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炎の革命  作者: 観月 博斗
第一章「強欲の炎編」
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第一章(3)新たな『敵』

揺れる馬車の中、買う資材についてエルミナと確認をする。屋敷はほとんどが木製、つまり木材を購入するのが目的なわけだが、馬車は3台で詰める荷物の重さも限られている。


3往復ほどで必要分は確保できるが、屋敷から街までの移動時間は2時間と少し、3往復すると12時間ほどかかってしまう。夜間の移動は危険なので今日は2往復で、残りの1回は明日行くことになった。


「もうすぐ到着します。ナナセくん、木材は重いので気を付けてくださいね。」


「あぁ、やっぱり俺が持つのね……」


馬車が街に到着し、街の中央で馬車が止まった。馬車から下りて辺りを見回すと、街の周りには緑の葉を揺らす木々が生い茂っていた。街の中はいたって賑やかで、広場の周りには人がたくさんいた。


「はい、では私はあちらの建物で木材を購入する手続きをしてくるので、エルミナさんとナナセ君はこの広場で待ってて下さい。変な人についていかないでくださいね……」


「大丈夫よ。私はそんな不用心じゃありません!」


「前にそういうことがあったから言ってるんです。ナナセ君、エルミナさんが変な人についていかないように見張っていてくださいね。では、いってきます。」


そう言い残してマリアが小走りに木造の建物に駆け寄っていった。ふとエルミナの方を見ると……


「…ん!?どこいった!?」


一瞬マリアを見ていて目を離していた好きにすでにどこかへ消えたエルミナ。どこだどこだと近くを探していると、小動物に走って向かっていくエルミナがいた。


「わぁ、かわいい!」


駆け寄った先にいた犬のような小動物の前にしゃがみ、小動物を楽しそうに愛でている。幸せそうな笑顔で頭を撫で、やがて飼い主らしき女性と話し始める。


「お、かわいいじゃん」


俺もエルミナに歩み寄り、隣にしゃがんで小動物を撫でる。小動物も嬉しそうに尻尾を振り、すっかりエルミナになついている様子だった。


「うふふ、いい子ね」


無垢な眼で小動物と触れ合い、しばらく撫でた後に飼い主の女性に礼を言い、遠ざかる小動物に手を振るエルミナ。しばらくして小動物が見えなくなる。


「動物、好きなの?」


そう話しかけつつ近くの噴水の脇にあるベンチに腰をかける。それに続いてエルミナもベンチに座って話し始める。


「うん。昔飼ってたからその子を思い出して。」


そう答えるエルミナの眼には気のせいかもしれないが僅かな悲しみの感情も見えた気がした。目を閉じて少し間をおいて今度は俺に問う。


「ナナセも好きなの?」


再び無垢に美しい輝きを持つ瞳で俺を見つめてそう言うエルミナ。


「うん。俺も昔飼っててさ。結構仲良かったからそいつを思い出して。」


そう、召喚前に飼っていた犬を思い出した。幼いころ親が突如連れてきた犬だったが、共に遊び共に13年過ごしてきた兄弟同然の家族だった。

あまり考えていなかったが、俺が召喚された後、父親や母親、そしてあいつはどうしているのだろう。心配してくれているのだろうか。それとも俺の存在はなかったことにされてしまっているのだろうか。

