黒い力
湖畔のキャンプ場で目覚めた。四季の姉さん達は朝までグッスリ眠れた様子だった。テントを出ると結界の外は、悪人風の男達に囲まれていた。かなり強そうなヤツらが4人と、見習いかパシリっぽいのが2人。それぞれ馬に乗っていた。懸賞金一覧に依ると、人攫いと人身売買のグループで、全部で金貨50枚にもなるそうだ。
結界は効いていて侵入も攻撃も出来ない様子だし、こちら側を見えている感じでは無かった。
「真っ直ぐ進んだ筈だが、この円の中には入れていない、やはり結界だな。昨日の花火の発射地点もこの辺りだから、噂の小娘だろう。結構な手練らしいから、殺さない限り手加減いらんぞ!こっちには、コレがあるからな!」
担いでいる投網のような網を自信満々に叩いた。
網が投げられると、結界を物ともせず僕らの足元まで飛んて来た。網が結界を通過する間、向こうからこちら側が見えていたようで、
「チラッとしか見えないが、噂通りの上玉だぜ!しばらく遊んでから売ってもいいかな?」
手下達が、俄然ヤル気を出した。これまで風香の結界の中から飛び道具で相手の戦力を削いで、優位を確定させてからトドメを刺す作戦で安全に戦って来たが、今回は通用しない。
「数を減らそう!」
そう叫んだカトリーヌは馬になって結界を飛び出た。ひと声嘶くと、人攫いのボスの乗る馬は暴れだし主を振り落とした。他の馬は物凄い勢いで走り去った。相手が一人ならこっちのペースで戦えそうだ。
愛菜の魔力弾が炸裂、一瞬光に包まれて勝利を掴んだかと思ったが、黒光りする鎧が魔力を吸収してなんのダメージも無かった。音の矢も纏わせた魔力は効果無く、ノーマルの矢がガチンと当たる程度でほとんどノーダメージ。風香とカトリーヌは四季の姉さん達を護って、馬車に避難、飛び道具が役に立たないので、接近戦になった。恐ろしく巨大な大太刀を力まかせに振って来る、僕らの武器では受けたら吹き飛ばされそうなので、躱して流す。ほぼノーガードなので、僕らの攻撃は相手に届くけど、頑丈な鎧はビクともしない。ただ、音の槍が当たった防具は、当たった場所の周囲が銀色に変わって、徐々に黒に戻って行く。真っ黒に戻る前に僕の剣が当たると、多少のダメージはあるようだった。
何度か繰り返すと両手の防具は黒く戻らなくなったので、愛菜が魔力弾を撃ち込んだ。防具は粉砕し、大太刀を弾いた。音は大太刀を拾い、僕は丸腰になった所を二刀で斬り付けた。音の槍の布石のつもりだったが、僕の刃は掴み取られた。防具は吹き飛ばしたけど、中にはめていた手袋にも黒い力がこもっていたようだ。大太刀を拾った音は黒い力で動け無くなっていた。僕は投げ飛ばされ、魔力弾で援護射撃の愛菜は投網に絡み取られた。ボスは立ち上がろうとした僕を羽交い締めして、
「安心しろ、殺さねえさ。まだガキのようだから、女の楽しさ覚えさせてやるさ、俺に捕まった事、感謝するんだな!」
思い切り暴れたけど腕力の差は歴然で、なんとか音が回復してくれたら逆転出来ると期待を込めて抵抗した。揉み合っているとアンヌとカトリーヌを助けた時の暗い冷たいイメージが流れ込んできた。締め付けられる苦痛に、嫌なイメージの嫌悪感が上乗せされ、潰されそうになったが、ボスが短い呻きを発し開放された。振り向くと銀色の鎧で転がっているボスと網の隙間から魔力弾を撃った愛菜が見えた。音を押し潰しそうな大太刀を退けようとして掴むと、またあのイヤなイメージが流れ込んで、大太刀は銀色に変わって行った。音は直ぐに回復して、愛菜の網を解きに掛かった。不思議に絡まって解けなかったけど僕が触ったら、予想通りイヤなイメージと引き換えに、黒い網が、ふつうのロープの白っぽい色に変わり、愛菜は布団から起きるように簡単に脱出した。
武器や防具を回収して、しっかり拘束。一息入れてから、カトリーヌに1頭ずつ呼び返してもらい、到着・落馬・魔力弾・武器防具回収・拘束のルーティーンで始末して昨日残しておいた盗賊の馬車に積み込んだ。遅い朝ごはんを済まして、旅を再開した。
昨夜は3時間で飛ばした道程も、長旅のペースで走るとお昼でやっと半分ちょっと。馬達が喜びそうな草ムラでランチにした。人攫いの馬達はどれも立派で、メインの馬車を2頭立てにして、カトリーヌが手綱を取り、荷車と盗賊の馬車はそれぞれ1頭ずつに引かせていた。他の2頭もついて来ているので、更に派手な御一行様って感じになっていた。
午後も同じ様に進んで、4時半過ぎに昨日の支部に到着した。昨日の分の報奨金を貰って、人攫い達を提出。まさかの大物に受付嬢は驚き、事務所に人を呼びに行った。ベテラン風の職員さんが一緒に来て、受取りの手続きを済ませてくれた。Aランカー並の仕事なので、魔力測定を勧められた。測定結果は、3人がCランクに昇格、僕は相変わらずのFだった。僕の測定の時には測定器の針がピクリともしないので、故障かと思って、装置を交換して測りなおしても全くのゼロでまた驚かせてしまった。
その後、馬車や馬、その他の戦利品を売りに行く。全部売っちゃうつもりだったけど、カトリーヌは馬車の大編成にしたいと、馬車2台と、馬5頭を残したいと主張。天使モードの可愛いおねだりに負けて、馬車1台と、馬4頭を残した。1台にした代わりに、今の馬車と同じ塗装にしてもらう事で、カトリーヌを納得させた。折角なので、整備と補強もお願いして明日の午前迄に完了させてもらえる事になった。人攫いの報奨金が高額過ぎて明日の朝の支払いなのと、ステータスププレートの更新もその時なのでそれ程のロスでも無い。荷車をキッチン専用にして、食料スペースを確保、保存食を詰め込んだ。この町を出ると国境を越えて西国の一番近い町まではテント3連泊の予定なので、食料の確保は重要だし、体力の温存も必要なので宿でのんびりしておこう。報奨金で懐も温かいので、支部のオススメでセキュリティーのしっかりした宿を取った。ご馳走を食べて、温泉に入ってお布団でのびのび眠れそうだ。いつの間にか、隣は春さんの指定席になっていて、夏さんと音、秋さんと愛菜、冬さんと風香がペアになっていた。手を繋いで寝ようと思ったら、
「自立出来るように、一人で寝てみるわ、どうしても怖くなったら、お願いしてもいいかしら?」
確かに、西国に送り届けたら一緒に寝られないもんね。心配だけど、本人が頑張るなら応援しなくちゃね!
「うん、いつでもオッケーだよ!」
どうやら4人で頑張ることを決めていたようで、他のペアも別々に休んだ様だった。気になって寝付け無かっのでそっと様子を見てみたら、皆んな落ち着いて眠っているようなので、安心して眠りについた。




