実戦訓練
また一泊2日の行程で次の町へ移動。今度の街は『魔窟トライアングル』と呼ばれている町で、片道5キロ程の所に大きな魔窟が2つ、三角形に配置され、道中、小中の魔窟が10箇所、計12箇所で東国の魔窟の殆どが集結。毎日1つ制覇しても2週弱も掛かっちゃう。とりあえず、6連泊で宿を取った。大きな宿が立ち並び、その麓には商店街、一本入ると呑み屋街、更にもう一本入ると、いかがわしいお店が並んでいるらしい。
宿の晩ごはんの後で、姉貴は旨い米酒の店を探すと言い出して、呑み屋街を探検した。派手な看板や暖簾が目立つ中、濃紺に『味』の一文字を染め抜いたシンプルな暖簾を見つけ、そこに入った。何も注文していないのに、胡瓜と味噌?みたいな物が出てきた。皆んなメニューを見ても良く解らないので姉貴にお任せ。お銚子と言うデカンタみたいな容器で温めた米酒、大根を煮た物、蒟蒻を切っただけの物、焼いた茄子に味噌を塗った物が出てきた。ただ煮ただけに見えた大根は箸でスッと切れる位に柔らかく、大根の甘みに海産物の出汁が複雑に混じり合う、表現不能の美味しさだった。蒟蒻料理は蒟蒻そのものは蒟蒻のままなんだけど、ツンと来る辛さのワサビとしょっぱいだけじゃない不思議な醤油がとても新鮮な感覚。茄子に塗った味噌もただの味噌じゃなく手間暇掛けているのは間違い無いだろう。
「東国のご飯って、みんな大好きだけど、ここは別格です!」
「ここはね、日之出国料理のお店よ、何も頼まないうちに、モロキュウ出て来てビックリしてたでしょ?それも日之出国の習慣よ!」
日之出国の米酒を搜すには、日之出料理の店が1番だよね!おなかいっぱいの筈なのに何か食べたくなっちゃった。我慢して明日宿のご飯を断ってここに来るか、欲張って何か頼むか迷っていると、特別に普通の半分位のお茶漬けをサービスしてくれた。冷酒の話や、僕ら(主に僕)がはしゃいで食べているのが聞こえていた様で、オヤジさんも気を良くしていたらしい。食材は地元産だけど、味噌、醤油、米酒、緑茶は日之出国から輸入しているそうだ。米酒はどんなのが来るか解らないので冷酒に合うお酒を見つけたらとっておいてくれると約束してくれた。
宿への帰り道、酔っ払いのおじさん3人が絡んできた。僕が捕まり、何とか平穏に追い払おうとしていたら、風香が助けに来てくれた。
「おネエさんが付き合ってくれんの?オレ、オッパイの、大きいコ大好き!」
風香は無視して、
「手品を見て頂けますか?」
「おう、カワイコちゃんのやることなら、何でもオッケーよ!」
風香はそれぞれに手の平に銅貨を乗せるように指示、
「では、銅貨を縮めますね!」
風香は結果で銅貨を包み圧縮した。見る見る縮んで錠剤位になった。
おじさん達は驚いて酔いが覚めた様だった。
「ごめんなさい、ホントは手品じゃなくて、結界で潰しただけなの、タネが無いから手品じゃないわよね?あと、何でも潰せますけど、試して見ます?例えば睾丸とか!」
おじさん達は、蒼い顔で走り去って行った。
「見掛けに依らずハードなのね!」
姉貴は風香の対応に驚いていたけど、僕らは温泉の覗き犯を懲らしめたのを見ていたので、おじさん達が天国から地獄へダイブする瞬間を楽しみに観ていた事を話すと大笑いだった。
翌朝、宿から近い順に潜る。小さいのが4つ続くので、姉貴と音で一組、愛菜、風香と僕で一組、2つずつ攻略する。どちらも10階層迄しか無いので午前中でサッサと済ませる。
【エリカ・音】
サクサクと8階層迄降りた。やっと歯応えの有る魔物が現れた。音は結界の練習中。僕らの定番で、結界の中から飛び道具で相手を弱らせて必要な時は、接近戦でトドメを刺すって言うパターンで戦う際、風香と姉貴が結界を張るのが当たり前だけど、2人が居なかったり、弱っている場合、若しくは一人の時に襲われた時を想定しての訓練。元々何でも出来るのに、本番で活かせない音だったので、
「姉上がいると思うと、安心して魔法に集中できます!」
ちょっとしたコツを教わって、自分のエリアを護るノーマルな結界は完璧になった。
【愛菜・風香・慈子】
風香の攻撃レッスン。先ずは矢に魔力を纏わせて射る。西国の古の魔窟でガイドのお兄さんに習った技を復習。ついつい風香の結界に頼ってしまい、攻撃機会が少ないので、忘れていないかのおさらいって感じからスタート。3階層からは接近戦、短剣『明星』の実践デビュー。
「お姉ちゃんの稽古の方がキツかったわ!」
サクサクと進んで、5階層からは愛菜が東雲で結界を張り、その中から風香が弓で攻撃。いつもと反対の業務分担で進んだ。
「ソロソロ交代して頂けます?」
欲求不満を爆発させた愛菜は8階層以降を瞬殺、サッサと待ち合わせ場所へ向かった。
お弁当を食べてから、チームを替えて次の2つに潜る。
【エリカ・風香】
風香の攻撃レッスン・ステップ2。弓を引いて矢を使わずに、魔力だけを射る方法を取得する。実際の矢が有るつもりで同じように射るだけだと言っていたけど、風香は、大丈夫かな?心配御無用、あっさりマスターして、サクッと10階層迄片づけた様だった。
【愛菜・音・慈子】
音の結界の中から、愛菜が魔力刃を飛ばす。10階層は魔物が一匹だったので、音が結界で拘束してみた。捉える迄は手こずったが、捉えてしまえば、キッチリキープ。そのまま魔法刃を試して成功した。
スッキリクリアして、待ち合わせ場所に着いたのは、まだ3時。姉貴達も、すぐ後に到着。
「おかわり?」
次の魔窟は中規模で、20階層迄。サクサク潜れば晩ごはんの時間には間に合うし、宿の晩ごはんは頼んで無いので、多少ズレても問題ないので、さっさと潜った。
風香が練習中の魔力だけの矢を攻めにして、音と愛菜が交代で、結界を担当。ずっとサクサクと20階層迄降りると姉貴は風香に、
「ラスボスね!結界で摑まえてみて!」
蜘蛛の魔物から長い足を伸ばして身体を持ち上げると尻を丸めてこっちに向けた風香はその間に結界で包んでいて、発射した糸は、僕らに届く事はなく自らの周りを満たしていった。結界を縮めた所に愛菜が魔力刃を撃ち込んだ。
東雲がぼんやり光ったので虫メガネで覗くと蜘蛛の糸が出せるようになっていた。
「刀じゃなく、道具ね!刀としてのポリシーって無いのかしら?」
いつもは、辛口コメントでも、じっさいは、新しい能力を歓迎しているように見えるんだけど、蜘蛛の糸はホントに喜んでいないみたいだ。
帰り道もスイスイ。1番エネルギーを使うのが、階段や斜面を登る動作だろう。安静時と変わらない心拍数で宿に戻った。




