第1章(4)魔獣と魔女
──血生臭くも美しい庭園の中央に、歪な角に鮮血を滴らせる怪物が1頭。
誰の物かも分からない血が美しい庭の真ん中を彩り、紅い池を怪物を中心に広がってゆく。
「……あれは?」
当然あのような化け物は俺が元いた世界には存在しない。
未知との遭遇に体が強張り、本能が瞬きすらも拒絶する。震える声で問う俺に、エルミナは少し警戒のまじる声で答える。
「まぁ、魔獣の1種だと思うわ…。あんなのは見たことないけど…」
「じゃあ…この屋敷の周りにはあんなんがいつもいるってのか…?」
「いや、あんなのは自然界にはいないと思うわ。きっと誰かが放ったのね」
視線を動かさずにエルミナ俺に正面の魔獣について説明する。
いつでも魔法が使えるように準備をしようとすると、こちらを向いた魔獣が俺たちの存在を確認する。喉を鳴らし、赤く光る目をこちらに向けて動き出す。
口から血が溢れ出し、走った道に血の跡がまっすぐに残る。大きな角をまっすぐにこちらに向けながら魔獣が突進してくる。
「ッ!来るぞ!!」
「水剣!!!」
エルミナが詠唱を唱えながら前に走り出た。
右手に現れた水の剣を直進する魔獣のうなじに振り抜く。が、エルミナの水剣は魔獣の首を跳ねることはできず、直進する勢いも止めることは出来なかった。俺は向かってくる魔獣に対して飛び上がって回避する処理をする。そして、空中で相棒の名を叫ぶ───。
「出てこい!!クロ!!!!」
その声に呼応し、腕の刻印から小さな猫が光とともに現れる。
「状況は……あぁ、なるほど」
光から抜け、具現化されたクロはあたりを見回し、片膝を地に着くエルミナと屋敷に激突した魔獣を目視して瞬時に状況を理解する。
「もうわかったのかよ、流石だな」
そう言いつつ地面に向けて落下して行く。屋敷の壁に頭を激突させ、胴体が丸出しの魔獣に向けて空中から攻撃を仕掛ける。
「おし、行くぜ。『ソードオブファイア』!!!」
強くそう叫ぶと、心の内から湧き出る熱が左手に集約される。
やがてそれは炎となって具現化され、灼熱の刃となる。その剣を壁に頭を突っ込む魔獣に振り下ろし、頭部と胴体に永遠の別れを告げさせる。
切り落とした首からは鮮やかな鮮血が吹き出し、胴体も血を垂らしながら力なく崩れ落ちる。
「…あんま強くなかったな?」
「まぁどんな見た目してても所詮魔獣風情だから」
戦闘を終え、俺の肩に戻るクロがそう首を見ながら呟く。
「でも、一体誰が放ったんだろう…?」
こちらに歩み寄ったエルミナが庭を見渡しながら呟くと、近くの物陰に隠れていたマリアが俺たちに声をかける。
「このあたりにはいくつか小さな村がありますが……そこに犯人がいるかも知れませんね…」
「さぁ、どうでしょうか」
屋敷の二階ベランダから透き通る声が降り注いだ。ふと上を見上げると、そのにはモニクが美しい髪を靡かせて立っていた。
「どういうことだ?」
「それは…」
俺の問いにモニクは表情を変えずに続ける。
「『この屋敷内に犯人がいるかもしれない…ということです』」
「……お前」
そのモニクの発言に俺が物申そうとすると、横からエルミナが口を挟む。
「そんなはずないわ。ここにいる人はみんな優しいもの。それより、少し早いけど王都に出発する準備をしましょう。」
「………あぁ、そうだな、着替えてくる」
そう言い俺は自室に戻る。先程のモニクの発言、まるで俺やエルミナ、マリアまでもを疑っているかのような発言だった。
俺はそこに違和感を感じている。何か、違う。まだそれが何を意味するかは分からないが、それでも、何かが違っている。そんなことを考えつつ、俺は自室に用意してある服の袖に腕を通し、襟元を整えて部屋の外に出る。
いよいよあの召喚された時以来初めて王都に出かける。
外に止めてある馬車に乗り込み、中の椅子に腰をかけた。
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