日之出国
『味』の大将が、朝イカを持って来てくれた。朝獲った物を朝食べるのが1番旨いと昨夜言っていて、毎朝揚がる物じゃないので、入ったら持って来てくれるって言ってたっけ。
僕の状態を知ると、イカの箱を宿の人に押し付ける様に渡して、帰って行った。程なく若い女の人を連れて戻って来た。二人ともゼイゼイ息を切らしていた。
「日之出国の女医さんだ、若いうちは修行を兼ねて、大陸に薬草なんかを買い付けに来るんだ、向こうの良い薬も有るから診て貰え!」
先生は僕の目や口の中を調べ、何か薬を飲ませてくれた。モルミを精製した物だそうだ。口と鼻を覆い、そこから管で吹子に繋がっていた、愛菜に白い霧を吹子に集める様に指示、肺に霧を送り込んでいるらしい。
『折角だから、朝イカ食べて来たら!』
姉貴の耳元で叫んだ。大将の耳元でも叫ぶと、
「センセイの手伝いは俺がするから、朝メシ食ってきたらどうだ?貫徹だろ?」
「そうね、ちーだったら、大将のご厚意無駄にするなって言いそうね!」
姉貴は東雲を受取り、音と愛菜を朝ごはん休憩にした。
「あの娘、すっかり使いこなしてるのね!」
実質Aランカーで経験豊富な姉貴でも、白い霧を出し続けるのは難しいらしく、大量に出たり、途切れたりしていた。
先発の二人が戻り、姉貴と風香が食事に行った。先生はまた僕の目を調べると、管が繋がった注射を打って、瓶から少しずつ薬を流し込んだ。
お昼頃、2本目の薬が無くなった。黒いモヤモヤは無くなり、湿布の周りの肌の色が、少し人間らしくなってきた。ふと気付くと、視界は無くなり、身体が動かなくなった感覚が解った。耳は聴こえているけど、瞼は固く閉ざしたまま、吹子に繋がった管のせいかもしれないけど、声も出せなかった。どうやら身体に戻って来たようだ!
脈を取りながらヒールしていた先生が、また目を調べると、
「峠は過ぎました、日之出に連れて行きます。師匠なら治せる筈ですから!」
先生はそう言うと、音に薬と薬瓶を渡して、飲ませ方の説明と管から流し込む薬瓶の交換の仕方、ほか色々説明して、目的の薬草の買い付けに走った。
どうしよう?ちょっと不味い事になってしまった。膀胱がパンパンになっている。身体は動かなくても、内臓は働いているのかな?こんな状況でもみんなの前でオネショは嫌だな。我慢しようとしたけど、努力さえ出来ず膀胱が楽になった事が解った。お漏らしの感覚って覚えて無いけど、気持ち悪い筈だよね?スッキリ感しか無く不思議に思っていると、
「あっ出ました!」
音は、かなりのハイテンションで排尿を喜んだ。どうやら身体の中黒い力が、尿として排泄されたらしい。気持ち悪くならなかったのは、管を伝ってベッドの外のオマルに流していたみたいだ。
管の薬瓶が無くなりかけた頃先生が戻り、管の注射を外した。
「お薬は、これで最後よ。薬草は揃えたけど、今から作っても出来上がる頃には日之出に着いちゃうわね。」
「自分、モルミなら作れます!」
音は先生と相談しながらお宝の薬壷なら、ひと晩で出来そうなので、先生の処方で壷に薬草を詰めた。
翌朝(だよね?)先生は薬の出来に驚いていた。耳だけの情報では今日日之出国に帰る船に乗り、2泊3日の船旅で日之出国に着くそうだ。宿に馬車を預けて船に乗った。船室でも交代で看病してくれたけど、小康状態。それでも先生の予想よりは悪くないらしい。皆んなは船酔いとか大丈夫か心配だったけど、風香が始め辛そうだっただけで直ぐに慣れたようだった。
途中、イルカの群れに遭遇したり、普通だったら楽しい船旅だったのにな。交代で遊んでくればいいと、思っていたら、
「帰りに5人揃って楽しみましょうね!」
風香の提案に、皆んなが頷く様子が判った。
日之出国の港に着いて、入国の手続き。ライセンスプレートを見せて、サインして完了。僕の分は先生の顔パスで通過出来たみたい。
港から馬車に乗り換える。担架で運ばれていて、耳の次に回復している鼻の情報も探してみた。馬の匂いはしない。ブルブルと低い音と振動がして、馬車が動き出した。馬の嘶きも蹄の音も聞こえない。
「魔動車って言うの!」
先生は仕組みを解説していた。小さな魔力爆発を繰り返して、ピストンと言う部品を動かし、その力で車輪を回して走るそうだ。
「前は蒸気タービンで、こんなに大きくても乗る所これっぽっちだったのよ!」
『こんなに』と『これっぽっち』のジェスチャーが解らないけど、言葉の勢いからは、相当な技術革新が想像できた。
スムーズな走りで病院に着くと、担架から車輪付きのベッドに移された。ゴロゴロと移動して、声の反響から判断してかなり狭い部屋に入った。
「4階ね!」
ん?垂直方向に移動?真上に移動する感覚であっという間に止まると、そこは4階なんでしょうね。
「401号室に入ります、これ準備お願い!」
指示を受けた人達の慌ただしい足音が響いた。401号って、どんだけ広いんだ?
管で瓶に繋がった注射は、点滴と言うらしく、薬のほか、ご飯の代わりの栄養が入っているそうだ。東国に持って来ていた物は、栄養を補うもので、モルミを精製した薬を混ぜていたらしい。
東雲の白い霧の様な薬が混じった霧を発生する器械からから管で口に吹き込まれ、ひと晩経過。その間、代わる代わる誰かが様子を見に来ていた。
朝が来た。今日は確実に朝だと判った。身体はまだ動かないけど、首は少し動かせた。真っ白な天井と壁。点滴の瓶がぶら下がっていた。
様子を見に来た白いワンピースのお姉さんが、
「気が付きました?先生呼んできますね!」
バタバタと走って行った。
先生より先にカトリーヌ達が人型で走って来た。音、愛菜、風香、姉貴、号泣しながらの登場だった。先生も早足で来た様子だったので、皆んなは相当なダッシュだったのかもしれないね。
治療法の説明を聞いて早速準備を始めた。




