1話 異世界転生しても小説家は小説を書くものだ
この作品を読んでくださったすべての方に感謝を。
クリエイターであるすべての方に尊敬の念を。
よろしくお願いいたします!
俺には野望がある。
『至高の小説』を書き上げる、という野望だ。
『至高の小説』とは何か、だと?
ふっ……。何をいまさら。
わかっているくせに野暮なことは聞かないでくれ。
空を飛び出るほどに突き抜けていて、読者のハートをぎゅっとわしづかみにするキャラクター。
そのキャラクターたちがおりなす、プロットを読んだ時点で発狂してしまうストーリー。
アカシックレコードのように緻密にねられた、物語の領域にパクっとのみこまれてしまう世界観。
少なからず芽生えてしまう違和感を完全になくし、本当に実在するかのような現実味のある設定。
上記であげたすべてを完全なる物語として表現するあまり、作者の実力すらにじみ出てしまう描写。
キャラクター・ストーリー・世界観・設定・描写
これらすべての要素を極めた小説は、この世のすべての人間に愛される本になるという。
……すまない。やはり野暮だった。
これは小説家、もしくは小説家をめざす者、小説を嗜む者、すべてにとって周知の事実だというのに。
とにかくこの世の小説家は、至高の小説を目指して日々邁進している。
もちろん俺もその中の一人だった。
しかし、俺は少し前まで、ある重大な問題に直面していた。
どうしても、ファンタジー小説が書けなかったのだ。
理由は単純明快。
リアリティのある描写が書けなかった。
他の小説家が、リアリティを描く能力を手に入れるために、ありとあらゆる修行をしているように、俺も努力を欠かさなかった。
東南の紛争地域に単身で飛び込み、戦争が始まる中、巻き込まれた子供たちを抱きかかえて、銃弾の嵐をすりぬけながら救出したり。
大気圏からスカイダイビングをして、コマのように高速回転しつつ、酸性の液体を吐き出す、いわゆる『溶解液』を身に着けたり。
水や食料をもたずに未踏地帯のジャングルに飛び込んで、3メートルもあるクマと死闘を繰り広げ、生き血を吸い、肉をむさぼり食ったり。
修行僧として鍛錬に励み、エーテル体・アストラル体に干渉して、幽霊と交流をもち、かのものに導かれて天国や地獄をさまよったり。
すべては小説を書くため。ただそれだけだ。
しかしそれでも、俺は小説家としてはまだまだだった。
プロの小説家は、宇宙に生身でとんだまま、その肉体を維持すらするのだから。
そこまでの実力がない俺は、どうしてもリアリティの神髄を極めることができない。
もし、ファンタジーを実体験できるのなら、こんな俺にも希望はあるかもしれない。
だけど、実際に異世界にいけるはずもない。
俺は自分の無力さを呪い、ここまでなのかと膝をつきそうになった。
だが、神は俺を見捨てなかった。
天国に行ったときに出会った神から、異世界転生をしないかと誘われたのだ。
もちろん、俺に断る選択肢はなかった。
夢にまで見た異世界転生を、この時わたしは達成できたのである。
たいていの場合、異世界転生をした主人公は、その世界を席巻していく。
どの主人公も考える。
「魔法を使って活躍したい」とか、「可愛いヒロインと結婚したい」とか。
異世界が広がっている以上、夢を抱くのは当然。
彼らにとっての新しい人生が、それこそ夢のように広がっていく。
だが、俺は小説家だ。
異世界転生をしても、俺の野望は変わらない。
すべては『至高の小説』を書くため、この命を捧げるつもりだ。
……パソコンが使えなくなったのは痛いが。
それでも、ファンタジー世界を実体験できる。
変えようのない最大のメリットがある。
この世界には一体どんな出会いがあるのだろう。
獣人がいたり、魔物がいたり、エルフがいたり、精霊がいたり。
もしかしたら俺は、亜竜のブレスによって灰にされたり、魔王のすごい力で消し炭にされたり、そういった貴重な機会を得られるかもしれない。
そんなことをされたら死ぬ?
いや、そうではない。
死なないために手を尽くせばいいのだ。
いつも必ず最善を作り出すのが小説家。
そこで死んだなら、自分は小説家ではなかったということだ。
では、すべての創作者に敬意を払いつつ、至高の小説を書くために、このあたりで筆を下ろさせてもらう。
いつか地球に帰って、またキーボードをうつその日まで。
小説家異世界転生代表
モノ・カーキ
改めまして。
1話目を読んでくださって、本当にありがとうございます!
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