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炎の革命  作者: 観月 博斗
第一章「強欲の炎編」
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第一章(4)災厄の夜明け

燃え尽きて灰となった家屋だった物や一部が燃えて倒壊した建物の瓦礫が散乱する王都の中心、無傷だった噴水に座る少年は今、大切な人、大切なもの、家、財産、全てを炎に呑まれ、路頭に迷っていた。


突如として王都に降り注いだ大罪の魔の手により、街の半分以上は燃えて朽ち、大切な何かを失った人々からははそれぞれの悲しみ、怒り、行き場のない激情、そんなものが漏れ出していた。


少年は空を見上げ、悲しみに支配された心をどうにかして元に戻そうとする。地平線に登り始めた美しい朝日を眺め、僅かな時間悲しみが心から抜ける。


が、すぐにその隙間はやりようのない激情に埋め尽くされ、今すぐにここから消え去りたい、そう思うほどに心を無情にも斬りつけて行く。少年はその場に蹲り、青い瞳から透明な涙を流した。




―――俺、ナナセは、レクタリアとエルミナと共に王城から街を見下ろす。


「…被害は最小だろうが、とんでもないことをしてくれやがったな……」


人々が長い年月をかけて復興させてきたこの王都は、たった一晩の悪意により、踏みにじられた。その行いに俺は怒りを抱き、あの金髪の男と火を放った犯人だけは、そんなクソ野郎だけは、この手で葬ってやろうと決心する。


「…到底許されることではないね。絶対に、死して償わせる」


レクタリアも同じ怒りを抱き、俺の怒りに同調する。


「でも、もうこの街には彼らはいない。だから、今はそれぞれ傷を治さないと…」


エルミナは右肩を押さえてそう言う。よく見るとエルミナの肩には赤い傷が浮かび上がっていた。


「――そうだな。帰ろう。館に…」


俺もその意見に同意し、重い体を置きあがらせる。


激しい戦いの夜は明け、空は朱く世界を照らしている。俺たちが歩いたそこにもそれぞれの悲しみ、安堵、怒りなどたくさんの感情が入り乱れていた。


が、その誰もが隣に別の人がいた。膝をついて悲しむ女性の横にも、優しく慰める男性がいる。今この町に、きっと一人きりで悲しんでいる者はいないのだろう。


――しかし、少し開けた噴水に座り、一人きりで下を向いて膝を抱える少年がいた。


体格的に俺と近い雰囲気だったが、体はひどく傷つき、震えていた。そんな少年を見てエルミナは少年に歩み寄り、座って優しく声をかける。


「…大丈夫?」


少年は少し驚いた後にもう一度地面を見つめ、小さく震える声で話し始める。


「…母さんも、父さんも、兄貴も……みんな、燃えちまった」


言葉を紡ぐ少年の声はひどく怯えており、今にも風の音に吹き飛ばされてしまいそうだった。が、エルミナはそんな彼の背中をさすり、寄り添うように話をさせる。


「みんな、みんな俺なんかを助けるために、俺を建物から逃がすために、死んでいったんだ…」


それを聞いたエルミナの表情は重い雨雲を宿した空のように曇っており、少年の悲しみがエルミナに伝播しているようにも見えた。


「…でも、生きている限り前に進まないとだめだよ。お父さんもお兄さんもお母さんもきっとそれを望んでいるよ?」


エルミナは包み込むように言葉を紡ぎ、空を眺める。


「でも、王都もこの状況じゃ仕事もないし、家も燃えちまった。生きていけないんだよ…」


少年の悲痛な声は小さくなって消えかかる。少年の心が絶望という名の闇に飲まれそうになったその時、戦いの中で土がかかって汚れた白い服をまとう女神、エルミナが少年の心に覆いかぶさる闇を消そうと立ち上がって少年の前に立つ。


「住むところと働くところがないなら、私のところに来るといいわ。ちょうど掃除とかの人数が足りなかったところなの。」


優しくそう微笑むエルミナの言葉を受け、少年は驚いた顔でエルミナを見つめる。


「…本気か?俺は家事なんてできないぞ」


少年は再び顔を曇らせ、視線を地面に戻す。それを見た俺はエルミナの横に並び、少年の視線の高さに合わせてしゃがみ、笑みを浮かべながらこう言った。


「大丈夫、俺も最初はできなかったけど、やってれば慣れるからさ。俺も教えるし、来たらいいじゃないか」


「うん、じゃあ今からさっそく来てくれる?」


少年はまだ曇りが残る顔で俺たちを見つめ、やがて笑顔でこう告げる。


「…わかった。じゃあお世話になるよ。でも、ちょっとだけ待ってほしい」


「わかったわ。少し待ってるわね」


そういうとエルミナは噴水に座ってあたりを見渡す。少年は家だったものの前に腰を下ろし、手を合わせて目を閉じる。彼が育ったであろう家は災厄の夜の業火に焼かれ、亡くなった家族の遺品もおそらく焼けて灰になった、そんな最悪な朝に彼は、突如として奪われた幸せに別れを告げる。


しばらく手を合わせた少年は立ち上がり、空を少し見上げてこちらに視線を向ける。その瞳はさっきまでの曇り様とはうって変わって輝き、新しい未来への希望を抱いて光る。


「…済んだか?」


「別れはした。もういつでも行ける」


穏やかにそう言い少年はこちらへ歩み寄った。俺は特に少年と話すことなく馬車に乗り込み、エルミナと少年も乗り込んで馬車が町を後にする。


少年は少しさみしそうな表情で外を眺めていたが、やがて馬車にゆられて眠ってしまう。エルミナと俺も最悪な夜を乗り越えた疲れがどっと押し寄せ、気が付いた時には眠ってしまっていた。


そうして馬車は屋敷に戻り、少年――レミアルトを加えた穏やかな生活が始まった。そして、そんな穏やかな日々が始まって約3か月――

はい、そんなこんなで第一章完結です!いやーたのしい()

なかなか更新できなかった時期もありましたが、個人的には楽しく書かせていただいたのでうれしく思います。第二章以降もよろしくです。

よければブックマークとか感想とかカモンカモン

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