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死の後の  作者: よっしー
第一章
3/52

掃除3

数分経ってカーペットの隅々まで終えると、まだまだ掃除の途中だが僕はカーペットの完了を桜にそれとなくアピールし、あわよくば賛辞の言葉でももらおうと掃除機の電源を落とした。


するとそれを予期していたように桜が振り返って言った。


「次はソファーの上ね」


「ソファーの上?」


僕は一瞬その意味が分からなかったが、すぐに桜がいつも掃除機の手元を引っこ抜き、ハンディ型のノズルでソファーの上を吸っているのを思い出して、「ああ、了解」と返事をした。


テレビと向き合ったソファーは四人がけの大きなもので、テレビも大きいしテーブルもわりと面積を取るため、実際ソファーと僕の部屋のドアとのすき間は五十センチもない。つまりどういうことかというと、僕は部屋の出入りの際、毎回身体を壁と並行にし、ドアとソファーのすき間でサイドステップを踏むようにして出入りをしなければならない、ということだ。実に面倒くさい。


なのでこれについて姉妹と一度話し合おうと思ったのだが、途中で何だかばかばかしくなってきたし、慣れてしまえばサイドステップがハンドボールの練習みたいで、少しは役に立っている気もするのでやめておいた。


ソファーの上にはここへ引っ越す際に買った各々のクッションが三つ置かれている。僕と桜のはまだまだ真新しい感じなのだが、美香姉ちゃんはいつも自分のクッションを枕にしてソファーで寝ていて、しかも寝ながらよく涎を垂らすので、クッションにはその染みが点々と付いている。


いっそのこと汚れの目立たない色にすればよかったのに、白地のうさちゃんなんて選んだからなおさら目立っている。僕はソファーの上でその染みを眺めながら、美香姉ちゃんってやっぱり変わってるなと思った。


ソファーの掃除機がけは膝を付いたり中腰になったりするので、立ってするのとはまた違った疲れを感じるんだなと思いつつ桜の方へ振り返ってみると、なんと桜が両面テープになっているハンディのコロコロでカーペットをコロコロしていた。僕はしまったと思ってすぐ掃除機を止めた。


「ねぇ、わざわざ掃除機でカーペット吸わなくても、それだけでよかったよね?」


僕がそう言うと、桜はこちらも見ずに強い調子で、「両方やらないとだめなの」と言ったので、そういえば桜はいつも両方やっていたなと思い、口ごたえせずにソファーの続きを始めた。するとすぐにフローリングもクイックルワイパーで掃除しているのを思い出して、そっちは掃除機は必要ないんじゃないかという思いが一瞬頭をよぎった。


ソファーの掃除機を終えると、続けてソファーをテレビ側に寄せてその後ろで掃除機をかけ、カーペットをめくって掃除機をかけ(その間に桜はソファーの上もコロコロしていたが、もうそれには言及しなかった)、テレビの後ろにハンディ型のノズルを突っ込んで掃除機をかけたので、リビングの東側だけでどっと疲れてしまい、桜に「少し休憩」と言ってリビング東側の窓からバルコニーに出た。


すると桜も付いて来たので一緒に休憩かなと思ったら、足元にあるちり取りとほうきを持ってバルコニーをはき始めた。それには僕も驚いてしまって、「桜のペースでやったら身体が持たんわ」と正直に言うと、桜は僕の方に振り返って「慣れだよ」と呟いた。そして再び掃除に戻ろうとしたのだが、すぐ何かに気が付き、今度は僕をちゃんと見て言った。


「ていうか、ハンドボールやってるんだから、こんなところで休憩しないでよ」


確かにそう言われてみればその通りだ。僕は週一か週二で大学のハンドボールサークルに参加していて、少規模だがかなりハードな練習や試合をしているので、ちょこっと腕や足腰を使っただけで休憩している自分が不思議だった。


まあもちろん冗談半分の休憩だがそれでもやっぱり疲れた感じはあって、寒いのに外の空気を欲したのはその証拠だろう。別に自分を正当化したかったわけではないけれど、たぶん掃除機の疲れはハンドボールでは感じないタイプの疲れであって、だからちょっと休憩したくなったんだ、などと桜に話してみると、いつも僕や美香姉ちゃんの特殊な行動に対してする、呆れというかあきらめに近いような表情で、


「まだやることはたくさん残ってるんだからね」


と言って再びバルコニーをはき始めた。

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