四天王・十二鬼将
「大きいのが近付いてますわ!」
愛菜が指した方向は水平線だけ薄っすら赤い、濃紺の西空。聳え立つような巨大な魔物が近付いて来ていた。砂で出来ているように見えた。
お兄さん達は、テントを棄てて逃げ出し、魔物はそれを無視して僕等に一直線。
「ウチの出番や!」
あらたが登鯉で斬り裂く。土の魔物はこれで再生しなかったが、砂の魔物は斬った場所が何処か解らないスピードで再生してしまう。
「扇子、試してみて。」
音に勧められ、ポーチから取り出し魔物を扇いで見た。竜巻が起きて、砂の魔物を呑み込んだ。魔物を構成していた砂は竜巻で吹き飛ばされ、黒い角無しが現れた。あらたはソイツを斬ったが、刃は通さず棒で叩かれた様に倒れて動きが止まった。急いで浄化すると、ほぼ人間の姿の角無しになったので愛菜が東雲でトドメを刺した。東雲を虫メガネで覗くと『鉱物を操る』と見えた。
「大昔の魔王に仕えていた四天王の1人が得意としていたと言われる術じゃ、他の3人の技も警戒するのが良かろう。」
ベルの講義によると、『猛獣使い』、『分身の術』、『魔力制御』の3人との事。言葉通りの2人と意味不明の魔力制御。魔力制御とは、相手の魔力を封じる力みたい。
竜巻で飛ばしたのは、魔物の砂だけじゃ無く、お兄さん達のテントや荷物だった。荷物はバラバラ、テントも再起不能。流石に僕のせいでホームレスって言うのも後味が悪いので、予備のテントと食料を提供、また馴れ馴れしく距離を詰めるので、愛菜の得意なビリビリを真似てみた。失神寸前の調整が上手くいくと、
「残りのネックレスも要らないわね!」
姉貴は最後の一本を外してくれた。
「また10倍になってるから、気を付けてね、さっきのパワーだと確実に感電死よ!」
お兄さん達は、やっと落ち着いて、テントに入って行った。
翌朝、日の出と共に起きて朝ごはん。サッサと、森に向かった。お兄さん達はまだ起きて居ない様子だったので?保存食を置いてそっと出発。森に入り、視界が狭くなると、正面に黒い角無しが現れた。魔力攻撃はほぼノーダメージなので剣で戦う。剣の腕前はまあまあかな?都合が悪くなると分身して連携攻撃を仕掛けてくる。どんどん増えて、皆んなが2、3人を相手にする様になった、カトリーヌと猫達も猛獣モードで加勢してくれているけど、結構な苦戦。このままだと島中が角無しになるんじゃ無いかと思う位。
「居た!コイツ!」
愛菜は一匹に白い放水で、黒い力を浄化した。僕も何とか食らいついて浄化を進めると、分身達の勢いが衰えた。
愛菜が仕留めると、分身達はスッと消えてくれた。東雲は虹色に輝いてスッと戻った。
「オーイ、待ってくれよ!」
あらら、面倒なヤツが追い付いた。追い返しても言う事聞かないので、邪魔をしない事、自分の身は自分で護る事を約束して同行を認めた。
「あのう、俺達にとっては眼福なんだけど、その、あの、えっと、、、」
気が付くと、セーラー服タイプの戦闘服はボロボロで、洋服としての機能を果たしていなかった。慌てて結界を更衣室にして、メイド服タイプに着替えた。
「それは、それで眼福、、、うっ!」
愛菜の蹴りでお兄さんがうずくまった。
更に奥へ進むと、
「数が多いわ!」
愛菜のセンサーが無数の魔物を捉えた。平面展開なので、犬か狼だろう。あっという間に取り囲まれた。襲って来たのは狼で、かなりデカイのから、一般的なサイズ迄色々、兎に角数が多いので飛び道具で数を減らす。ただ多過ぎて接近戦に持ち込まれる事もあり、剣を使えば遠距離が疎かになり、攻撃の輪が縮まって来た。結界が効かない黒い力を纏ったヤツが多く、次第に剣での戦い専門になった。折角着替えた戦闘服は、またボロボロになっていた。
「風香、あそこ!」
愛菜の叫びに反応した風香は、ノーマルの矢を撃ち込んだ、黒い角無しが木から落ちて来た、愛菜はシフォンに乗って狼の群れを蹴散らし、トドメを刺すと狼達は、散り散りに消えて行った。いつまでも残っている3匹を追い払おうとしたけど、どうしても離れて行かない。捨て犬が『拾って』アピールしている様に思えた。連れて行く気は無いので、無視していると、リュックを咥えて来た。お兄さん達のリュックだよね?虫メガネで見ると、『化け狼に噛まれて狼化した人間』と見えた。仕方が無いので連れて行くか。
残っている、1番戦闘服らしい戦闘服に着替え、先に進んだ。
「ねえ、何とか倒せたけど、アレがいっぺんに来たら手に負えなかったよね?」
「確かにそうね、仲が悪いのかしら?」
風香も同じ様に思っていたそうだった。
「誰の手柄かハッキリさせたいんじゃろう、縦組織で四天王横並びは、微妙なのかも知れんぞ。」
なる程、そんなモノか。ひとまず納得して、先に進んだ。
「あの一帯全部が1つの魔物に見えるわ!」
愛菜がエリアを説明していると、
「ココも纏まって真っ黒ですわ!」
盆地になった一帯が全部1つの魔物に見えるそうだ。周りを見渡すと、盆地の縁の辺りから、魔力弾が撃ち込まれ、結界は効かず、四方八方からの攻撃に剣で払うのが精一杯。カトリーヌが猫達を乗せて、上空に逃げた。何とか耐えていたら、猫達が外からの狙撃者を潰してくれて、何とか一息と思ったら、黒い力でフル装備の武将風のヤツらが12人?12匹かな?
「十二鬼将じゃ、油断ならんぞ!」
どうやらこの盆地の中では魔法は使えない様で、コイツらも剣で戦う事になる。魔力弾で戦闘服はまたまたボロボロなので、防御力もかなり落ちていた。何とか倒したけど、まともに立っていられるのは愛菜と僕だけだった。新手が現れると、一段と黒い剣を構えて居た。
「アイツがここのボスね、慈子力を貸して!」
沼の魔物とかの時みたいに、愛菜の肩に手を当てると、
「うん、行けそうですわ!」
東雲が赤く輝き、魔力刃が飛んだ。黒いボスも黒い魔力刃を飛ばし、愛菜を襲った。愛菜は東雲で払ったが勢いは止まらず、愛菜の身体は真っ二つに斬られてしまった。




