温泉
地上に戻り係のオジサンに、20階層まであった事と、お宝ゲットの報告をした。一般開放出来るかどうか調べる必要があるそうで、バタバタと書類を作ったり、調査隊の準備を始めていた。各階層の特徴、魔物の種類やレベルを聞かれ、1時間程で開放された。売店を覗くと、魔石をアクセサリーに加工してくれるコーナーがあった。19階層の魔物が落とした魔石を指輪にしてもらった。純金の指輪で金貨5枚。最初に嵌めた人のサイズに自動調整する魔法付きだっので、即決で頼んだ。前金で支払うと、加工店のオジサンは指輪の台座部分に魔石を乗せてみた。無反応で別の指輪に乗せる。10回位試して、ようやく反応。魔石が自分に合わせて金の爪を纏う様に指輪に収まった。オジサンは不機嫌そうに指輪をケースに入れようとすると、
「ちょっといいかしら?」
協会の人らしきお姉さんが、指輪を奪い取った。
「これ、おいくら?」
「魔石は僕らがが採ってきたモノで指輪加工で金貨5枚です。」
「えっ?」
驚くお姉さんに、注文からの経緯を話した。話しを聞くと、魔石が反応しなかった指輪を調べ、
「結果オーライだね!」
タネ明かしして貰うと、最初付けようとした指輪なら金貨1枚の値打ちもなく、少しずつ高価な物を試し、結果として真っ当な店でも金貨5枚で足りない位の指輪になったそうだ。改めてプレゼント包装にして貰った。他に目ぼしい店も無いし、温泉宿の晩ごはんの時間も心配だっのでさっさと店を出た。
カトリーヌに引かれ、宿に到着。ちょっと遅くなっていたので、直ぐに晩ごはん。ご飯やお風呂を一緒にしたいので、猫達は皆んな人型になって貰っていた。カトリーヌが馬車を停めて人型になると、宿の馬車係のおじいさんは驚いて尻餅を突いていた。
ご馳走を食べて、お風呂に入る前、風香が、女湯の周りを回ってきた。何かあったのか聞いてみると、
「覗き防止の結界が壊れていたから、直しておいたの、あと、覗きのスポット見つけたから、覗こうとした人に目印が付く様にイタズラしておいたわ!」
のんびり温泉に浸かる。エテ、オートヌ、イヴェールはやっぱり風香を奪いあい、プランタンは音にベッタリ。シフォンは愛菜のそばにいて、
「シャンプーするから、こっちに来なさい。」
愛菜はシフォンの銀髪を泡立たせ優しい表情だけど、
「雑巾なんてバケツでいいのに贅沢だわ!」
また憎まれ口を叩いていた。
僕は、カトリーヌと背中を流し合って、温泉を充分堪能。浴衣を着てロビーに行くと、ペンキで塗った様な真っ赤な顔に、白い字で『スケベ』と書いたオジサンが二人宿の人に何かクレームを付けていた。どうやら、急にあの顔になったようで、その事に文句を言っているらしい。風香が割って入り、
「お風呂の北側の目隠しが壊れて覗き易くなってますよ、覗こうとしたら、赤い顔に白字で『スケベ』って出るように魔法トラップ掛けて置きましたから、そんな人がいたら協会に付き出すといいですよ!」
ニッコリ笑って帰って来た。泣きそうなオジサン達に愛菜は、
「それ手に嵌めてよく擦ったら、朝には消えましてよ!」
お風呂の前に脱いだと思われる洗濯物を指差した。オジサン達は脱いだ靴下を手に嵌めて、風呂上りの顔を擦っていた。
部屋に入って愛菜に聞いてみた。
「洗濯物で擦ったら消えるってホント?」
「冗談に決まってますわ!6時間で消えるって風香が言ってましたから。」
未遂なのにちょっと可哀相に思ったけど、『壊れた目隠し』って、正確には『壊された目隠し』だったそうだ。止めていたシュロ縄があきらかに刃物で切った切り口だったとの事。彼らは連泊しているので、これまでしっかり堪能している筈だから、お仕置きとしては丁度いいと皆んなの意見は一致した。
「逆恨みが心配だわ。」
音が憂鬱な表情になると、
「私もそう思ったから、廊下に迷路結界を作ったわ。」
夜中、廊下を覗くとスケベマークのオジサン2人が廊下をウロウロ。ジグザグに歩ったり、低い所を潜ったり両手を広げて一本橋を渡ったりいつまでも歩いていた。朝になって宿の人達が働き始めると風香は廊下の真ん中にバケツを2つ置いた。オジサン達はその少し手前で激しくノックの仕草。宿の人が近づくのを確認して、指をパチンと鳴らした。オジサン達はドアを開ける仕草をしてバケツに駆け寄った。風香はもう一度指を鳴らすと扉を閉めた。
「お、お客様!」
廊下の真ん中でバケツに放尿する2人は直ぐに協会に突き出されていた。
「今夜もここだからね!」
風香はニッコリ笑って朝湯に向かった。
今までは我慢するしか無かったけど、自分自身に自信が持てるようになって、イヤな事はイヤだと言い、危害を被る可能性のある相手にはキチンと向き合う事にしたそうだ。
後から聞いた話し、覗きのオジサン達は、宿を狙った置き引きの常習犯で、他のお客さん達は気付かない位に金貨を抜かれていたそうで、余罪がボロボロ出て来て、支部から宿に金一封が届いたそうだ。




