魔晶石
今夜は、おなかを空かせたまま『味』に来た。日之出からの荷物はまだだったので、米酒は熱燗、お鍋とお刺身を頂いた。お鍋は昨日の大根同様、いろんな出汁のハーモニーが舌を翻弄した。蒟蒻も美味しかった位なので、お刺身が美味しくない筈はない。なんだろう?包丁に魔法でも、掛けてあるのかな?残った汁にご飯を入れて、おじやにしてくれた。しっかり完食して幸せに浸っていると、
「日之出の船、明後日着くぜ!」
大将がわざわざ知らせに来てくれた。
必ず来ると約束して宿に帰った。
お風呂に入って作戦会議。明日は車中泊で、ガンガン攻めて大きいのを含めていくつか制覇する事にした往復の時間で小さいのなら片付くもんね!明後日は朝から攻めて、夜戻って『味』。しっかり働いて、ご褒美メシを食べる。
「もう大丈夫かしら?」
風香の視線がぐっと下がった。
「うん、この前からツルツルのままだよ!」
やっと開放かな?愛菜と音も加わって状態調査。3人が頷いてやっと合格。当所は相当の回数を覚悟していたけど、体質と、皆んなの魔力が高くなっていたので早く処理が出来たようだ。因みに姉貴は、元オジサンだって事を気にしているのか、この話題には絡んで来ない。明日に備えて早めに床についた。
さて翌日、日の出と共に出発、トライアングルで最大級の魔窟を早朝から攻める。浅いうちは、ノーガードで攻め続ける。危険を感じたのは20階層を超えた辺り、風香が結界でガードするいつものパターンで安全性を確保しながら最下層の30階層に到達。ラスボスはネズミ?巨大過ぎてネズミかどうかちょっと不安だったけど、猫達の反応を見るとやっぱりネズミらしい。最大サイズの猫達よりも更に大きいネズミに飛び掛かって行った。3匹の黒猫、灰色猫、白竜が久しぶりの。大暴れで瞬殺した。カトリーヌは自分のサイズを変えるとき、そのサイズに合った動物に化けるようだ。巨大猫に合う動物がないので竜に戻ったらしい。
ご機嫌で戻って来る猫達の背後で、首を落とされ亡骸のはずの巨大ネズミが何事も無かったように起き上がりゴウゴウと唸った。もしかしたらチューチューがサイズの関係で重低音になっているのかな?回れ右で第2ラウンド。爪の射程圏内迄近づくと、ネズミが更に巨大化しているのがハッキリ判った。さっきみたいな圧勝では無かったけど、危なげなく倒した。ただ、また復活するのは面倒だし、更に巨大化して強くなるのもウンザリなので、復活の謎を調べた。解らないままに第3ラウンドが始まってしまった。また巨大化したネズミに、猫達は苦戦した。爪も牙も皮膚が弾き返す。加勢が必要かな?音が極光を構えると超巨大ネズミがズシンと倒れて来た。鼻先から、ペットモードのプランタンが、黒い魔石を咥えて、意気揚々帰ってきた。数歩歩いて、パタリと倒れた。
魔石を咥えていた口の周りが、毛並みの黒とはあきらかに違う黒で急いで浄化した。何とか見掛けは浄化出来たけどぐったりのまま。愛菜の白い霧と風香のヒールで、なんとか復活してくれた。
魔石はいつになく強力であっという間に30階層を黒く染めた。慌てて拾って浄化。アンヌに刺さった槍を触った時に初めて感じた驚きを遥かに凌ぐ力を感じた。何とか意識を保ちながら、魔石の浄化は完了した。
目を開けると木目の天井が見えた。30階層に居たよね?どうやら宿に帰ってきたらしい。視界がぼんやりするのは
愛菜が白い霧を出し続けているせいで、両手は風香と姉貴が握ってヒールしてくれていた。音はそばで何か作業している。
「プランタン、大丈夫?」
慌てて飛び起きると、音を手伝っていた。
一安心して、どんより気分を吹き飛ばす深呼吸。重だるかったカラダがスッキリした。魔窟を登りながら、1時間、馬車の中で30分、宿に着いて2時間、ずっと白い霧とヒールで少しずつ回復していたそうなんだけど、深呼吸1つでスッキリは、驚きを超えて呆れていた。
魔石を拾ってからの事を教えて貰った。いつものように、黒い力を吸い取っていたけど、魔石を取り巻いていた黒いモヤモヤが僕を包んで、魔石が透明になった時、気を失ったそうだ。白い霧を絶やすと黒いモヤモヤが増すので愛菜は道中、霧を出しっぱで頑張ってくれたそうだ。宿に着いてモルミを飲むと、モヤモヤの増殖は無くなり、霧を浴びせるとモヤモヤが減ってきたらしい。モヤモヤが消えかけた時、僕が気付いて深呼吸って経緯。
「コレ、魔晶石よ!」
虫メガネで覗いた姉貴が叫んだ。
魔晶石とは、魔力を大量に貯める石で、指先程の欠片でAランカー数人分の魔力を貯める事が出来る。
「この大きさは、魔族の3石だと思うわ、魔王が復活する時に必要な魔力を蓄えて置く物よ!魔王の3分の1吸い取って生きてるって凄いわね!」
「そういう計算なら、指先でAランカー数人分?ゲンコツより大きいのって、何人分なのよ?」
愛菜は、自分の指先と拳を見比べて計算を諦めたようだった。
「なんか、スッキリしたら、おなかが空きました!」
「じゃあ、『味』で快気祝いね!」
皆んなが笑顔になり、早めの晩ごはんに出掛けた。




