魔族と人間
なだらかな坂道を10分程歩くと、石碑があり、四角い石に二振りの石の剣が突き刺さっていた。
石碑は、見たことの無い文字でビッシリ埋まっていた。ベルは読んでいるようだったので、じっと待って内容を教えて貰う、、、つもりだったけど、
「天族の言葉じゃ、ところどころしか解らんがのう、、、。」
何となくの情報だけど、大昔、人間が世に現れる前、世界には天族と魔族が住んでおり、争うことも無く暮していたらしい。ある時から、天族に子供が出来なくなり、滅びかけた所、魔族とのハーフなら産まれる事がわかり、天族の力も、魔族の力も持たない子供達が、人間になったそうだ。天族はその後絶滅し、魔族と人間が残った。徐々に棲み分けが進み、別々の世界が出来て、その後敵対するようになったそうだ。
昔の魔族は人間達も自分の子孫だから共存共栄を望んでいたようだ。ここは先代魔王の墓ではなく、魔王の先祖の墓らしい。さっき倒した魔王の雫の様子からは、この墓から、力を得たとは思えなかった。
他の情報も無く、石碑の文字を写して山を降りた。帰り道は、魔物も出ずに順調に進んで、龍ジイとの約束までに海岸に辿り着いた。釣りをしながら待ったけど、全く釣れなかった。保存食も冷凍おにぎりもまだあったのでのんびり待っていた。
ソロソロかなっ?海を眺めていると、あっという間に時化てきて、船が来そうな海じゃ無くなった。テントを畳んで、洞窟に戻り、もう一泊の支度をした。
大嵐も明け方には収まり、海岸で待っていると、遠くに船が見えた。カトリーヌが飛んで迎えに行き、直ぐに戻って、ピストン輸送。ギリギリ近くまで船が近付いた所であらたを運び、龍ジイは円錐山の島に船首を向けた。
島には夕方着いて、真っ直ぐ宿に入った。保存食ディナーも美味しいけど、宿のご馳走はやっぱり美味しかった。海の幸満載の料理に舌鼓を打って、僕らが遠征中に探しでくれた米酒の冷酒で乾杯した。
翌日、大陸への船に乗り、馬車を預かっている宿でまた一泊。翌朝、協会の出張所に行って最新情報を聞いて見ると、チョエンらしい女が、岬地区で目撃されたそうだ。海岸沿いを通って東国へ向かう事にした。一日一杯走って宿。それを繰り返して国境に到着。領主の屋敷に寄って、理香さんと理沙ちゃんに挨拶。お約束の様に泊めて貰い、翌日国境を越えた。
東国に入ると、小鬼担当のお兄さん、(あらたの幼馴染みね)が待っていて、チョエンの足取りを教えてくれた。そのまま合流して岬地区に直行する。小鬼のコロニー跡に着くと
「「魔王の雫ですわ!!」」
コロニーの奥に進むと、
「「魔王の気配、離れて行きますわ!外の様です!」」
急いで引き返したけど、既に気配は感じられなかった。コロニーの奥に進んでいた姉貴から水晶玉で連絡が入った。
「チョエンが死んでいるわ!」
急いで合流すると、死体は確かにチョエンだった。
「出産したようじゃな、魔王の雫が、百零の決闘で作った身体で孕ませたんじゃろう。胎児に自らの魂を移して、世に出るまで、元の身体を囮にしてたんじゃな!」
魔王の雫は、赤ん坊になり岬地区のどこかに潜んでいる事になる。誰かチョエンの仲間が保護しているのだろう。足取りを探したが、手掛かりがスパッと切れてしまった。手分けして、他のコロニー跡を調べたが、何の手掛かりも見つからない。東国の協会を総動員して小鬼狩りをしたが、コロニー殲滅後の残党が数匹引っ掛かった位で、雫を宿した赤ん坊は見つからなかった。
魔王の雫は行方不明になってしまったけど、復活に必要な物は全て潰しているし、手助けするチョエンは死んでしまっている。チョエンの仲間が居るのかも知れないけれど、魔王の身体を造っていた者達や、四天王、十二鬼将の器を造っていた者達は既に潰している。仲間がまだいるのなら、既に援軍に来ていないのは不自然なので、戦力になる手下も居ない、武器も何も持たない、産まれたての赤ん坊になっている筈。こちらも手掛かり無しで手詰まりだけど、魔王の雫も、雫から格上げは困難な状況だろうな。力を付ける前に見付けて倒したいな。
「ある程度、力が付いたら見つけ易いかも?」
音は、目先の危険は無さそうな事と、復活の過程で、何か目立つ事がある筈だと、長期戦覚悟で望むべきと主張。なるほどと皆んなが頷くと、
「折角、東国に来たから『味』行こか!」
あらたの提案で、僕らは魔窟トライアングルに向かい、バラさんはここで『ただいま』、おっちゃんとナベさんは北国へ帰る事にした。
おっちゃん達と別れ、円さんのお店に寄った。北の孤島にあった石碑の話をすると、ガッツリ喰いついて来たので、写し取ったメモを見せると、ベルが何となく読んだ内容で大体合っていて、新鮮だっのは、魔族と人間が仲違いをしたのは、人間が成長し、文化や科学を身につけるようになり、魔族を邪魔にするようになった事が発端らしい。人間に迫害された魔王を天族の生き残りが、孤島に葬ったのがあの石碑との事。
「魔族退治って勧善懲悪だと思ってたのに!なんかヘンな気分です。」
魔族の特徴が強い小鬼を集めて、魔族復活を目論んでいる所があるって言われていて、岬地区のコロニーの事かと思っていたけど、どうやら北の孤島がそれだったみたい。今回乗り込んで、女子供まで殲滅して来たので、どれだけ掛けてあそこまで辿り着いたのか解らないけど、魔族の復活は当面は無いだろうな。石碑の事が事実ならと思うと、罪悪感で一杯だな。雫が成長した時に、話し合いが出来るといいかな?そんな事を考えていたら、いつの間にか泣いていた様で、姉貴の胸元は僕の涙でびしょびしょになっていた。




