緊急帰国
翌日、ベルが連れて来てくれた所は、学者さんが集まる研究所みたいな所で巨大な学校みたいな建物だった。その中の資料館と言う建物に入ると、壁一面にいろんなおじいさんの肖像画が飾られていた。
「この辺りかのう、、、おお有った!」
『おじいさん』の中に珍しく『おじさん』っていうか、『お兄さん』でも良さそうな肖像画を見つけ、
「音、側で見るがいい。」
「ちっ、父上!」
大きな功績を残した研究者達が並んでいるそうで、ざっと見渡して、最年少で選ばれているようだった。
「武器転用されたんで、ずっと日の目を見て来れなかったようじゃ。数年前、食品加工に応用されてな、代官山博士の功績と武器商人に屈しなかった生き様が評価されたようじゃ。やはりそなたのお父上か。」
感動に浸っていると係りのお姉さんが寄ってきて、
「代官山博士のご親族の方でしょうか?」
音は、ライセンスプレートを見せ娘だと名乗ると、誕生日を確かめちょっと考えてから、
「弟さん?弟さん達?が研究所の利用権で揉めているんです!館長に会っていただけませんか?」
「自分、ひとりっ子ですが。」
詳しい事は館長さんが話すそうで、応接室に通された。
直ぐに駆け付けた資料館の館長さんは音を見て、
「大きくなったなあ!産まれたばかりの時、先輩のお宅にお邪魔した事があるんだ!当然音ちゃんは覚えて居ないよね?」
極々珍しい『写真』を見せてくれた。よほどのお金持ちじゃ無ければ一生写されることの無い代物でさっきの肖像画の男性と真ん中に赤ちゃんを抱いた女性、もう一人を指差し、
「コッチが俺!顔は父さん似かな?背格好はお母さんダネ!」
おじさんは音の膨らみを凝視して、慌てて視線を逸した。風香や姉貴が目だち過ぎなので、音が控え目に感じるけど、引き締まったアスリート系の身体にアンバランスな膨らみは、結構なインパクトなんだよね。音は、ポーチから同じ写真を出した。
館長の話しを聞くと、ここで研究したいと言う若者が、毎度毎度押しかけて来るそうだけど、実績と推薦が必要らしい。それがない場合、コネか世襲。代官山博士の息子だと名乗る若者が4人いるそうだ。
「なんとなく、先輩の面影あるし、しっかりした研究なんで、無視するのもどうかと思いましてね、、、、。」
4人を呼んで貰って、虫メガネで覗いて見ると音を含めて5人は『異母姉弟』と見えた。弟って割に、僕らと同じ位の年齢だよね?
「あの頃、魔族との戦で夫を亡くした妻達がな、娼婦と偽って、優秀な男の子供を孕むのが流行ってのう、当時は売春も合法じゃったから、出張で来た若い者は、当たり前の様に娼館に通っておったからのう。儂が興味無いと断ったら、異常者扱いされたもんじゃ。」
異母弟の一人は、
「その子の言う通りです。」
他の異母弟も頷いて、研究のプレゼンを始めようとした。
「ここで研究出来るのは、一人なんですか?」
「イヤ、君が弟だって認めたら、4人全員でも大丈夫だよ。」
「では、今から5人姉弟です。父上が母上を裏切っていたのは悲しい事ですけど、身内が居るのを知って、そちらは嬉しいです。」
数カ月しか歳の違わない弟達と自己紹介しあい、連絡先を交換して資料館を後にした。
魔窟に向かう馬車の中でも、お父さんを赦して居ない様子の音にベルは当時の事情の説明を繰り返した。
「だとしても、避妊しないなんて無責任です!」
「妊娠したら仕事が出来なくなるんで、避妊は娼婦の責任なんじゃ、お父上もそのつもりだった筈じゃ。」
音は、納得した様子では無いけど、ベルに気を使わせるのも悪いと思ったのか、
「自分の弟達、なかなかのイケメンでしょう?先着4名様、義妹になれますよ!」
「「悪く無いわね!」」
愛果と愛葉が、ジョークかどうか微妙な反応で、一気に場を和ませた。
古の魔窟に着くと、この前テントを張った所に、協会の仮設出張所が出来ていた。魔王の封印や、魔晶石が無くなったので、一般開放を始めたみたい。お祭りの屋台みたいな食べ物屋さんが数店、椅子とテーブルがあってそこで食べられるんだね。攻略前に腹ごしらえ。お肉の串焼きとエビとトマトのサラダ、ジャガイモにチーズが乗ったのとかでおなかいっぱい。
「この料理に葡萄酒抜きって拷問よね!」
僕でさえ葡萄酒に合いそうだなって思っていたので、姉貴がそう言うのも納得だね。
「馬車とりに戻るやろ?そん時、パアっと飲もな!」
あらたが皆んなの意見を代弁してくれた。姉貴も頷いて、攻略を開始した。
魔窟は他の魔窟と変わらない感じで、他で見なかった落とし穴と迷路にみたいな仕掛けも、トンネルのある9階層迄には出てこないので、愛果と愛葉のトレーニング的に魔物を倒して降りて行った。
9階層に到着、そう言えば、愛果と愛葉になってから、魔術同盟やり直して無いけど大丈夫かな?僕の心配を他所に、魔物を狩り続ける二人は、さっさとトンネルをくぐって行った。
北国に移っても二人の勢いはそのままで、地上迄登った。魔石も豊作で、東雲が2振りになった時に砕けた魔石の補填が出来た。
おっちゃんの話しを聞こうと思い、急いで支部に行くと、
「アイナ?髪、伸びたな!」
えっ?そっち?2人になっのを驚くんじゃ無いの?そう突っ込んだら、
「なんか、驚くの飽きたんだよな、何が普通なのか解らんくなっちまった。」
おっちゃんの言い分も解る気がして皆んなで大爆笑だった。




