罠
弥生さんに作って貰ったお弁当を持って、魔窟に向かった。サクサク進んで、午後には『魔族の森』に足を踏み入れた。
「まさか、ここって事は無いわよね?」
姉貴がスルーしようとした洞窟は、教会で管理しているエリアで、全ての魔力は使え無いし、武器の持ち込みが出来ない。それもそうかと素通りしようとしたけど、
「やっぱり、一応覗いておきましょうかね!洞窟なんで、魔王の雫と関係無くお宝見つかるかもしれないし!」
馬車を停めて、武器をしまって洞窟に入ろうとすると結界に阻まれてしまう。ポーチかな?ポーチを外しても入れない。戦闘服?戦闘服以外で履物が浴衣に合わせた草履だけだったので、浴衣に着替えた。それでも通過出来ない。
「下着も耐魔繊維で出来ているからかもです!」
浴衣の中を落ち着かない状態にすると、教会のエリアに入ることが出来た。他の持ち物を試すと普通のバッグに、保存食位しか持ち込めなかった。カトリーヌ達はすんなり入れるんだけど、元の姿になってしまい、サイズ的に洞窟は無理だったので、馬車でお留守番。
洞窟に入ると普通に岩壁なんだけど、教会の礼拝堂みたいな雰囲気で、ちょっと落ち着かない位だった。魔窟同様、階層になっていて、5階層迄しか無いので、魔窟だとしたら小規模って所かな?魔物は居ないので、魔石も無し、清々しい雰囲気の中、最下層に降りた。ん?キャンプ場?テントがたくさん並んでいた。誰でも入れるんで、誰かいてもおかしくは無いんだけど不思議な光景に思えた。
「あら、いらっしゃい、お久しぶりね!」
テントから出て来たのは、チョエンだった。
「罠は出来て、エサを考えていたら、勝手に入って来てくれるなんて感激よ!あなた達、いいとこあったのね!」
チョエンの高笑いに合わせてテントから出て来たのは、見るからに盗賊の類の男達、ゾロゾロと20人以上。
「おう、久しぶり!」
髭面のオッサンも、久しぶりって言うけど、見覚えが無い。ご丁寧に自己紹介してくれた。以前僕らが協会に突き出した盗賊達で、チョエンの仲間が、牢を襲撃して脱走させたそうだ。体力で選別して、魔力が使えないこの場所でリベンジを果たす作戦の様だ。
「「結構なピンチですわ!」」
魔力弾と東雲で攻めの中心になっている愛果と愛葉は、魔力無しの丸腰の上、浴衣に草履では、戦う術が無い。風香も同じ感じだよね。あとは、多少の武術を心得て居るけど、体力差もあるし、平均しても3人以上相手にするのはキツイよね!当然逃げ道は塞がれている。
地面の土を拾って、目潰し代わりに撒き散らし、手当たり次第蹴り倒す。脳震盪を起こす顎を狙って6人倒した頃、姉貴も同じ位、音、ベル、あらたも数人倒し、戦力外と思っていた3人も、3人掛かりで善戦していた。
「頭を使いなさい!纏まって弱いヤツから捕まえるの!」
チョエンの声が響き、僕の相手は、防戦で時間稼ぎ、風香達が捕まってしまった。浴衣は剥ぎ取られ、帯で縛られ、姉貴達も捕まってしまった。
脳震盪で転がっていたヤツ等が意識を取り戻し、僕を囲んだ。
「今なら選ばせてやるぜ、俺達を楽しませてからラクに死ぬか、ボロボロになってから輪姦されて死ぬかどっちがいい?」
「どっちもイヤです!」
僕は叫びながら抵抗したけれど、蹴りが相手に届く前に捕まってしまった。
「そいつがリーダーで、そいつだけは釈せ無いわ、仲間が輪姦されるのを見物させてから、一人ずつ殺しましょう。」
目の前に連れて来られた音は、隙きをみて蹴りを入れ一人は蹲ったけど、
「股開かせる都合で足縛って無かったな!」
両足を別々の男に掴まれた。
「よく見えるか?」
僕を誂うように、音に覆い被さる。
「やめろ!!!!!!」
思い切り叫ぶと天井が崩れて来た。捕まえていた男たちの手が緩んだので、振り解いて、音を襲おうとしている男の股間を蹴り上げた。直接触れるのは脛でも不快だけど、確実に音から引き離したかった。風香達を助けようと視線を向けると、結界で身を護り、魔力弾で男達を眠らせていた。音と結界に飛び込むと、更に上層の天井というか、床と言うか、ガラガラと崩れて来た。しばらく轟音と振動を耐え、やっと落ち着くと、生き埋めになってしまったらしい。結界のすぐ外に倒れている男は、どう見ても生きて居ない。不可抗力だとしても人を殺してしまったらしい。
「ちー、この崩落はチョエンの仕業よ!ちーが叫んだら教会の結界が解けて魔法が使えるようになったの、チョエンはアタシ達の魔力が戻ったら勝ち目無しと見て逃げたようね。途中爆破しながら生き埋めにして、片付けたつもりじゃないかしら!」
少し気がラクになったかな?
さて、どうやって出る?魔法は使えるけど、何をどうしたらいいんだ?脱出方法を考えていると、岩と岩の隙間から白鼠がひょっこり。人型になって、
「洞窟が崩れて、出口を作ろうとしていたら、チョエンを逃しちゃった!先に助けたかったから追わなかったよ。」
鼠になったカトリーヌはまた岩の隙間に消えて行った。ガラガラと轟音が響くと上から日が差してきた。
岩の隙間で竜に戻り瓦礫を押し退けたようだ。人が通れる隙間をよじ登り突き当たると、カトリーヌが鼠から竜の変身で隙間を切り拓いてくれた。またよじ登ると頭上の瓦礫が一気に無くなった。猫達が掘ってくれていて、洞窟はすり鉢のようになっていた。
馬車に戻って戦闘服を着てやっと一段落。報告もあるし、街からそんなに離れて無いし、お風呂に入りたかったので、一旦引返す事にした。
「僕たちの武器とか戦闘服はダメなのに、爆弾持ち込めるなんて不思議です!」
「どんな薬品か解らんから、あくまで推測じゃがのう、薬を持ち込んで、中で爆薬を調合したんじゃ無かろうか?」
姉貴も同意見との事なので、きっとそうなんだろうな。本部に報告して、宿を取って速攻お風呂。魔窟の側の屋台で美味しものを買って、厄祓いの乾杯。
「皆んなで分けて飲んで、何ヶ月か過去に戻ったつもりで、今日の事は忘れましょう!」
姉貴は若返り薬を出した。
「せやな、ウチの記憶力なら3日で忘れるけどな、今、スカッと忘れたほがええな!」
仕切り直しして、明日からまた頑張ろう。




