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世界でひとりだけのGランク  作者: グレープヒヤシンス
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襲来

 ご飯の前に、協会の支部に寄って、復活の報告。と言う名目で、魔窟の異変についての聞き込み。

「昨日の入窟では問題無かったようですね、苔の採取で、薬剤師と護衛が入ったのが最後です。最深層迄潜っていますね。」

「どんな苔?」

姉貴が聞くと、

「いえ、探したけど見つからなかったようですね。」

「その薬剤師さんって日之出国の人だったでしょ?」

「いえ、岬・・・あっいえ、うんと、そう、薬剤師さんは薬剤師さんです。」

姉貴のトラップに受付のお姉さんが引っ掛かり、口を割りそうになった。

「誰かが持ち込まなければひと晩で湧き出す様な物じゃ無いでしょ?」

お姉さんは、姉貴の視線に負け、薬剤師の事を教えてくれた。

イ・チョエンさん、僕らの初仕事の時の薬剤師さんと同姓同名、それからモルミの原料になる薬草を買い漁っていた薬剤師さんと同姓同名。お姉さんが言いかけた岬出身者だろう。岬も東国の一部なんだけど、極々小さな国が無数に有った頃の様な独自の風習が残っている。大陸全体が4つの国に纏まって行く過程で、日之出国の影響が強く、公用語は日之出語になったんだけど、岬だけは岬言葉を併用している。と表向きは言われているけど、ほぼほぼ岬言葉で日之出語が通じない地域も結構あるそうだ。逆に大陸語は、南国の教会内で使われる位で、一般の人は殆ど話せない。書いてあるの物は漢字なので、意味はなんとなく解る位。学校では一応習ったけど、ちっとも覚えてないや。

「どうして日之出語なんだろうね?」

支部に居合わせたおばあさんが話してくれた。

 大陸は魔族との戦で何度も絶滅の危機に晒されたけど、その都度日之出国の援軍に助けられたそうだ。長い戦で居付いた日之出兵達と戦で男不足で相手の居ない地元の娘達が結ばれ、日之出語が浸透、兵士の言葉が強い者の象徴となりいつしか公用語になっていたらしい。岬地区はそれよりも昔から日之出国とは島の領土問題で争っていたので、日之出文化は排除して、独特の地域を形成しているらしい。大陸が4つの国に纏まった時、歴史を客観的に見ると、間違い無く日之出国の領土にしか見えないので、東国として、領土は日之出国と認め、解決しているが、岬の人々はそれが気に入らないと、更に自分達の独自文化を貫いていた。チョエンさんも僕たちとは一線を引いた立ち位置だったよね。

 歴史の授業をしてくれたお礼に、おばあさんがしていた指輪と同じ色の小さな魔石をプレゼント。

「えっ、ばばあの昔話を聞いてもらったんだ、こっちが礼を言いたいくらいだよ!でも、遠慮なく頂こうかな!」

ご機嫌のおばあさんは、皆んなに飴玉を配ってくれた。


 支部を後にして『味』に向かう。

「船便は明日だせ!」

3日連続押し掛け、大将は嬉しそうに驚いていた。

「今日は、寿司にしようか?」

地元の港にいい魚が揚がったそうで、シャリシャリとリズミカルに包丁を研ぐ音が響いた。ほんのり酢の香りがする小さなご飯の塊に色とりどりのお魚の切り身が乗っていた。

「酒屋に頼んでおいたぜ!」

摺りガラスの小瓶で良く冷えた米酒が出て来た。鼻に馴染みのない、いい香りだった。色々飲んだ中で1番好き!熱燗は殆ど飲まなかった愛菜も冷酒は口に合ったようだ。1.8リットルの大きな瓶が直ぐに空っぽになった。このサイズも日之出風らしい。

 美味しいお寿司と美味しいお酒で幸せ気分で宿に帰った。酔い覚ましにお風呂に入った。姉貴と音は、もう少し飲みたいと、お酒を買って来ていて、風香と愛菜は、部屋に入った途端眠ってしまった。たまに1人でのお風呂もいいかな?露天風呂で星を眺めていると、何かが飛んできて浴槽にドボン。ドンドン増えて、数えられなくなった頃、お風呂のお湯が黒く染まっていた、ぶつかって怪我するくらい飛んで来ると、僕の浄化速度を上回り、魔窟でダウンした時みたいな重だるさを覚えた。それを待っていたように、黒い力を纏った鎧に身を包み剣を持ったヤツらが5人。塀を乗り越えて攻めて来た。

