花火
長老のお宅は快適だったけど、夢の中までは効果が無かったようで、隣に寝ていた春さんは今夜もうなされている。手を繋ぐと落ち着いたようで眉間のシワは薄くなって行った。その代わりグイっと寄って来て、僕に抱き着いておとなしくなった。頭を撫でると僕の胸に頬ずりして幸せそうに眠っていた。
明るくなって来て目を覚ますと他の3組も同じような状況が想像出来る感じで眠っていた。今夜から眠る前からくっついて寝たほうがいいのかな?
朝ごはんをご馳走になり、お弁当も持たせてくれた。VIP待遇でお見送りしてくれて次の町を目指した。
途中一泊は必要だけど、ちょうど良い所だと、午後3時には着いてしまう。その先を狙うと9時か10時くらいまで走らなければならないので、無理をせずにのんびり行く事にした。狩りをしながら進み、晩ごはんのおかずを確保した。そろそろ宿泊予定地に着きそうな頃、怪しい馬車が凄いスピードで追い抜いた。そのまま走り去ると思ったが、すぐ前でいきなりスピードダウンして停車してしまった。慌てて停まると、後ろからもう一台詰めて来て身動き取れなくなった。ゾロゾロと見るからに悪人ヅラの男達が降りてきた。最後に登場したのがボスらしい。
「真っ白な馬に、真っ赤な馬車って目立ち過ぎるだろ?小娘が手綱握って無事に通れる程、世の中って平和じゃ無いんだよ!」
「そうなんです!僕も派手だと思ったんですけど、魔術師協会の支部長さんが、この位目立った方が、盗賊1件片付けたら噂になってその後がラクだって言ってました!」
ニッコリ笑って、咥え煙草の火が付いた所だけ切り落とした。慌てて剣に手を掛けたので、
「抜くのなら本気出しますよ!」
冷や汗をかいたボスは、自分は引いたが手下をけしかけた。前後の馬車から計15人降りていて手に手に剣を掲げていた。僕も捕まえて、商品にするつもりだろうから、本気にはなっていないし、だいたい小娘ってバカにしているのでサクサクと手首を切り落とした。ボスは一人で逃げ出したので、片脚を落としておいた。
「懸賞金の一覧調べてるんだけど、オジサンって、あんまり有名じゃないのかな?」
「ありましてよ!ソレで金貨6枚です。たいした事は無いですね、支部に運ぶ手間を考えたら、首だけで金貨3枚のほうが効率いいですね。」
「逃げる心配も無いから、それもいいね!」
剣を振りかぶると、ボスは失神してしまった。武器と金目の物を回収してしっかり拘束した盗賊をうしろの馬車に積み込んでおいた。因みに、手と手首は風香が別々にヒールを掛けてあるので、一週間以内くらいにAランク魔法で付けて貰えば元に戻るはず。キャンプの隣に置いておくつもりだったけど、四季の姉さん達が怖がりそうなので、盗賊を積んだ馬車を、2頭立てにして最速で飛ばし、次の町の支部に届け、1頭に乗って帰って来れば寝るまでには間に合いそうなのでひとっ走り頑張ることにした。1人じゃ心配だとカトリーヌもついて来ることになった。
整備された街道も2頭立ての全速力だとかなりの振動だった。無造作に積み重ねた盗賊達は辛いだろうな。3時間ちょっとで到着、支部に魔犬駆除の手続きと盗賊確保の状況を説明して、その他の押収品ともう一台の馬車は明日持って来る事を告げキャンプに舞い戻る。2頭立ての1頭に乗って帰るつもりだったけど、
「湖の上、真っ直ぐ飛んで帰ろうよ!」
もう一台の馬車も連結して引けるとカトリーヌが胸を叩くので、提案に乗ってみた。街道は湖畔をグルッと迂回しなければならなかったけど、竜になったカトリーヌに捕まると一気に湖面1メートルを直線で飛んだ。30分でキャンプ地に到着。皆んなは釣りの最中で、なかなかの釣果だった。晩ごはんまで僕も釣りをしたけど、一匹も釣れなかった。
魚の煮付け、焼き魚、お刺身とお魚三昧。手軽に狩れる鶏に偏りがちなので、凄く有り難いご馳走だった。
愛菜は何かブツブツ言いながら魔法の本を読んでいる。
「もう少し親切に書けないのかしらね!」
文句を言いつつも、満面の笑みなので、調べていた事はクリアしたみたい。
「行きますわよ!」
愛菜が湖の上空に向って両手をかざすと手の平が光り、漆黒の空に大輪の花が咲いた。
「すんごくキレイだけど、まだ3月です!」
「秋さんのお郷では湖畔の温泉街で一年中、毎晩花火が上がるそうよ、季節に拘るなんて、慈子らしくないわね!」
愛菜が秋さんを励ますために頑張ってくれたのも嬉しいけど、秋さんが自分事を話していた事がとても嬉しかった。景気よく20発位上げると愛菜の魔力が切れた。
「以前はここまで使い切ると、フラフラになって回復に一晩掛かったのよ、支部長さん、教えてくれなかったけど、何かないと説明が付きませんわ!」
確かにそう思うよね?まあ、良い方向への変化なので、気にしないって選択肢も有るんだけど、愛菜はきちんと知りたいらしい。今回の長期任務をやり切ったら教えてくれるかもしれないな。種明かししちゃうと努力無しで魔術を習得出来るとか、僕らにサボり癖とか付かないような配慮かもしれないな。
「花火もキレイだったけど、湖に映った花火もキレイで街で観るのと比べたら、2倍たのしめたね!」
「あら、私、発射に集中して空しかみてませんの、慈子ズルいわね!」
「私も湖面の花火大好きよ、懐かしい景色ね!」
秋さんが嬉しそうに言うと、愛菜以外は大きく頷いた。プイとソッポを向いて、不機嫌を演じた愛菜だけど、成功の達成感で、微笑みは隠せていなかった。
花火の余韻に浸ったまま寝袋に入った。テントごと結界で護ってあるので、中は、快適な温度が保たれている。寝袋のファスナーを閉じないで、春さんと手を繋いで眠った。朝までうなされずに眠れていた様だった。




