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炎の革命  作者: 観月 博斗
第一章「強欲の炎編」
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第一章(2)炎の祝福「中」

空は赤く染まり、遅れてすさまじい熱風が俺を―――いや、屋敷全体を襲った。瞬時に警戒したのは、火属性の魔法による火事。それを心配していた俺に、クロは落ちつかせるようにこう言う。


「大丈夫。火事になってもエルミナの水魔法なら消せるはずだよ。それより、今外にいるのは僕と君だけ。襲ってくる輩がいたら迎撃しないといけないんだ。行くよ」


そう言っているうちに、庭の奥、煙に包まれた門に赤い人影が現れる。


明らかな悪意と熱を持った人影はこちらへゆっくりと近づき、やがて姿も見えるようになる。


「……誰だ、何しに来やがった…?」


確かな敵意と明らかな悪意を持つ男にそう問う。男はその悪意の宿った眼で俺を見つめ、


「あぁ、ここに用があるわけじゃない。街の周りの集落とか村とか家をブチ壊して回ってるのさ。そういう命令でな?」


「…!……じゃあ、お前が『憤怒』だってのか?」


『憤怒』―――エルミナの祖父の仇。はずれの街を襲撃した犯人。もしそんな奴がこいつなら、こいつを俺等で殺すしかない。


「ん?あー…あんな奴と一緒にされたら困るな。俺の名前は…」


その軽い口と悪意に満ちた目でこちらを威圧しながら名を名乗る。


「『強欲』べリス・アルクトゥルスだ」


その名を聞いて、クロの雰囲気が変わった。いつものクロではない、強い敵意を持ったクロだ。


「ナナセ、相手は大罪だ。気合入れて、最初から全力でやろう」


クロは相手から眼を切らず、声色だけで俺に警戒を促す。


「あぁ、わかってる。最初から飛ばすぜ」


男―――べリスも首をポキポキと鳴らし、静かに臨戦態勢に入る。そのまま膠着状態が続き、しばらくしてべリスから動き出す。


普通の人間には出せない速度で瞬時に間合いを詰められ、炎を纏った拳で殴りつけられそうになる。


「じゃあな」


「ッ!!ソード・オブ・ファイア!!!」


とっさに拳を炎の太刀で防御し、拳を弾き飛ばす。よろめいたべリスは不敵な笑顔でこちらを見て…


「ハッ!!やるじゃねぇか!!ソード・オブ・ファイアか!!面白ぇ、お前はちゃんと魔法でブッ殺してやるよ!!」


そう言うとべリスは何やら呟き、手のひらから炎の剣を2本取り出し、圧倒的な熱量を持つその双剣を両手に持ってこちらに向けた。


「これでお前を殺す。覚悟しろ!」


そう言い切り、2本の炎が俺を襲う。うまく太刀で2連撃を防御し、相手の攻撃範囲から素早く離脱する。今度はこちらの太刀のリーチを生かして剣先での攻撃を仕掛ける。


べリスも2本の双剣で太刀を止め、力押しの勝負になる。が、腕力では勝てず、徐々に押され始める。押し切られ、斬られると思った刹那、俺の背後から飛んでいく炎の弾―――クロの魔法が飛んでいく。


「小賢しい!!」


いとも簡単に炎の弾を双剣で弾き飛ばす。が、クロが作りだした隙に俺はべリスに近づき、全力で太刀を振りぬく。


「ッ!!!」


切りつけた直後、べリスの体が衝撃で僅かに浮き、動きが制限されているその一瞬―――


「イル・フォイア!!!」


ラ・フォイアの一つ下の中級魔法、ラ・フォイアのように指示での攻撃ではなく、炎の球を使用者が投げるという魔法。こちらの方が威力は劣るが、発動が早いのでわずかな隙に打ち込むならこちらの方が適している。


魔法の球をモロに食らったべリスは吹っ飛び、空中に投げだされる。そこにさらに魔法の追撃―――


「ファイア・アロー!!」


炎の弓矢が空を舞うべリスに襲いかかり、腹部、頭部をめがけて飛んでいく。


「やるな!!」


空中で身を捻らせ、手に持つ双剣で炎の矢を弾き、近くにある木に着地し、反撃に入る。


「レイ・マグナ・ブレイク!!!」


べリスが詠唱を叫ぶと、べリスの周りにラ・フォイアと同じ―――いや、もっと巨大な火球が出現し、こちらをめがけて飛んでくる。


「マジかよ!?死ぬ…」


もはや逃げられない、終わったと思った瞬間――


「ファイア・ウォール!!」


クロの詠唱に呼応し、地面から炎の壁が現れる。現れた炎の壁に護られ、死は免れた。が、べリスにあっという間に間合いを詰められ、クロめがけて灼熱の刃が振りぬかれた。


「クロ!!!!」


攻撃をモロに受けたクロは綿のように吹っ飛び、屋敷の壁に激突する。その小さな体から意識が消え、地面に落下する。


「どうだ、これが近い未来世界を支配する『大罪』様の力だ…!!」


ふわりと俺の前に着地し、鋭い眼光で俺を睨む。


勝てない、負ける。そう思った。が―――


「精霊がそう簡単に死ぬはずがないだろう…?」


ゆらゆらと弱々しく戦線に復帰するクロ。べリスを見つめる。


「そろそろ終わりか?骨のある奴だったが、さすがに大罪には勝てなかったな…?」


そう軽く挑発してくるべリス。顎を突き出し、一見隙だらけに見えるが、実際は隙などありはしない。


「ヘッ、まだだな、隠し玉はあるんだぜ?」


「なら出してみろよ。そのへろへろの精霊と出せるとは思えないが?」


精霊―――クロに目をやり、再び俺の眼を見る。


「あーやってやるよ…」


「「《スーパーノヴァ》」」


最上級の火属性魔法が炸裂し、辺りはすさまじい熱に包まれ、爆ぜる。庭を巻き込んだ大爆発がべリスを襲い、砕く。


「じゃあな、《点火》……!」


爆発に点火し、火力はさらに増す。べリスと俺を中心に庭は抉れ、影をも消し去る。やがて爆発は膨大な光となり、淡い光が散ってゆく。

倒した確信はあった。


―――だが、舞いあがる煙の中、ゆらゆらと立ちあがる人の姿があった。

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