 桶で応戦してなんとか剣を奪ったけれど、剣にも黒い力が漲っていて、浄化しながら、防戦一方だった。剣を浄化している間に更に黒い魔石が投げ込まれた浴槽のお湯は真っ黒になっていた。僕の浄化能力を超えてしまったようで、濃さは増すばかり。意識が朦朧する中、最後の二人を倒した所で浴槽から上半身は這い上がって溺れ無い姿勢を確保して力尽きた。

 ん?僕が倒れてる?近付こうとしても結界に阻まれる時みたいに弾かれてしまう。僕、死んじゃったの?幽体離脱ってやつかな?

 パニクる暇もなく、塀の向こうからもう一人誰かが来る。どう考えても敵だろう。塀を越えて来たのはチョエンさんだった。薬剤師の白衣では無く、白い服を重ね着しているようだ。倒れている黒い5人には目もくれず僕の身体に歩み寄った。助けに来てくれたのかな?

 実態の無い僕は、見ているしか出来ない。チョエンさんは鍋掴みの様な手袋をはめて、白い箱から黒い石を2つ出した。魔晶石だ。蓋を開けた箱は見る見るうちに真っ黒になり、チョエンさんの手袋も服も真っ黒だ。僕の両手に握らせると、胸と額に当てた。

「魔王様復活の邪魔するだけでも迷惑なのに、私のオオカミちゃん達を殺したんだから、キチンと償って貰いますからね。」

僕の身体は黒くなったのか、黒い物に包まれているのか解らない位に真っ黒になっていた。

「あなたなら立派な小鬼、ドンドン産めそうね!」

高笑いしたチョエンは、寝転がっている5人に、岬言葉で何か叫んだ。言葉は解らないけど、叱っている様に感じた。

 僕の身体を見て、魔晶石の効き具合いを確かめているようだ。『ガシャン』何かが壊れたような音がすると、東雲を赤く光らせた愛菜が立っていた。魔力刃がチョエンを襲うが、僕の身体が吸い取って、チョエンには届かなかった。

 チョエンは、舌打ちして逃げて行った。愛菜は白い霧で僕の身体を包み、風香と姉貴はヒールを掛けている。両手の魔晶石を見つけ、外そうとしたけど2人の手が肩まで黒くなっただけで、ビクともしない。

 族を拘束して、チョエンが落として行った手袋を拾って来た音は、その手袋をはめて、魔晶石を外し、箱に収めた。広がり続けていた黒い力は、何とか拡大は収まった。白い霧で包まれた僕の身体は変わった様子は無かったけど、ヒールを掛け続けていた2人の両手は元に戻っていた。音はモルミを水に溶かした物を僕に飲ませていた。

 僕の様子は変わらないけれど、お風呂からは黒い力が消えていった。身体は部屋に運ばれ、愛菜は霧を出し続け、姉貴は宿の人に言って、お風呂場の保全と協会への報告、族の引き渡しを頼んだ。

 僕は看病されている自分の身体を見ながら、そこに戻れずにた。皆んなもクタクタだったので、気休めでいいと、思いながら、愛菜の肩を揉んでみた。

「今はご自分の心配だけなさっていればいいですわ!」

「どうしたの愛菜?」

風香が不思議そうに聞くと、

「慈子が、私達の事を心配している様な気がした途端、魔力が最大迄回復した感じがしたのよ!」

「自分もそう感じます!」

「そういえば、わたしも!」

支部の人が来て、相手をしていた姉貴が戻ると、昔話をしてくれたおばあさんも一緒に来て、魔力の患いに効くと言う湿布を大量に持って来てくれた。風香が虫メガネで調べると、モルミと似た成分だったので脚の付け根、腋の下、首筋に貼ってくれた。黒いモヤモヤと白い霧の勢力争いは、若干白が優勢になったかな?おばあさんもヒールを手伝ってくれて、気が付くと朝になっていた。

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