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死の後の  作者: よっしー
第一章
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掃除4

僕は一度深呼吸すると、バルコニーの手すりにもたれて三階からの景色を眺めた。ただ景色といっても、三階の高さは家の軒並みがちょうど水平になるような位置で、その軒並みからポコポコ飛び出たマンションやビルが見える程度なのだが、バルコニーは東側から南側までつながっているので、阿佐ヶ谷を二百七十度にわたって眺められることはなかなか爽快だ。この景色に緑が含まれていたらなお良かっただろう。


僕はテキパキ動く桜の横を通って南側にまわり、雲一つない青空をしばらく見たあと、再び東側へ戻って来た。すると桜はもう部屋の中にいるようで、僕もそろそろ掃除を再開しようと思った。


リビングの西側はどうなっているかというと、中央に四人がけのダイニングテーブルと、桜の部屋の壁の前に食器棚が置かれている以外は特に何もなくて、あとは食器棚の東側に小さなゴミ箱と、リビング西側の壁の前に空気清浄機が設置されているだけだ。


桜に言われてリビング西側の前にキッチンを吸い始めた。家は基本的に僕と美香姉ちゃんの部屋以外はどこも綺麗で、もちろんそれはほぼ桜のおかげだ。でも桜はたぶん、僕と美香姉ちゃんが散らかすのを各自の部屋だけにしていることも、それに貢献していると考えているはずだ。


正直なところ、実家にいる間は家事に関わろうとしたことなんて全然なく、僕や美香姉ちゃんは自由気ままに過ごしてきたわけで、ここに来てからは確実に家事に対する注意が高まっている。


おそらくメインプレーヤーが母から桜に変わったのが主要因だと思うが、これは僕としても意外な結果であって、当然桜はもっとびっくりしたに違いない。ただあくまで注意が高まっただけ、つまり桜に悪いという思いが生まれただけであり、やっぱり僕は整理整頓や掃除にあまり関心がない気がする。


でもなんで桜だけに悪いと思ったんだろうと考えつつダイニングテーブルの周りを吸っていると、不意に美香姉ちゃんの部屋のドアがゆっくりと開き、モコモコしたイチゴ柄の美香姉ちゃんが頭をかきながら出てきた。


僕は掃除機の電源を落とすと、珍しがって、「どうしたの?こんな朝早くから」とすでに朝の十時過ぎだったが言ってみた。すると美香姉ちゃんはとぼとぼと僕の方に近づいてきて、「なんで賢二が掃除してるの?」と質問に質問を返した。


「え、昨日話したじゃん。春休み中は桜の家事を手伝うって」


「そうだっけ?」


美香姉ちゃんはそう言って僕の横を通り過ぎたので、「トイレで起きたの?」と聞いてみると、「リビングが騒々しくて目が覚めちゃった」と言って洗面所に向かったようだ。


ということは、つまり美香姉ちゃんは僕が起こしてしまったことになるのでそれにはちょっと驚いた。普段僕が必死に起こそうとしても、桜が掃除してても全然起きない美香姉ちゃんがすんなり起きたのだから、僕の騒音は単にうるさいというだけではなく、美香姉ちゃんに違和感や不安を与えるような何かを含んでいたのかもしれない。


といっても僕の騒音が桜のとそこまで違っているとは思えないので、美香姉ちゃんはそんな小さな違いを感じ取ったことになるわけだが、考えてみれば美香姉ちゃんはわりと内弁慶で自分の居心地の良さには敏感なところがあるから、その延長で聞き慣れた騒音が微妙に変わっていることは、美香姉ちゃんにとって目を覚ますのに十分な変化だったに違いない。

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