救出
よく整備された街道を快適に飛ばした。お昼も過ぎて暫くすると、いきなり渋滞?馬車が数台溜まっていた。近くまで来ると、武装した男達が、襲い掛かってきた。風香の結界でガードして、音の矢と愛菜の魔力弾で眠らせていった。追加の盗賊が来なくなると、前の馬車2台が走り出した。カトリーヌが大声で、
「止まって!」
馬車はピタリと停まった。倒れた盗賊を拘束して、1台目の馬車を調べると女性が3人が捕まっていた。檻を壊して開放した。次の馬車は襲撃の被害者のようで、周りには男性が5人倒れていた。4人は既に息が無く、片腕を切り落とされた1人を風香がヒールした。直ぐに繋いだ腕は、風香のヒールでもなんとか繋がって見えたが、使えるレベルには治癒出来ないだろう。応急処置を済ませ、逃げた馬車の奴らの捕獲に掛かった。カトリーヌが1台の馬車を呼び付けると、馭者席の男が斬り掛かって来た。馬車から離れるよう受け流しながら剣を合わせ、程よい距離で魔力弾で沈めた。馬車の無人を確かめて、もう一台を呼び寄せた。同じ手順で1人を倒すと、馬車からボスが登場。かなりの手練の様だったけど、風香の結界で自由を奪い、愛菜の魔力弾で撃沈した。いつもの様に拘束した盗賊を馬車に積み込んで、武器や金目の物を回収し、亡くなった人達を別の馬車に乗せた。
襲われた人達は、北国へ向かう商人の一行だったが、僕らが向かう次の町の方が近くて、腕の治療も受けられるので、引き返して同行する事になった。助け出した女性は、抵抗したときの青アザやスリ傷をヒールして、見掛けは健康そうになったが、襲撃の恐怖と、身内を失った悲しみで、放心状態のままだった。その苦しみを身に染みて解っている四季の姉さん達が親身に寄り添い、なんとか町に到着した。協会の支部に、盗賊の報告をして、腕の治療が受けられる所を紹介して貰った。向かった病院には女医さんがいて、風香の応急処置を凄く褒めてくれた。先生はダラリと動かない腕に治癒魔法を掛け、ぼんやり光らせると付け根の方から徐々に光が収まり、指先の光が消えると、指も肘も動かせる様になっていた。先生はその間、ずっと風香を隣に座らせ、説明しながらの施術だった。救命のご褒美に治癒魔法のコツを伝授してくれたそうだ。
亡くなった人達を故郷の土に返すために、引き返す事になり、僕らのルートにある町なので同行する事になった。盗賊の馬車の座席を外し、棺を積み込んだ。盗賊討伐の報奨金と戦利品の売上金は弔慰金で生き残った人達に渡そうと思ったけど、命の恩人にお礼を払うべきなのに、貰うなんてとんでもないと断られた。盗賊から奪い返した現金で、治療費や棺なんかの仮葬費用を支払っていた。
翌日から馬車5台編成に増えて街道を走った。1泊2日しっかり走り一旦、海岸を離れて山道になった。丁度キャンプ場を探す時間で、キレイな小川のほとりにテントを張った。ひんやり気持ちいい風でのんびりしていると、愛菜が叫んだ、
「魔物が近寄って来てるわ!」
急いで結界を張ると、山猫の魔物が集まっていた。普段は人を襲うことは無いが、死肉を好む習性が棺の臭いに反応したのだろう。数も多く、ちょこまかすばしっこいので、矢も魔力弾もなかなか当たらない。しばらく撃ち続け、数匹倒すと、ようやくあきらめた様で、山に消えて行った。
やっと落ち着いて、晩ごはん。四季の姉さん達の保存食ディナーを堪能した。最近は、交代でお手伝いして、キッチンの使い方や、保存食を美味しく食べるレシピなんかを習っている。帰り道、いきなり粗食になるのも寂しいので、得意分野ではないけど、それなりには上達したんじゃ無いかな?
明日の昼には、商人達の町に着くので大勢でのキャンプは最後かな?腕が治ったお兄さんは力仕事とか積極的に手伝ってくれていて、皆んなと明るく会話していた。一緒に助けた3人も徐々に平常心に戻っているようなので、無事に届けられそう。お兄さんは、音がタイプの様で、かなり積極的に話し掛けていたが、音は全く気付いていない感じだった。昼にも玉砕していたので、剣術の話題なら話しが弾むって教えておいたら、どう間違ったのか剣術の稽古に付き合わされていた。取りあえず、楽しそうにしているので良かったとしておきましょうか。
朝、気持ちよく目覚め、テントを畳んで馬車を走らせた。昼前に町に入り、お兄さん達を店に送り届けた。お兄さんは名残惜しい顔で音を見つめていたけど、音は全くの無反応だった。ただ僕らと会った頃のコミュ障と比べ、会ったばかりの男性と会話が出来ていたのにはちょっと驚いた。盗賊から助けて貰ったことや、ここまで護衛して貰った分と行って、ズッシリ金貨の詰まった袋を差し出されたけど、たまたま通り掛かっただけだし、僕らの旅のルート上の町だったので次いでの事と断った。
棺を運んで来た盗賊の馬車と馬を売りに行くと、立派な身なりのお爺さんに呼び止められた。商会の役員さんらしく、僕らがお兄さん達のお店で、お礼を受け取らずに来たことを聞いて、代わりに商人の通行手形を発行してくれるそうだ。魔術師のライセンスプレート同様に身分証明書になるのと、店に持ち込みの時や、両替の手数料が軽減されたり、商人向けの施設を利用出来たりする。有り難く頂戴する事にして商会に寄った。
役員のお爺さんの案内で、卸売の市場を見て周った。西国の流通の拠点になっている町で国中のものが並び、珍しいモノにおどろきながらお買い物を楽しんで、保存食の追加や、夏服を買って次の町に出発した。




