西国の都
昼間は馬車で走り、夜はキャンプ。平穏に3日過ぎた。道幅が広くなり馬車の往来が増えて来て、都に到着したのが判った。魔術師協会の支部を訪ねると、
「ラッシーさんの所のG子ちゃんだね?」
がっしりした体格に不似合いな優しい顔のオジサンは、ここの支部長さんで、『ラッシーさん』とは、うちの支部長の事らしい。目的地の尼寺はもうすぐなので、今日1日町でのんびりして、明日の朝に出掛けると丁度良いと、宿の手配をしてくれた。名物料理に舌鼓を打って、のんびりお風呂に入って、のびのびとベッドで眠った。
朝ごはんの時、
「繁華街でお買い物してもいいかしら?」
春さんが、珍しく自分の意見を口にした。お洋服や靴やバッグ等、お洒落なお店に入って、色々物色を始めた。尼寺に行っちゃうと、こんな事も出来なくなるだろうから、買い物納めのつもりかな?たくさん買い込んで、宿に戻ると、4人とも所持金は銅貨数枚になっていた。連泊する僕らの部屋にお買い物の大荷物を運ぶと、
「鎧やアウトドアもいいけど、可愛いお洋服も着てね!」
そのままプレゼントしてくれた。結構元気に見えるし、楽しくお買い物していたので、俗世に未練があるのかと思ったけど、出家の意志は固いようだ。有り難く頂いて、尼寺に送り届ける。急げば午前中に着くけど、少しのんびりして、尼寺の近くまで進んで、最後のランチを皆んなで作って食べた。キッチンカーの使い方や、保存食グルメのレシピを細かく書いたノートを貰うと涙が止まらなくなってしまった。
尼寺に着いて、百段以上はありそうな石段を登り門の側の小屋で尼さんに会った。出家の決意を確かめ、姉さん達は尼さんと一緒に門を潜った。重たい木の扉が閉まり切るまで見送って石段を降りた。
大きな喪失感で、4人とも一言も話せずに支部に着いて、依頼の完了報告をして、おっちゃんからの手紙を支部長に渡した。
「じゃあ読むよ!」
おっちゃんの手紙に目を通した支部長は、僕らに読んで聞かせてくれた。
『チー坊、アイナ、フウカ、ドレミ、ミッション達成、ご苦労さん!今頃は、折角仲良くなった姉ちゃん達と別れてベソかいてんるだろ?少しは旨いもん作れるようになったかな?まあ知れてるだろうが嫁入り修行だぜ。修行といえば、ピッタリの『古の魔窟』が有るからちょっと頑張って来い、寂しさ紛れるぞ!』
読み終わった支部長は笑って魔窟の案内書を渡してくれた。
魔窟とは、いろんな魔物が住み着いた洞窟で、何層にもなっていて、下の階に潜る程強い魔物が居て、最深部にはお宝が眠っているそうだ。食用や毛皮や角や牙を使ったり、洞窟のあちこちで採れる鉱物の採取で魔術師達が立ち入っている。最深部のお宝は無理だとしても、おっちゃんのオススメなら僕らのためになりそうなので、チャレンジする事にした。今夜の宿をキャンセルして早速魔窟に向かった。
魔窟に到着すると、協会の出張所があり、入窟の手続きをした。Fランクパーティーの場合、初心者はガイドが付かなければ入れ無いので、支部長のお手紙を渡して、信用出来るガイドを付けて貰った。討伐の実績なんかも支部長のお手紙に書いてくれていたので、Cランク相当のエリアにショートカットで案内してくれた。魔石が採れる魔物がたくさんいてなかなかの収穫だった。サクサク片付けるので、もう1階層潜って見た。この階でも楽勝なので風香の攻撃の練習をメインに進んで見た。魔力弾は愛菜がパチンコ玉ならビーチボールみたいで、魔力はそれなりの強さなんだけど、相手のダメージはほとんど無かった。音のように矢に魔力を纏わせる方法はなかなかコツが掴め無いようだった。ただ、弓の精度は高く、ノーマルの矢の威力で魔物を倒していた。ガイドのお兄さんは矢に魔力を伝えるコツをいろんな言い方や例えを使って頑張って説明して、徐々に魔力が乗るようになって来て、もっと深い階にしかいない牛人の魔物が現れると、しっかり魔力を纏わせた矢を眉間に撃ち込んで一撃で仕留めた。
「テメーら、俺達の獲物横取りしやがって、何のつもりだ!」
何階層か下から追ってきたガラの悪いパーティーが文句を付けて来た。戦闘中の魔物を横から攻撃して手柄を横取りするのはマナー違反だが、魔物が逃げていて、戦っていたパーティーが視界にない場合はそれと戦っても問題無いし、そうしなければ、殺られる可能性だってある。マナー違反といえば、強い魔物を上の階層に逃した彼らの方がタチが悪い。上層階の未熟なパーティーの所に強い魔物が逃げ込んだら酷い結末になる可能性が高い。今回、風香が仕留めたから大事には至らなかったので、感謝されてこそ、文句を言われる筋合いじゃない。
「どうぞ、そちらの獲物で構いませんよ。」
面倒を回避する積りでそう言ったんけど、相手はカチンと来たようだ。ガイドのお兄さんが仲裁してくれて、なんとかすれ違ったが、つまらない威嚇で僕らの進む先に魔力弾が撃ち込まれた。キャって驚く想定だろう・・・?えっ?
足元が崩れている。なんとか、大きな岩にしがみつき、風香は結界で護ってくれた。何度かショックを受けて、いつまでも止まらない落下を感じた。やっと止まったかと思うと辺りは真っ暗だった。
「こ、ここ、ガイドマップにないかなりの深い階層です!」
ガイドのお兄さんの怯えた声で、事態の深刻さが理解出来た。




