感じだったわよ。」
姉貴は箸をおいて話しを続ける、
「魔族の3石かどうかは置いておいて、この攻撃って対策が必要ね。ちーだったから生きてるって考えた方が良さそうよ!」
「自分は、魔晶石の箱とか、薬剤師が落として行った手袋にあの力を遮断する能力があるって思う。」
確かに、真っ白だった箱考えた蓋を開けると、真っ黒になったし、手袋を嵌めて扱っていたよね?音がそれを嵌めて僕の手から魔晶石を取ってくれたんだから、きっと正解だよね!
虫メガネで、覗くと『綿80、絹10、ウール10』と特に変わった事のない生地だった。
「それなら、せがっ、むむむす、んっ、娘が研究している、蛍は本を持ってた筈、読んでみりゃいい!」
解らない噛み方で、娘さんの研究を教えてくれた。蛍さんって言うのは、僕を連れて来てくれたお姉さん先生の事。おじいさん先生は、蛍先生のお祖父さんなので、蛍先生の伯母(叔母)さんの本って事かな。
おじいさん先生の回診が済んでしばらくすると、蛍先生が『耐魔繊維』と書かれた、いかにも専門書って感じの本を持って来てくれた。著者は『土方 ひかり』、おじいさん先生・土方院長先生のご息女だね。
「簡単に言うとね・・・、」
さほど簡単とは思えない説明を聞いた。ザックリ解ったのは魔力の除去に使う薬、例えばモルミとかの材料になる薬草で育てたカイコから出来た絹、同じく薬草で育った羊の毛、根を煎じて薬にする特殊な綿花で紡いだ綿を使った布で黒い力を遮断するらしい。
「退院したら行って見るといいよ、本の文章からは想像出来ない人だから、会った方がちゃんと解るからね!」
元気になってくると、ベッドに居るのが辛く感じて来た。一応、生死の渕を彷徨ってきた自覚はあるので大人しく我慢。皆んなは『耐魔繊維』で勉強したり、図書館で調べ物とか、屋上で日向ぼっことかして過ごしていた。お粥が、糊みたいな物から、お米の原形をとどめた物に変わってきて、おかずも噛んで食べる物になった。点滴も外れて、2回目の血液洗浄で、
「もう大丈夫!」
あまりにも早い回復におじいさん先生は目を丸くしていた。
治療費を聞こうと思ったら、
「輝曜石、10で譲ってくれんかの?」
あれだけ虫メガネで見ても値段解らなかったんだよね、治療費の足しになるかな?でも、特殊な治療見たいだから全然足りないかもね!
「いいですよ、それよりも治療費は?」
「いやいや、実は、今どう掻き集めても15箱で精一杯なんじゃ、あと半分、待って貰う利息って事だと有り難いんじゃがのう。」
「えっ?10枚じゃ無くて10箱?しかも全部じゃ無くて1個分?そんな大金受け取れませんよ!元々差し上げるつもりだったんですから!」
色々交渉して、治療費とひかりさんの所で、耐魔戦闘服を誂える費用、出来上がる迄の滞在費用を先生が負担してくれる事になった。




