魔王戦 第2ラウンド前編
宿で待っていたのは、白い法衣に金の縁取り、教皇様の様だった。さっき一緒に魔窟に潜った第3副教皇が、推測が正解な事を教えてくれた。
教皇の耳には、今日の事は入っていなかったそうだ。次期教皇を巡る、第1、第2副教皇の争いで手柄を我が物にと第2副教皇が、今日のメンバーを送り込んだらしい。
「最下層の封印は、教会の大きな力で護られています。これをお使い下さい。」
教皇は首に掛けていた数珠を外して渡してくれて、封印を安全に解く方法を教えてくれた。
「明日は、教会の方はいらっしゃるんですか?」
「私が参ります。僧兵も屈強な者を厳選して連れて行きますよ。」
お話しによると、面倒な仕事を押しつけられた第3副教皇が、取り敢えず準備して、手の空いていた4人を連れて来たそうだ。
「教皇様がご一緒なら、お数珠はお返ししますね!」
「いや、最下層迄生き残れる君が持っていておくれ。あの魔窟には、法力も及ばない魔晶石が幾つも有って、魔物を駆除する度に、数倍の強さだったり、数倍の数の魔物が押し寄せて魔窟を支配するんです。」
「その魔晶石ってコレですか?」
「えっ?」
教皇様があんぐり口を開け、何か言いたそうにしていた。
やっと落ち着いた教皇様は、過去の魔物駆除の事を教えてくれて、巡礼者向けの宿泊施設を使わせてくれると誘ってくれた。今日のこの宿は、何人かしか泊まれなくて、別の宿に分かれて泊まる予定だったので、お言葉に甘えて、移動する事にした。
施設に付いて門を潜ると、カトリーヌ達が急に元の姿に戻った。敷地内に法力が張り巡らされていて、そのせいで戻ったみたい。この姿で泊まれる部屋は無いので、おっちゃん達と師匠、弥生さん、円さんがここに泊まって、僕らは元の宿に戻ったけど、既に埋まってしまっていたので、魔窟の側の空地でテント泊。魔窟攻略に来る魔術師が泊まれるようになっているので、結構快適。
晩ごはんは近くの食堂に行って、あらたオススメのお好み焼きを食べた。
「アカン、ピザとちゃうねん!こないしてな、、、」
放射線状に切ろうとした風香を制し、格子状に切っていた。鉄板奉行になったあらたは、イカとエビだけ食べようとしていたシフォンに説教したり、大忙しだった。泡麦酒をジョッキで飲むと、熱い鉄板で火照った顔にヒンヤリがとても嬉しかった。
朝ごはんの買い出しをしてテントに帰った。あらたの兄ちゃん達が作ってくれた、南国のお菓子が売っていたので本場の味を試してみた。とても美味しくて、流石にホンモノと感心したけど、兄ちゃん達のお菓子もなかなかの出来で改めて驚いた。僕にはやっぱり100点だったと思ったけど、音は、
「生地が違う!モチモチ感が違うわ!」
確かにそうかな?
知恵は貸せないけど、舌なら何とかなるかな?しっかり記憶しておこう。
テントに帰って、寝袋に包まる。今日はお風呂は我慢。
「どこかのお宝で携帯のお風呂無いかしら?」
風香は面白いリクエスト、でも残りの魔窟って南国の3つだけで、全部が最下層迄攻略済みなんだよね。
「例の風呂敷で持ち歩けんでも無かろう、湯は魔法で賄えるしなあ。丁度いいテントでもあれば充分じゃろ。」
チャチャっと設計図って言うか、デザイン画が完全していた。シャワーをどうするとか色々考えながら結構遅く迄お喋り。明日も、いやもう今日だね、早起きするので、慌てて灯りを消した。
翌朝、おっちゃん達が教皇様と僧兵4人とやって来た。警邏隊は昨日と同じメンバーで3人。早速潜ってサクサクもと38階層。
「助け、、、」
逃げて来たおじさんは、法衣の縁取りが銀なので第1か第2の副教皇だろう。追って来た黒い煙に捕まって、自身も足元から煙になっていった。
教皇は法力で煙を押し戻し、最下層を隔離し、倒れた副教皇を助ける。
「魔王の封印を解いて、消滅する手順で、私の法力が全く効かなくなって、、、」
教皇の法力も及ばず、副教皇の全てが黒い煙になってしまった。
最下層に降り、教皇はお祈りで黒い力を浄化、続々と湧き上がる黒い力をと拮抗していた。愛菜が白い霧で加勢すると、視界が確保され魔王を封印した水晶玉が黒い力の発生源だった。おっちゃん達が消魔石を祭壇の周りに置くと、黒い力の発生が収まった。空間の黒い力を浄化すると教皇は、
「剣をお取りなさい。」
封印に使われていた日光、月光のサードを取り、持っているオリジナルに重ねると、セカンドの時と同じ様にサードはボロボロと崩れ、オリジナルの輝きを増した。
円さんは、藁人形を祭壇にセット、教皇のお数珠を掛け、僕に合図をくれた。僕は真っ黒の水晶玉を持ち上げ、石で出来ている祭壇に打ち付けて粉々にした。
水晶玉の黒さは、煙とも何とも説明が出来ない気体?浮かぶ液体?兎に角、黒い何かになって、藁人形に吸い込まれて行った。藁人形は真っ黒になり、赤ん坊の形になって、みるみるうちに成長して、大人の女性の姿をになった。黒い何かがヴェールの様に纏わり付いているので!ハッキリとは見え無いけど、姉貴が最初に変身した時のお色気たっぷり過ぎ見たいな姿で一糸も纏っていない。首に掛かった教皇様のお数珠を苦しそうに外そうとしていた。
「誰か、私を斬って下さい!」
僧兵の1人が叫んだ。4人とも不自然な動きで、
「身体が勝手に動こうとするんです!どんどん自由が効かなくなってます!このままだと、魔王に操られてしまいます!」
苦しむ僧兵たちは、足先から徐々に黒い力に浸食されて行った。
「団長、今のうちに!」
3人が剣を捨て、四つん這いになった。
「判った、先に行ってくれ、三途の川で待っていてくれよ!」
団長と呼ばれた僧兵は、3人の首を落とすと、自分の腹を裂こうとしたが、黒い力が全身に行き渡ってしまった。何とか切腹をと黒い力の支配に抗っているが、動きが止まっていた。
「志、無駄はしません!」
教皇は手刀を切ると光の輪が飛んで団長の首を落とした。




