東の海岸へ
夜明けと共に目を覚まし、朝風呂を浴びてからごはんを食べた。荷物を纏めて馬車に行くと、黒ずくめの男が3人、馬車を押すような格好で立っていた。ピクリともしない、いや動けないようだ。
愛菜は、お尋ね者リストを捲り、
「なんだ、こそ泥ね、3人で金貨2枚ですって。」
支部に届けてから海岸線への道を進んだ。海岸の町迄は途中一泊が必要でお昼はお弁当を用意して貰ったけど、夜は自炊でテント泊の予定。美味しそうな獲物はあまり期待出来ない雰囲気なので、保存食で凌ぐ事になりそうだ。山道に逸れたら何かは獲れそうだけど、先を急いだ方が良さそうなので、グルメより行程を選ぶ。
テントを張っていると、また不審な視線を感じた。無視して食事を済ませテントに入って灯を消した。5分もしないうちにゴソゴソ侵入者がやって来た。黒い力が満ちた鎧だと、かんたんな結界なら突破出来るし、前にやっつけた人攫いみたいに網に染み込ませると結界を無視して絡め取ったり出来るけど、姉貴と風香の本気は簡単には突破出来ない様だった。防具から露出している部分がある下っ端はそこを狙って眠らせ、露出少ない奴は愛菜が東雲で戦い、黒い力を削ぎながら魔力弾。フル装備のボスは僕が相手。姉貴の結界でハンデを貰っているので、武器ではなく背中に回って鎧を触って黒い力を浄化する、黒い力が弱ってくると結界がキツく働くので更に自由度が下がるのでガッツリ浄化出来た。すっかりブリキの色に戻った所に姉貴の子午棒が光った?時間は掛かったけど、そんなに危険を感じずに倒すコツを掴めた様な気がする。盗賊の馬車にはやっぱり、黒い水の壺があり、浄化して魔石を取り出した。いつもの様に始末して、虫メガネで査定。馬と馬車、浄化した魔石以外は殆ど価値は無かった。
下っ端が意識を取り戻したので、気になっていた事を聞いてみた。
「ねえ、皆んなでフル装備したらもっと強くなるのに、なんでボスだけなの?」
「・・・・ギャッ!」
無視を決め込むつもりだった様だけど、愛菜の魔力弾で飛び上がった。失神しない程度の雷弾。
「は、は、話すよ、話すからビリビリは止めて!」
どうやら、黒い鎧は、着る人にもダメージがあるようで、少しずつ増やして慣れていくそうだ。特にフル装備するには『モルミ』と言う特殊な薬を飲まなければ精神崩壊してしまうらしい。協会でも押えていない情報だった。当然闇ルートでしか手に入らないだろうから、黒い盗賊の撲滅の為に、その薬を排除する必要がありそうだ。下っ端からはもう役に立ちそうな話は聞けそうも無いので、ボスを起こしてお話ししてみよう。拘束を確かめてからは愛菜の氷弾を軽く当てて揺り起こした。
薬の事を問い詰めるつもりだけど、全く口を割らない。愛菜のビリビリ拷問にも耐え続けた。
「ちょっと貸して!」
姉貴はササッと下半身の拘束を緩めズボンを割いた。ぶら下がっているモノに針金をひと巻き。何か呪文を唱えると、ボスはのたうち回った。
「5分で千切れるわよ!」
ボスはヒーヒー言いながら『モルミ』の事や、黒い水の事を話出した。闇組織が存在する様で、そこも探ろうとしたんだけど、組織の最底辺にもなっていない感じで、殆ど情報は無かった。手持ちの実物を取り上げ、虫メガネて覗くと処方箋が見えて、ごく普通に手に入る薬で調合出来る。5種類の薬草で作れるし、どの薬草も採取の依頼に行った事がある位の一般的な薬だった。僕らの初仕事で薬剤師さんと採りに行ったのもその中の1つって位のポピュラー具合。
薬の他にも情報を聞き出していた。盗賊はグループ毎でエリアが被らないようになっているので、1グループを片づけならそのエリアはセーフティゾーンって事になるそうだ。もちろん、結界には手を抜かないけど、安心に越したことはないよね。ぐっすり眠って、また早朝から海岸を目指す。晩ごはんと一緒に用意しておいた朝用のお弁当を食べながら馬車に揺られた。盗賊達はまたビリビリで眠らせている。愛菜は『ビリビリ』と言われるのは良しとしない。『雷弾』と言い直して旅を続けた。
海岸の町に着いて、協会の支部に盗賊を降ろして、報奨金を貰って、早速お昼は海鮮丼。姉貴の御眼鏡に敵う米酒は置いて無かった。店のおっちゃんに聞くと、たまには入ってくるけど、この辺りよりも北国寄りの港町や、北の国境から伸びた大きな岬が、日之出国との商いが盛んなので、可能性が高いそうだ。北国に戻りながらの旅なので、まあ楽しみはとっておこう。
この町でのもう一つのミッションは、魔石の換金。南国との交流が盛んで教会で需要が高い魔石が高値で取り引きされる。大きな魔石商が数件。纏めて持ち込んで値崩れしないように、分散して持ち込んで、虫メガネの査定と同じ位で売り捌いた。もちろん金貨で貰って持ち歩ける額じゃないので振り込んで貰った。ここでも黒い魔石は扱っていなかったので、支部に戻って聞いて見るとまたまたごっそり手に入った。やっぱりタダでいいって言われたけど、手持ちの銀貨だけで手を打った。
今から移動しても、中途半端な所でキャンプなので、のんびりして宿を取った。美味しいお魚の鍋料理で米酒をちょっと。姉貴と音は熱燗で結構飲んでいた。今夜も潰れないうちに布団に押し込んで明日に備えた。
 




