魔王戦 第2ラウンド後編
法力を魔王に集中出来ないうちに、魔王は首の数珠を引き千切った。
「わらわの封印を解いたのはお前らか、褒美に下僕にしてやろう。」
僕等が何者か解ってないみたい。
「折角ですか、仕事には困っておりませんよ、貴女を消滅させる為に来ているのですよ。」
教皇が優しく告げると、千切れた数珠のひと珠ひと珠が光輝く弾丸になって魔王を貫いた。魔王を包んでいた黒いヴェールが消えると、
「では、参りましょう。」
教皇は幼い子供を慰めるように優しく抱き締め、髪を撫でた。二人の全身が金色に輝き、しばらくしてバタリと倒れた。
「チー坊、トドメだ!」
おっちゃんの声で我に帰り、円さんに習っていたように剣を構えた。
十字に構えた日光月光が輝き、目を開けているのが辛い程になると、魔王の身体が同じように輝き、光が収まると魔王の身体は消滅していた。倒れていた教皇を風香がヒール、姉貴や円さんも加わり、意識を取り戻した。
「第2副教皇が持って来た藁人形に魔王の一部が分かれて逃げ出したようです、これを見て残りを消滅させて下さい。」
教皇は息を引き取った。
教皇が最期に渡してくれた水晶玉には、魔王の記憶が映っていた。封印を解いて、藁人形に乗り移り力を取り戻す前に、消滅させるのが、正しく安全な方法だったけど、第2副教皇が先走って、封印を解いてしまい、力を取り戻し始めていたため、消滅に手間取るコトになったみたい。教皇が僧兵に光の輪を放ったとき、魔王の一部が分かれて、第2副教皇が用意していた藁人形に乗り移り、誰かに拾われて既に魔窟を出た様だった。拾ったのは、岬地区からの薬剤師、見間違いじゃ無ければチョエンだろう。
教皇と僧兵達の亡骸を、ちくわを仕込んだ風呂敷に包んで地上に戻った。帰りは、魔物の気配も無く、階段や坂を昇る事だけが負荷って感じですんなり地上に着いて、そのまま教会に向かった。
教皇と僧兵達の葬儀は、魔王の一部が逃げ出した事で騒ぎにならない様、内密で行い、第1副教皇が繰り上がりで教皇になった。他の人事は、落ち着いてからとの事で、僕等は僧兵達の事を調べる事にした。
教皇が厳選した屈強な僧兵なので、厳しい修行で体力と法力も兼ね備えているはずなのに、簡単に操られるなんて不思議なんだよね、警邏隊の人の方が操るには簡単な筈なんだよね。第3副教皇、いや、第1になったのかな?副教皇に案内してもらって、僧兵達の話しを聞きに行った。
「変わった事と言えば、『筋肉の栄養』って言う薬って言うか、栄養剤がはやってますね、今回亡くなられた方々も飲んでいましたよ。彼等は飲まなくても、凄い筋肉だったんですけどね。」
栄養剤を見せて貰い、虫メガネで鑑定すると、『小鬼の脳、乾燥させて粉末にしたもの。タンパク質』と見えた。常用している人を虫メガネで見ると、黒い力が潜んでいるのが判った。
「東国の薬剤師が売りに来てました。」
教皇からもらった水晶玉で、チョエンを見せると、
「ああ、この人で間違い有りません、毎週日曜日に来ますから、今日来る筈ですよ。
栄養剤愛用者を集め、材料と、団長達が、魔王に操られた事を話して、残りの廃棄と身体の浄化を行った。
その日は夜になってもチョエンは現れず、他に行くアテは無いか尋ねると、教会の女性職員さんに美容に良い栄養剤を売っていると聞いて、早速訪ねた。
「いつもは日曜日の午後早い時間に来ますけど、今日は来なかった見たいね。」
栄養剤を見せて貰うと、僧兵達の物と容器だけ違う小鬼の脳だった。明日には全員出勤するので、朝出勤次第に浄化する事にした。
少し離れた宿で全員分の部屋が確保出来たので、馬車で移動。ゆったりお風呂に入って、ご馳走を食べた。
「魔王の1滴位よ、復活迄は数年掛かるわ。そんなに心配しなくても、その間に捕まえて消滅させればいいわ!」
円さんは割と楽観的に元気付けてくれる。おっちゃん達もおんなじ感じなので、今日の所は魔王消滅の打ち上げって事にして乾杯してみた。犠牲者を出してしまったし、逃げた魔王の1滴とチョエンが気になって、あまり楽しめ無かったけど、何とか明るく振る舞っていた。
「ちー、無理しなくてもいいんだよ、一緒に戦った仲間が亡くなったのって初めてでしょ?」
弥生さんが頭を撫でてくれた。小さい頃、両親が居ないって苛められた時のみたいに優しく慰めてくれた。皆んなもそう思っていたようで、音の涙腺が決壊すると、あっという間に、皆んなに伝染しちゃった。ひとしきり泣いて落ち着いたら、おなかが空いているのを思い出した。気付けばご馳走が並んでいるので、打ち上げの続きを楽しむ事にした。早目にお布団に入って、これからの事を考えようと思っていたけど、枕に頭が乗った瞬間、熟睡しちゃったみたい。
朝起きて、昨夜の寝付きの良さを報告すると、皆んな似たり寄ったり、疲労が溜まっていたんだね。朝湯に入って、ご飯を食べて、教会に行って、職員さん達を浄化する。
かなり濃い人が多く、浄化に時間が掛かっていると、お姉さん達のお喋りに花が咲いて、チョエンの事も少し聞けた。南の海に浮かぶ、離島に住みたいって言っていたらしい。
「『魔王の雫』とでも呼ぼうかのう?アレもあそこなら邪魔されんじゃろう、隠れて育てるにはうってつけじゃな。」
おっちゃん達は、魔族の森も怪しいと三国上げて森を狩る事にして、それぞれのホームに帰った。ナベさんはまた4分の3周して帰るみたい。円さん、弥生さん、師匠も帰って、僕等だけで、南の島を調べる事にした。




