魔王討伐
僕が産まれる少し前の話、魔術師協会のおっちゃんに聞いたお話。でもおとぎ話?実話?いつも冗談言っているおっちゃんなので、話半分で聞いておいた。
魔王城に初めて人間が立ち入った。西国のヒーロー『鎧の貴公子・滋』と、東国のヒロイン『癒やしの剣姫・絆』。魔王の手下を打倒し、魔王を追い詰めていた。但し、二人も万全では無かった。数多の魔族を倒し、砦を落とす迄に、体力は限界、魔力もほぼ使い方果たしていた。魔族の領域に立ち入ることすら、並の人間では困難な事で、城に踏み入れられたのはふたりだけだった。
「ここまで来たことは褒めてやる。刺し違える力も残って無いであろう、どうしたいんだ?」
「フフフ、やって見ましょうね!」
絆が微笑むと、
「まあ、封印迄しか無理だろうが、お前が眠っているうちにキレイさっぱりさ!」
滋は魔王を斬りつけた、
「そんなんじゃ、痛くも痒くもないな。」
次の太刀で魔王の首を刎ねた。驚く魔王に、
「鎧の加護で相殺したからね。」
「防御を封じて勝ったつもりか?」
首が戻ろうとした胴体は絆のハグで消滅した。
「癒やしの加護と引き換えたわ、カラダは、諦めてね。」
首だけの魔王は、
「お前ら、それで手詰まりだろう?」
「ふたりだと思った?」
「どこに居るって言うんだ?ハッタリもいい加減にしろよ。」
滋と絆は見つめ合うと、
「私達のベイビーちゃん、あなたの魔力、貸して頂戴ね!」
二人の持つ2振りの聖剣が輝いて、魔王の生首を十字に斬り裂いた。魔王の魔力が消えると、城は崩れ、従えていた魔獣達が暴走し始めた。均衡は崩れ、魔族達は壊滅した。
魔王城から生還したふたりは、仲間達に、
「王様、俺を婿養子にして王位を継がせる気だろ?それ勘弁だから、魔王と刺し違えた事にしておいてよ、報奨金は皆んなで山分けしていいからさ!」
「うちの王様も、王子のフィアンセだって言って聞かないから、私も戦死って事でお願いね!これ、教国の本山に返しておいてね!」
聖剣『月光』を腹心に渡すと、
「ああ、俺も!」
滋も『日光』を渡した。
「それから一番大事な事ね、コレを教皇に頼んで封印して貰ってね!」
「このままでは、10年もしたら封印は解けてしまう、教皇の法力と教会の結界でこの子が成長するまで持たせてくれ、このまま消滅させられる筈だ!」
ふたりは、北国に密かに入国して、パン屋の若夫婦として暮らし、絆は女の子を産んだ。封印に、全ての魔力を注ぎ込んだふたりは、戦の傷が癒えることが無いまま、乳離れを待たずに絆が、物心付く前に滋が逝ってしまった。
ヒーローを失った西国、ヒロインを失った東国では、彼等の『生存説』が広まり、遂には『駆け落ち説』が囁やかれるようになった。両国は必死に彼等を探したが、何時しか『指名手配』のような扱いになり、娘を引き取った大家の老夫婦は、目立たぬよう目立たぬよう細心の注意を払って育てて行った。
「その娘がチー坊なんだって!今、魔法か使えないのは、魔王の封印に使ってるからなんだ、封印した魔王を消滅させるんだから、早く強くなれよ!」
話半分だと思ったけど、十分の1、イヤ万分の1でも良かったかな?