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死の後の  作者: よっしー
第一章
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掃除2

だからといって僕たちきょうだいの仲が悪いわけでは決してない。むしろ両親から程よい距離感で育ったから、そんな距離感が自然ときょうだいの間にも生まれたみたいで、特にけんかもなく、悪く言えばドライな関係ができあがった。


ただ当の本人たちはあまり自覚がないのだが、ドライなのはきょうだいの関係性だけで、各自の個性は際立っているらしい。周りに流されやすい僕なんかは、それを聞いてそうかもしれないと最近思うようになってきた。


面白いことにそう思い始めると姉妹の普段の行動が気になり始めて、確かに美香姉ちゃんは二十五歳になってもいまだに自分の部屋をファンタジーにしているし、桜はほぼ毎日リビングやキッチンとかをピカピカになるまで掃除しているので、僕にもそれ相応の何かがあると思うと周りの目が気になったりする。


あるとき美香姉ちゃんに、「いつまで部屋をファンタジーにしておくつもり?」と聞いてみると、「え、そんなの飽きるまでだよ」との回答になるほど美香姉ちゃんらしいなと思った。


ついでに桜に、「どうしてピカピカになるまで毎日掃除してるの?」と聞いてみると、「お兄ちゃんとお姉ちゃんがやらないからだよ」なんて真顔で答えるものだから、こっちも嫌な汗をかきながら、「そ、そうか、いつもありがとう」などと変に下手に出て場をしらけさせてしまった。


というわけで、さすがに変人の僕でも良心の呵責というか申し訳なさみたいなものにさいなまれ、またちょうど大学二年の春休み、つまり次の四月には大学三年になる春休みが始まったということもあり、桜がいつもやっている家事全般を少しだけ手伝おうと思った。


ただし春休みだけという条件付きだ。このことを桜に伝えてみると、しばらく目を見開いて僕の顔をまじまじ見たあと、大きく息を吐いて、「じゃあ手伝ってもらおうかな」と言った。珍しく変化に富んだ反応だ。


でもそうは言ったものの、すぐ次の日から本格的にやらされるなんて思ってもいなくて、まだ春休みが始まって一週目の土曜日だというのに、早速朝から寒いリビングで掃除機をかけさせられた。


リビングのコンセントは西側の壁の南寄り、つまり桜の部屋のドアの前あたりに四つ、美香姉ちゃんの部屋の壁あたりに四つ、キッチンと僕の部屋の間の壁に四つの計十二あって、美香姉ちゃんの部屋の壁にあるものは四十六インチのテレビとDVDプレーヤの後ろに隠れていて、西側の壁の一つは空気清浄機に使われているので、それ以外が自由に使えるものだ。


桜は廊下のドアとキッチンの間にある収納から掃除機を取り出した。そして電源コードも引っ張り出し、キッチン近くのコンセントに差し込むと、掃除機を僕に渡しながら言った。


「お兄ちゃん、電源スイッチの場所分かってる?」


それを聞いて驚いたのだが、数え切れないほど桜の掃除機をかける姿を見ていたにもかかわらず、掃除機の電源スイッチの場所がすぐに分からなかった。こんなつまずき方は予想外で多少は家事を見下している部分があったから、早速自分の家事に対する姿勢が改まったというか、春休み中は真面目に家事をやってやろうという気にさえなってきた。


無事に電源を入れると、慣れない手つきでリビングの東側から掃除機をかけ始めた。家の掃除機は六年物のスティック型で、ゴツく見た目通りの重量がある。


それにグオオオオーと唸っているので高性能を期待したが、美香姉ちゃんの長い髪は吸うのが苦手みたいで、数回前後に転がしてようやく吸える程度だ。しかもリビング東側中央のカーペットの上で吸うとなると何度往復させても上手く吸い込めず、終いには手で美香姉ちゃんの髪をぐいっと持ち上げ、吸いやすいようにしてから吸い込ますという手順を踏まなければならない。


一方でカーペットの端を吸うときはいちいちその端を吸い込んでくれるので、その都度足でカーペットを押さえる必要があり、当然そんなふうにモコモコしたカーペットで悪戦苦闘したら腕とかがすぐ疲れてくる。


すると多少髪やほこりが残っても仕方ないかと思って途中でやめようとすると、カーペット中央にあるテーブルをハンディモップで拭く桜の視線が気になってしまい、結局掃除機を左手に持ち替えたりしながら必死にやることになるのだが、勢いあまって掃除機をテーブルにぶつけて桜に何度も睨まれた。

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