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3話 頬骨と拳の『適合性』を知っているか?

 結局なんだかんだで、少年イルサは俺を『仕事場』へはつれていってくれなかった。


 了承した後でやっぱりやめたと言う。

 イルサの人としての複雑な男心が垣間見えた、貴重な瞬間だった。

 心配してくれた上での行動だった以上、文句は言えない。


 だからもう直で『仕事場』に向かうことにした。

 適当に見ればたぶんどこか分かるだろう。


「ああ……シャバの空気はうまいな」


 スラム街っていうのは掘っ立て小屋の結晶体だ。

 芸術の街。人類の至宝。

 もし、この世界にドラゴンのような巨大怪獣がいたとして、スラム街を一瞬でぺちゃんこに踏みつぶそうものなら、小説家であるこの俺が命をかけて死守する。


 人々が住まう場所は、過去より歴史のあるかけがえのない、魂が輝く場所だ。

 人と人が共鳴しあう様を永劫に紡いでいく小説家は、そんな世界を守る義務がある。

 少なくとも地球の小説家はみなそうだ。


 ただし、本当にドラゴンが来たとして、スラムにいる人間がただ潰されるだけかと言われれば決してそうではない。


 あらかじめ離れて命をつなぐ者はごまんといる。シェルターを掘り、たてこもる者もいる。それぞれの最も大切なものをまもるために、今できる限りのことをする。  

 人間は最後の最後まであがく。


 何が言いたいかと言うと、スラムもただのスラムじゃない。

 ちゃんと人が生きている。

 色んな価値観がある。大切なものがある。


「モノ、気を付けて。地球でも似たようなことあった。高級そうな車がスラム街のボロ小屋に止められてた」


 つぶやいたサラサに頷くと、俺はその装飾がほどこされた馬車を見る。


 自分の住処から歩いて10分。

 馬車がそばにあるこの掘っ立て小屋には、何かがあると踏んだ。


 10分と言うのは簡単だが、向かう場所によっては戦場に足を踏み入れるようなもの。

 ここは、もはやなめられたら終わりな領域。

 興奮のあまり高笑いでもあげようものなら、カモを見つけたとばかりになぶり殺されるだろう。


 すでに、門番とみられる大男から笑われている。

 試されているというわけだ。


「最初が肝心だよ。殺されないようにね」


 わかっているさサラサ。

 だが、さして難しい場面でもない。

 なめられたら終わりな世界で気を付けることは一つ。


 こびへつらえば死ぬ。

 以上。


 俺は、指をパチンとならして門番の大男に向けた。


「仕事をくれ。イキのいい奴を頼む。俺は……この世界のドンになる男だ」


 バキッッッッッ!

 言った瞬間に殴られれた。


「ぎゃははははは訳わかんねぇ! おいおめぇらでてこいよ! こいつ炭にしちまおうぜ!」


 直後に、もとより感じていた幾多の視線がぶわっと表に出てくる。

 大勢のゴロツキが俺を餌にしようとよってたかってきた。


 それにしても。


 ああ、何という素敵な痛みだろう。

 殴られた頬がぷっくらと腫れあがっていく。さながらまるで愛らしいお餅みたいに。

 痛い。そして、気持ちいい。

 人は古来より痛みを経験して、学び、成長してきた。

 きっとこの絡み合いにも意味がある……!

 俺は今、その成長へと向かう境目を、享受しているのだな……!


「バカなこと言ってないで! Mなのは分かったから早くなんとかする!!!」


 そういうなサラサ。

 リアリティある描写を書く上で、体感するのは必須。

 殴られるたびに、俺の執筆能力は磨かれていくのさ。

 自分の文章力があがるのに発狂せずにいられるか? いや無理だろう。

 ああ、胸倉をつかまれた。

 いいぞいいぞ。俺の身体は子供なんだ。そのまま天高くもちあげられるだろう! ぎゅうぎゅうと首を絞めてくれ!

