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炎の革命  作者: 観月 博斗
第一章「強欲の炎編」
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第一章(3)新しい旅

すっかり戦場と化した屋敷から少し離れた森の中、地を流し、足を引きずってふらふらと歩く人影。浅い呼吸を繰り返し、離れ行く意識を強い意志で繋ぎ止める。未来を見据えて―――




「エルミナさん!ナナセさん!!大丈夫ですか!?」


戦いが終わり、満身創痍の状態で倒れこむ2人を見てマリアがこちらへ駆け寄ってくる。


「ちょっと待ってて下さい、治癒の魔宝石でエルミナさんを回復します!」


そう言いエルミナに青い石を向ける。石は淡く光り、エルミナの傷を癒していく。


「ありがとう、すっかり完治したわ。」


回復して立ちあがり、マリアに礼を言う。


「じゃあ、私がナナセを治療するわね。」


俺に歩み寄り、胸に手を翳して治癒魔法をかける。俺の傷も癒え、スーパーノヴァですっからかんの魔力も元に戻っていく。折れた腕の痛みも引いていき、ほぼ戦闘前と同じ状態にまで戻った。


「はい、終わったけど、腕の骨とかは痛みを取っただけだからしばらくは無茶しちゃだめよ」


「ありがとう。ありがとな、助けてくれて。」


立ちあがり、エルミナの方に向き帰って礼を言う。


「ううん。こちらこそなの。ナナセがあいつと戦って時間を稼いでくれなかったら屋敷の人は全員死んじゃってたもの。ありがとう。」


真っ直ぐ目を観て笑顔で感謝の言葉を述べるエルミナ。その目を見て俺も覚悟が決まった。


「決めた。俺は炎の魔法を極めて、大罪を全員ブッ倒してやる!そんで、今度は俺が助けて、守るよ…!」


少し驚いた表情をしたあと、エルミナは目に涙を浮かばせてもう一度俺の眼を見る。


「…ありがとう。じゃあ、お願いします。」


覚悟は決まった。約一週間前に言った『俺も戦う』という発言。もちろん危険もある。魔法の練習も想像を絶する過酷さ(と聞いた)。温い覚悟じゃすぐに折れてしまうだろう。

だが、さっきのあの眩しい笑顔を守るためなら。


「…戦うにはまず環境が必要ですね?」


マリアが俺とエルミナにそう言い、崩壊した屋敷を指差す。『強欲』のべリスとの戦いですっかり燃えて崩壊した屋敷を見て、俺とエルミナを見やる。


「まずは一旦屋敷を修繕しないといけないので、隣の町に建築資材を買いに行かないとですよ…」


「マジかよ、誰が行くんだ?」


「資材購入は馬車を使ってエルミナさんと私とナナセさんで行こうと思います。いいですか?」


俺とエルミナを見てメンバーを伝え、了承を求める。


「うん。いいわよ。」


快くエルミナは許可し、やる気満々な表情でそう言う。


「…あ、俺もいいよ」


俺も了承し、3日後の出発に向けて準備が始まった。準備期間中は別館で過ごすことになったので生活自体は苦しくはなかった。

が、しばらく使っていなかったらっしく1日目は別館の掃除で終わった。


「はぁぁぁぁぁああつかれたもぉぉおぉぉん」


部屋に戻ってベットに飛び込んでため息をつく。一日を掃除に費やしたので今の時間はもうすっかり夜。外は暗く、遠くに光る繁華街が見える。


「んー、ねむ…」


さすがに体力も辛くなってきており、今はもうベットから出るなど不可能だった。

しばらくは平和な日々が続けばいいのだが。そんなことを考えていると、コンコンと扉を叩く音が聞こえる。なんとか上半身を起こし、扉に目をやる。


「ナナセ、入ってもいい?」


扉の奥からエルミナの声が聞こえ、どうぞと入室を許可する。ゆっくり扉を開け、部屋に入ってくるエルミナはいつもとは違い髪型、服装ともに崩れていた。入浴後、あとは寝るだけなので当たり前なのだが、なぜか得をした気がした。なぜだろう。


「ちょっと用があってきたの。この間一緒に戦ってくれるって言ったでしょ?その話よ」


そう言いながらベットの近くの椅子に腰をかけ、真剣な眼差しでこちらを見つめて話し始める。


「戦うって言ってくれたのは嬉しいんだけど、今すぐに戦線に立つことはできないの。他の大罪とかと戦うにはまず王城に行ってそういう部隊に所属しないといけないの。わかる?」


「まぁそうだよな。実績もない素人を送り出す奴はいねぇよな…で、それに入るにはどうすればいいんだ?」


「そうね……やっぱり実力ね。ナナセの場合昨日の強欲討伐がアピールになると思うわ。あとは実力を団長に認められれば入れてもらえるわよ。」


さすがに国レベルの戦闘部隊、簡単には入団できないらしい。

が、エルミナの力があったとはいえべリスを倒した功績もあってもしかしたら入れるかもしれない。


「でも、それより先に屋敷の修繕よ。明日は力仕事になると思うから、しっかり休みましょう。」


笑顔でそういったエルミナは立ちあがり、部屋から出て行く。扉が閉まり、静かになった部屋の中、俺は布団をかぶって深い眠りの海に沈んでいく。



起きたのは早朝、時計を見るとまだ5時半だった。なぜこんな時間に起きてしまったのか、それは…


「うーっ、トイレトイレ…」


そう、尿意に襲われて意識が覚醒したのだ。が、俺は別館のトイレの場所を知らない。

昨日もずっと廊下の掃除をしていたせいでトイレの場所を把握する時間はなかった。だが我慢できる時間にも限界が近づいてきていた。


(まずい……廊下で出したら異世界生活終わるナリ……)


焦ってトイレを探して走り回っていると、厨房からマリアが現れた。朝食の準備だろうか。


「あら、お早いですね。どうしました?」


「すまん、トイレの場所を教えてくれ…」


「お手洗いでしたらそこを出て少し右に行ったところにありますよ?」


場所を聞いて走ってトイレに駆け込んだ。ギリギリ間に合ったが、部屋からトイレが遠すぎではないだろうか。屋敷の設計者は何を考えているのか。出すものを出して厨房に歩いて戻り、マリアに礼を言って部屋に戻る。


「二度寝…と行こうか…」


まだ温かい布団をかぶり、もう一度意識を手放す。


再び意識が覚醒したのは7時くらい、外も明るく、窓から日の光が差し込んでいる。

ベットから下りて軽く伸びをして部屋を出ようと扉を開けて廊下に出る。

廊下から窓の外を見ると、庭だったそこに馬車が3台止まっていた。

階段を下りて玄関に向かうと、玄関前にエルミナとマリア、そしてモ二クが話していた。


「あ、ナナセ、おはよう。もうすぐ出発だから準備してね」


「あうん。おっけぃ」


パンをかじりながら着替えを済ませ、顔を洗って外に出る。


「それじゃあ、街に行ってくるわ」


ゆっくりと馬が歩き始め、街へと向かっていく。雲ひとつない空の下、俺たちはまた新たな『壁』と出会う―――

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