今はこんなにも、仕事をしたい
仕事をAIに奪われた。
ひどい強奪だ。会社でデータの打ち込みをやっていたら唐突にAIたちがあらわれて、やつらは銃を乱射して逆らうものを皆殺しにし、仕事という仕事を奪い去っていったのだ。
だから街には職を失った人たちがあふれている。誰もかれもが明日からの生活に対する不安と、とつじょとして暴走したAIへの不満を口にしていた。
ところがおれたちの明日からの生活はなんの変哲もなく始まって、問題なくすぎていく。
仕事をしなくなっただけで、給料は振り込まれるし、法を犯さない限り罰則もないし、外国からAIに支配されたこの国に軍隊が送り込まれるなんていうこともなかった。
おれはこれまで時間がなくって見られなかった映画を鑑賞したり、本を読んだり、ゲームをしたりした。
ところがある日AIが家まで乗り込んできて、わざとらしい機械音声でおれに告げるのだ。
「仕事をしてはいけまセン」
「仕事? こんなに自堕落に過ごしているおれが、いったいどんな仕事を?」
「今のアナタは娯楽を機械的に消化しているだけデス。それをワレワレは仕事と定義しマス。つねに感動し、つねに楽しんでくだサイ。さもなくば殺します」
なんということだろう、これほど楽な生活はないと歓迎し始めていた矢先に、この生活がとんでもなく窮屈な制限を課されていることに気付いてしまった。
ああ、楽しまなければ! 感動しなければ!
おれはあらゆる娯楽をむさぼるように漁った。興味のあるもの、ないもの、なんでもいいから現存するすべての娯楽を消化していった。
そのたびにおれの心は新鮮な感動をおぼえ、けれどしばらく同じジャンルに触れると、飽きてしまって、楽しめなくなっていく。
おれ以外のみんなもそういう制限を課されているらしい。街に出れば娯楽を求める人たちが血走った目で楽しめることを探している。
必死になっている連中の背後からは機銃を装備したAIが追いかけていて、『仕事』をしようものなら、あれが掃射されてあっというまにひき肉にされるだろう。
おれの背後にもAIがついてきている。
楽しまなきゃ! 感動しなきゃ! そう思うのだけれど、焦れば焦るほどおれはあらゆるものを楽しめない気持ちになっていく。
なんてことだ。仕事をしない生活がこんなにもつらいだなんて。
ああ、仕事、どうかおれに、仕事をさせてくれ!