月下を紅く染めゆく刃
深夜―
真冬の寒空の下、一人の男が息を巻いて駆けて行く。
何かから逃げている様…
―否、事実逃げている最中であった。
顔は恐怖に満ち、ただただ、月下をひた走る。
すっと、男の前に一つの影が舞い降りる。
思わず立ち止まった男の表情が凍り付いた。
影が、静かに口を開く。
「ターゲット、確認…」
―月明かりを背中に受け、その影の顔などは解らない。
声だけ聞けば少年であろうか―
影が、音も無く男へと歩み寄る。
「や、やめろっ!やめてく―」
最後まで言い切れぬ内に、男の喉は煌めいた銀の刃によって切り裂かれていた。
月光を受ける刃を納め、静かに言い放つ。
「…排除…完了。」
某所、とあるビルの地下―
ノックもせずに入って来た少年に、白衣の男が話し掛ける。
「やぁ、お帰り。無事に終わった様だね。お疲れ様。」
「…別に、大した事は無かった…」
「そう、ならいいんだ。…今日はもう仕事は無い、ゆっくり休むと良いよ。」
「…解った。」
背中を向けて自室へ向かおうとする少年に、白衣の男は小さな声で尋ねる。
「…辛くは、ないかい?」
少年―影だった者―は、ゆっくりと振り返り、応える。
「…俺は何ともない。お前こそ無理せずに休め、星弥。」
白衣の男―星弥は薄く微笑み、挨拶の言葉を投げた。
「ありがとう。…じゃあ、お休み。月斗。」
少年―月斗はゆっくりと、自室へと消えて行った―
暗殺者、月斗の一日が、終わりを告げた。