そう考えると少し帰りたい気持ちも出てくるものだが、今の生活も別につまらなくないし、もし帰れたらこちらの世界の話をしてやろうとも思う。


と、そんなことを考えていると、俺らに声をかけてくる金髪の青年がいた。


「すみません、お隣座ってもいいですか?」


「ああ、どうぞ」


そう言って青年の座るスペースを作り、青年がそのスペースに腰をかけようとする。


「…おや?エルミナ様ではないですか。お久しぶりです。お元気でしたか?」


そう言われてエルミナは驚き、青年の顔を見て、立ちあがる。


「あっ!レクタリアじゃない!久しぶり。うん、いつも元気よ、私は」


「そうですか。聞きましたよ。『強欲』を倒されたとか。」


そう言うレクタリアに対しエルミナはううん、と首を横に振り、俺の方を指してこう言う。


「強欲を倒したのはこっちのナナセなの」


レクタリアは驚いた表情でこちらを見て、失礼しました、と仕切り直す。


「左様でございますか。では、大罪滅殺兵団に?」


「うん。強欲に壊された屋敷を直したら王様のところに行くつもりなの。」


「そうなんですね…では、今日は木材を購入しに来られたのですね」


「うん。そういえばレクタリアはどうしてここに?」


そう聞かれると、少し表情を曇らせて空を見る。その瞳には不安、警戒、いろいろな感情が込められているような気がした。


「このあたりに火竜が出現したと聞きまして。放っておけばこの街も襲われるかもしれませんし。」


それを聞いて少し驚いて不安な表情を浮かべ、レクタリアが見る空をエルミナも見つめる。


「そうなの……火竜なんて久しぶりに聞くわね」


「火竜……ってなんだ?」


聞き覚えのない単語に首をかしげ、不安そうに空を見つめる二人にそう聞く。エルミナがこちらを見てベンチに座って話し始める。


「火竜って言うのは、昔7人の大罪と一緒に王都を襲った魔獣よ。大罪戦線のあとは姿を消していたけど…」


『大罪戦線』で大罪とともに王都を襲った獣。もしもその火竜が大罪と大きく関わっているとしたら、討伐すれば大罪の戦力を大きく削ぐことが出来る。

だが、なぜ昔の大罪戦線以来行方を暗ませていた魔獣がどうして今になって出現したのか。大罪の一人、べリスを討伐したからだろうか。それとも―――


「エルミナさん、ナナセさん、手続きが終わりました。荷物を積んでしまいましょう。…あ、レクタリアさん、お疲れ様です。」


手続きを終わらせたマリアがこちらへ戻ってきて俺とエルミナを呼ぶ。一緒にいたレクタリアと挨拶を交わし、歩いて木材が積んである場所に向かう。


俺とエルミナも続いて木材に向かい、木材の近くにある馬車に目をやる。荷台にはもうすでにいくつか木材が積んであった。作業に入ろうと木材を持ち上げようとした。


「おっ…重ッ……!?」


全く持ちあがらなかった。多少力はあると思っていたのだが、いざ木材を持ち上げようとするとまったく持ちあがらなかった。

一旦持ち上げるのを諦め、背筋を伸ばして首を鳴らす。ふと回りを見ると、同じ木材を涼しい顔をして持ち上げているマリアがいた。軽々と馬車まで運搬し、息一つ切らさずにまた新しい木材を持ち上げる。


「こ、こいつはゴリラかよ……」


そう小さく呟くと、鋭くマリアがこちらを睨みつけて、重い木箱を持ったままこちらへ近づいてくる。


「はい、文句ばっかり言ってないでさっさと作業してくださいな」


「いやうん…はい……」


一つ溜め息をこぼしてもう一度木材を持ち上げようとする。顔を赤くしてようやく持ち上げて馬車に積む。しばらくしてようやく積み終わり、少し開けた広場に出て深く息を吐く。


「はぁぁぁぁぁぁぁああぁぁ…………ふぅ」


「お疲れ様。少し重かったわね」


「少しどころじゃねぇだろ……これ俺来ない方がよかったんじゃ………?」


俺についてきて声をかけるエルミナの顔には疲れなど微塵もなく、マリアもだがエルミナのパワーもゴリラだということは明白だった。


「それより、もう馬車で屋敷に戻るからいかないと」


そう言い馬車に歩いて向かうエルミナを追いかけて俺も馬車に乗り込む。まだ木材は3分の1しか入手していないのでもう一度木材を下ろして来る必要があるが、一度屋敷に戻る。


馬車が動き始め、街から遠ざかっていく。小さくなっていく街の奥、森の緑が濃い紅に染まるのが見えた。


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