乾燥機1
掃除機の間に桜は他の必要な掃除を全て終えていたので、僕たち三人はお昼までリビングでテレビを見て過ごした。お昼ご飯も前日の残りで済ませたあと、いつの間にか回されていた洗濯が終わっていたので、「行けるなら乾燥機行ってきて」と桜に言われ、午前中のこともあって「いいよ」と快諾した。
僕は一時半ごろに洗濯カバンを持って部屋を出た。桜の行きつけのコインランドリーは、マンションを出て右に三百メートルほど進み、最初の十字路を右に曲がって二百メートルほど進んだとこにある。その隣りには僕の行きつけの公園があるので、乾燥機の間にそこで本が読めそうだ。
エントランスの前は大通りを曲がってすぐの通りなのだが、しっかりと住宅地のにおいが感じられ、晴天でも通りを歩く人はほとんどいない。それにエントランスの真ん前の有料駐車場やその左右にある真新しい住居には人の気配が全然なく、遠方で車の走る音がふわっと聞こえるだけなので、その通りを歩くときはいつもちょっともの寂しい。
でも休日に十字路まで歩くと何やら叫び声みたいなものが聞こえて来て、コインランドリーまで行くと公園で遊ぶ子どもたちの声がはっきりと聞こえて来る。そうすると不思議なもので、寂しく感じられた住宅地の風景が活気を帯びて行くような気がして、やっぱり住宅地には人が住んでいるんだなと実感する。
その日もコインランドリー付近まで来ると子どもの声が聞こえて来たので、コインランドリーを過ぎてちょっと公園の中を覗いてみた。すると中央の東屋で子どもが遊んでいるのが見えて、すぐにそれが誰なのか分かった。同じマンションに住む小学二年生のたっちゃんだ。
たっちゃんはこの公園でよく一人で遊んでいて、僕が土日の午後とかにベンチで本を読んでいると、しばしば一人で遊んでいる子どもがいるのに気付き、ある日興味本位で声をかけるとその子どもがたっちゃんだった。同じマンションだということもあってよく話すようになり、今では子守を兼ねて宿題も見てあげている。
東屋に近づくとたっちゃんは途中で僕に気付き、「あ、お兄ちゃん!」と言って駆け寄って来た。
たっちゃんは身長が百二十センチもなくて、学年ではかなり低い方らしいのだが、顔にしまりがあってなかなか聡明な雰囲気のある子だ。実際に話しをしてもやっぱり聡明な感じで、笑わないとかなり大人っぽく(といっても小学五、六年生くらいに)見える。
僕はたっちゃんに「今日は一人?」と聞くと、たっちゃんは元気に「うん!」と返事をした。しかしそのあとすぐ洗濯カバンに目が行き、「それは何?」と聞いてきたので、僕は急に小学生ですらやっているような家事の手伝いを、二十歳にもなってやり始めたことを強く意識し、先輩としてたっちゃんに示しが付かないような気がした。
でもこんなところで見栄を張ってもしょうがないので、「洗濯物だよ。手伝いで乾燥機かけに来た」と正直に言った。
するとたっちゃんはきょとんとして、「かんそうきって何?」などと言うから、確かに小学二年生なら知らないかもなと思って、「じゃあ、今日は社会見学でもするか」と言うと、たっちゃんは嬉しそうに「うん!」と返事をし、荷物を持ってちょこちょこ付いて来た。
たっちゃんをコインランドリーまで連れて来たのは良いが、実はコインランドリーに入るのも初めてだし、当然乾燥機をかけるのも僕は初めてだった。なので内心たっちゃんみたいな好奇心を感じつつ中に入ると、そこには左と奥の壁際に洗濯機が計十台、右の壁際に乾燥機が五台並び、中央にはベンチとゴミ箱が置かれていた。
ただ何よりもびっくりしたのはそこの雰囲気で、平成生まれの僕にも分かるくらいに昭和な感じなのだ。内装の壁はどこもひどく黄ばみ、その壁には赤錆びの生えた何かの販売機と、ボロボロになった直筆の注意書きが見えるし、洗濯機や乾燥機も年代物っぽい。
ここには平成の雰囲気なんて何もない、そう思って周囲を見回していると、ベンチにいるおじさん二人がスマートフォンを持っているのに気付いたが、これをもって平成の雰囲気と言っていいのかよく分からなかった。