表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/27

7話 俺は最後までお前のそばにいる

 サラサと協力して、衛兵たちと繰り広げた逃走劇。


 ときには宿屋の女将さんにかくまわれて、世間話をして笑った。

 ときには高所から飛び降りて、真下にあった屋台に上空から突っ込んだ。

 浴場へ足を踏み入れて、衛兵たちが通れない場所を、子供の特権で横断した。


 地球でも似たような修羅場はかいくぐってきたが、ファンタジー世界となると細かなところが変わってくる。


 特になぜかまったく分からなかったが、突如現れた巨大な炎が、浴場で爆発してしまって。

 本当に貴重な体験ができた。

 必ずまた都市には戻ってきたい。


 しかし、木を隠すなら森の中。

 最終的には賑わう大通りを通り抜けて、人ごみに紛れることにした。


 そして、隙だらけだったある1つの荷馬車にのったのだ。

 城壁都市マダンから脱出するために。


 記憶を取り戻す前のスラムでの生活。

 カイドウとのやり取り、ゴロツキとの死闘。


 さすがに疲労がたまっていたのだろう。

 馬車の中で、積み荷にかぶさっていたシートをもぎ取ると、意識は途絶えてしまった。


 決して、ここまでは決して楽な道ではなかった。

 とても楽しいし、気合で乗り越えてきたけど、実際はなんど死にかけたかわからない。


 それでも。

 温かな眠りの居心地は、まるで女神に包まれるかのような、祈りのような幸せだった。


 そして――


「この、馬鹿野郎が! 村のみんなに分ける大事な食料をむさぼりやがって! 路上で野垂れ死んじまえ!」


 おそらく夜が明けた。

 たったいま馬車の持ち主である中年の男から、自然むきだす路上へと蹴りだされたところである。


 都市から、かなり移動しているはずだ。


 ぱっとあたりを見渡すと、木々がものすごく多い。

 馬車が通る道も、砂利ばかりで整備がされていない。


「た、たのむ! お願いだから見捨てないでくれ! こんなところで残されちまったどうしようもねぇ! 俺にはもう……帰る場所がねぇんだ!!!」

「ふん。同情はしねぇよ。世の中には悲惨なことがあふれている。俺にもお前をかくまう余裕はねぇ。これが運のつきだったと思って、あきらめるんだな」

「おっさん!!!」


 俺の渾身の叫びはしかし、先行く馬車にかかることはなかった。

 馬車は一度も振り返らずに、モノの視界から消えていった。


 呆然と地面に手をついていた俺は……しかし次の瞬間にすっと立ち上がる。


「親にも見放されて奴隷になるのが嫌で、命がけで城壁を抜けた少年を演じたつもりだったが……。なにせ奴隷とか、この世界の制度をよく知らないから上手くリアリティを出せないんだ。自分がふがいない」

「ううん、単にモノの話し方が、口先だけで、心がこもってないからだよきっと」


 ジト目をしているサラサから、抑揚のないツッコミが来た。


 さて、改めて周りをみると、どうやら森の途中に取り残されたらしい。

 道を戻れば物理的には都市に帰れる。

 だが、朝になるまで馬車に乗っていた以上、そんなことをすればさすがに死ぬ。


「あのおじさん、なかなか酷い人だったね。一応だけど子供をこんなところに放り出すなんて」

「さて、これもまた世界の常識なのかもしれないがな」


 方針を決めなければならない。


「戻れないし、行先もない。……となると、森の中で生きるしかないか」

「危険だよ? 都市にいた女将さんの話では、魔物がうろついているって……。もうちょっと慎重になるべきだったね」

「そうだな。……だが、サラサがいれば問題あるまい」

「それは……できる限りのことはするけど……」


 その直後、サラサが首をかしげたことに気づき、俺は彼女の視線の先を見た。


 するとそこには、全身を黒に染めた狼のような、動物らしきものがいた。


「本当にいたな。魔物……」


 子供である俺よりも一回り大きい、頭から尻尾までの長さでみれば2倍以上ある。

 漆黒の体毛が、刺のように全身にまとわりついている。

 あの鋭い牙や爪でひとたび攻撃を受けたものなら、俺の首はすぐさま飛ぶだろう。

 赤い眼球がギョロリとこちらを射抜く。決して友好的ではない。


 この世界に生息する、人間に害をなす動物の総称。

 それが魔物。

 おそらくこの魔物は、ウルフ系のそれなのだろう。

 大きさや能力の強さによって、個体の名称は変わるらしい。

 その1つの命が、いま俺に襲い掛からんとしている。


 ただ、気になる点がもう一つ。


「けが、しているね……」

「ああ、正直、助かるかといえば」


 けがというよりは、すでに致命傷を負っているように見える。

 腹のあたりに大きな裂傷があって、そこから赤い血がとめどなく流れ出て、地面に聞きたくない音をならしていた。


 それでも、俺を襲おうと向かってくるのは、瀕死であるウルフがもつ最後の本能なのかもしれない。


「モノ……!」

「大丈夫だ」


 俺はサラサの制止をさえぎり、ゆっくりとウルフに近づいた。

 自分が襲う側だと疑っていなかったのかもしれない。

 逆に俺に近づかれたウルフは、ここにきて、一歩さがる様子を見せた。


 だが、逃がすつもりはない。

 俺はウルフの頭をそっとなでる。

 とがっているように見えた表皮は、しかしとても柔らかかった。


 手を通して、かすかな鼓動が伝わってくる。


「すまない。俺は、お前の傷を癒してあげることができない。そして、お前のために食らわれることもできない。お前を助けてあげられない」


 何がきっかけだったのか、そこでウルフはぐらりと倒れてしまった。

 倍の大きさがあるウルフを、俺はしっかりと抱きとめる。


「せめて、安らかに眠れ。それまで俺がずっと抱きしめている。お前にとってそれは何の価値もないことかもしれないけど。それでも俺は抱きしめる。俺にとっては、ここでお前と出会えたことは嬉しかった。光栄だった。お前と今日この日に出会えたことを、俺は忘れない」


 初めてウルフにであったから、だから大事にする?

 そうではない。

 俺にとっては、人も魔物も、みんな同じなんだ。

 生きている者、いや、意思をもつ者はみな、愛おしい。


 抱き寄せたウルフは思った以上に軽い。

 俊敏な身のこなしをするが故のものなのかもしれない。


 それでも、ぎゅっと寄り添えば、その命の重みがかすかに伝わってくる。


「その身体で、いったいどれほどの生をまっとうしてきたのか。言葉を話せるなら、一日中語り合いたかったよ」


 戦いあうのでもよかった。

 たとえ分かり合えなかったとしても、お前が何を感じどう動いていたのか、少しでも知りたかったよ。


「せめて、俺は最後までお前のそばにいる。サラサと一緒に、お前のこれから先を祈っている」


 俺はずっと、ウルフに向かって言葉を伝え続けた。

 

 やがて。


 さらさらと草木を揺らす風の中で、

 そのウルフは静かに、息を引き取った。


はじめて少しシリアスなシーンを書いた気がする……!


この後もシリアスが続くのか。

とれともやはり主人公がぶっとぶのか。

乞うご期待です。


読んでくださったすべての方に感謝を。

これからもよろしくお願いいたします。


感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