山頂決戦
しっかり充電して、早朝から登山。また洞窟。今度は、迷路タイプで魔物は出ない。しばらく歩くと、
「「魔物の気配!」」
愛果と愛葉のセンサーに反応があった。
少し広い空間に出ると、黒い力が充満して魔法が使え無いジョウキョだった。鎧を着けた人?角無し?イヤ角はある?3人?3匹?
「魔族だ!」
おっちゃん達が剣を抜いた。
『何をしに来たのか解っている、ここ迄辿り着くのも想定済みだ。まあ、全員無傷なのは想定外だが、ここで死ぬのには変わりは無い。』
魔族は、不思議な響きの声で、剣を交える前に勝利宣言。最初は互角に、見えたけど、黒い力を浄化していくに連れ、おっちゃん達の剣が優勢になってきた。劣勢を覆そうと魔族は黒い息を吐いて、黒い竜巻にした。
「無粋じゃな。」
ベルが飛び出て竜巻を斬ると、飛竜に絡みつき、次の瞬間、黒い矢になって魔族達を貫いた。
上への階段状の通路を見付けてまた昇る。迷路、魔族、階段を繰り返す事6回。6回目の階段はしっかり整備された感じで20段毎に踊り場があって、その都度結界を破る必要があった。
「これだけ厳重だなんて、核心部なのかしら?」
風香は、ラスボスに備えようと警戒を強めたけど、
「「ただ、消耗させるつもりですわ!」」
どれも工夫が無く、魔力さえあれば、サクサク片付く程度の結界らしい。東雲をマスターキーのようにしているので、どの結界もサクサククリアしちゃうから、結界の強さとか、工夫なんて考えた事無かったな。おっちゃん達はまた顔を見合わせて呆れていた。
結界だらけの階段を登り切ると、大きめの空間が開けた。黒い力で満たされていて、早速浄化。薄明るくなると、魔族が10人程。まだ魔法は使え無かったので、それぞれ戦い、僕は浄化に専念した。接近戦が苦手な風香をおっちゃん達が護り、弓を活かして他の皆んなのサポート。やや優勢からスタートして、浄化が進むと、魔力刃が飛び交ってゲームセット。
おっちゃんは、ホッした様子で
「いや、何とかなったけど、アイツ等纏めて来たら危なかったな!」
「誰のお手柄か解る様に、別々に襲って来るんです!」
「おう、いい考えだな!」
「「ベルの受け売りですわ、」」
折角のドヤ顔だったのに、タネ明かしで大笑い。
「まあ、それはそうと、今の奴等、浄化の前に遅って来なかったのが不思議じゃ。襲わなかったんじゃなく、襲えなかったんじゃなかろうか?」
姉貴は少し考えてから、
「前の戦でかなりの魔族が滅び、絶滅寸前だったのよね?魔族の血が濃い小鬼なんじゃないかしら?少しでも人間の血が混ざって居るから、真っ黒の力の中では動き辛かったんじゃ無いかな?」
正解は解らないけど、中々いい推理だと思う。
長い長い梯子の様な急な階段があり、
「我々が先に昇りますね。」
バラさんが先頭を切った。
「エリカ、最後尾を頼む!」
おっちゃんと、ナベさんが続いた。いつもは、危険な先頭と最後尾は、おっちゃん達が譲らないので不思議に思って梯子を昇った。ふと上を見ると、直ぐ上を昇る風香のスカートの中が丸見えだった。下を見ると姉貴は、
「結構な眺めよ!」
ニッコリ笑っていた。
梯子を登り切ると、また外に出た。山頂はすぐ近く、盆地の様になっていて、長屋が沢山建っていた。しんとして無人かと思ったら、黒い力を纏った矢が放たれた。おっちゃんの結界はビクともせず、追って湧き出て来た魔族達も、ひと薙で斬り伏せた。
真っ二つになった魔族の亡骸は、小さいのもあるので小鬼かと思ったら、魔族の子供も交ざっていたようだ。長屋に残っていた女子供が僕らを襲ったらしい。30人程を埋めて、山頂方向にある、大き目の建物に向かった。
長屋とは一線を画した雰囲気は、あきらかにラスボス登場を予測出来た。愛果と愛葉が赤い魔力刃をクロスさせて扉に撃ち込むと、破れた扉から、堰を切ったように、黒い力が押し寄せてきた。ベルが飛竜で薙ぎ払うと黒い散弾の様に建物に襲い掛かり、あっという間に更地になった。黒い結界から現れたのは、魔王の雫だった。
チョエンと逃げた時よりひと回り大きくなり大きな翼を付け、顔、首、胸を覗いて鱗に覆われていた。
「騎竜に乗って逃げたんじゃなく、騎竜を取り込んで逃げたんじゃな!」
ベルが感心していると、魔王の雫は飛び立って、黒い力の空爆を始めた。互角の戦いだったが、離れて体勢を立て直すタイミングで、地上からの攻撃を受けると、カトリーヌの爪が、翼を奪った。地面に叩きつけられた魔王の雫は、自らが吐いた黒い息を大剣に変えて襲ってきた、
「サイズなら、まけへんで!」
あらたが、更に大きくした登鯉でガッシリ受けると、急拵えの右腕はパワーに耐え切れず砕けていた。二の太刀で、漆黒盾を斬り着けた。左腕は新しい魔王の為に作ったモノなので、しっかり受け止めていた。ただ、今度は踏ん張った両足が砕けて、盾を放り出した。カトリーヌが盾をキャッチ。僕の所まで運んでくれて、浄化を試みた。かなりのイヤな記憶が流れ込んだけど、何とか持ち堪えて浄化を済ますと、盾は煤の様に散って無くなった。残っていた右の翼でバランスをとって剣を振るっていた魔王の雫だったけど、飛び道具の集中砲火で、左腕を残して砕けて散ってしまった。盆地の周囲から攻撃のタイミングを窺っていた魔物達も、あきらめて散って行った。牽制していた猫達が戻って人型になった。
「ちー坊、トドメだ!」
動かなくなった左腕を、結界で拘束。直接触って浄化した。盾の時よりラクに済んだけど、魔王の気配を感じられなかった。
「「慈子もそう感じたのね?雫はチョエンが別にの所で育てているようですわ!」」
愛果と愛葉は悔しそうに、拳を握りしめた。
「先代魔王の墓は確かめておこう。」
音は冷静に、山頂を指差した。