 いっそこのまま――


「いいからとっとと何とかしろーーーーー!!!!!!!!!」


 やれやれ仕方ない。

 確かにこのままでは死んでしまうからな。

 名残惜しいがここまでだ。


「ぎゃはははは。まったく雑魚にもほどがあるな! 一回殴っただけで芋虫みたいにおとなしくなりやがった。何が『仕事をくれ』だ。てめぇみてぇなシボリカスは、俺たち大人のしょんべんでも飲んでりゃいいんだっつーの!!!」

「……もうひと押し、だな」

「あ?」


 殴られたのは最高だった。ありがとう。

 だができることなら、あともうプラスアルファほしいところだ。


 俺は胸倉をつかんでくる目の前の大男に視線を向けた。


「スラムにおいて、殴る殴られるは日常茶飯事。斬新さのない攻撃をつかって、ただ笑っているだけなのはもったいない。ありていに言えば、それだけでは『飽きた』」

「な、なんだと……!」

「なぜ、俺のような面白い子供がやってきたというのに、『スペシャルイベント』を開催しようとは思わなかったんだ? いっそのこと俺の服をひんむいでレイプくらいしてほしかったものだ。どうしても殴りたいなら、金的を所望する。あれもまた人類が生み出した芸術だ。相手に致命的ダメージを与えるとともに、笑いもとれるのだからな」


 こちらは持ち上げられている状態だから、自然と相手を見下ろせる。

 ゴロツキを諭す子供。

 ……ああ。いいポジショニングだ。


「笑う時に『ぎゃはは』というのもあまり感心しない。一回言うだけなら人としてあたりまえの行動だが、繰り返し言うだけならただの小物。もっともっと発狂した声を出してくれ。えrp;わkごzsfdん;おいうvjへqwkIJFPOI、とか」


 俺に馬鹿にされていると感じたらしい。

 大男は、両腕で俺を締め上げてきた。


「ごめんなさい、と言え。そうすれば殺すのだけはかんべんしてやる」


 もし本当にここで謝ったら即死だ。

 死の境界線はほんとうにすぐそばだ。だからこそ俺たちは命を燃やす。本気のぶつかり合いは美しい。


「いーやーだーねー!!!!!」

「なめんじゃねぇぞこの野郎!!!!」


 大男が本気で拳を振り上げた。

 俺は余裕の表情を決して崩さない。

 たとえ世界がほろんだとしても、余裕の笑みは崩さない。


 いいぜ、いくらでも殴りあおう。

 いつの日か、『やるじゃねぇかお前』『お前もな』みたいな関係になれるといいな。

さぁ!

 くるんだ!


「うるせぇんだよ!!! てめぇらいい加減だまりやがれ!!!」


 ――え?

 さっき向かおうとしていた掘っ立て小屋の中から大木のような低くて大きい声が聞こえる。

 ……え? なんで?

 なんでここまできて止められるんだ?


「ボ、ボス! すいやせん! おい小僧! ボスがお会いになってくれるってよ! 土下座して這いつくばって中に入っていくんだぞ!」


 セリフとは違って、大男は俺はつかんだまま、ずるずると掘っ立て小屋の中へ引きずっていった。


「ふぅ……。よかったよモノ。見ていてハラハラしたんだから」


 ……サラサ、知ってるか?

 人間の頬骨と、人間の拳っていうのはな、『適合性』ってものがあるんだ。


 頬骨の強度にあわせて、適切な力で拳をヒットさせると、その時に生まれる音は、まるで除夜の鐘のような美しい響きを放つんだ。


 戦闘描写の極み! その一要素!

 至高の小説を目指すうえで、それを体感しておくことは必須条件だというのに……!!


 今からそれを実践しようとしてたのに……!!


「泣いてるよ! 殴られなくて泣いちゃうの!?」


 部屋に入る最中、香料ただよう異様な掘っ立て小屋へと入った。


 スラムには色々な者がいる。

 たとえば、わざわざ税金を払いたくないがために、スラムにすむ金持ちとか。


 そんなことを思いながら、俺はシクシクと泣き続けた。

頬骨と拳を的確な条件でぶちあてる。

その時に生まれる除夜の鐘。


あなたはその真実を知っていましたか?(^_-)-☆


読んでくださったすべての方に心より感謝を。

これからもよろしくお願いいたします。


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