迷走
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「進む順番を変える。先頭からウチ、ノゾミ、ハルナ、スミレコ、マリの順で行く。嫌な人は居る?」
誰も反論する人は居ない。今までとさっきの一件で、これがベストだと皆思っているのだろう。
「それと、ライトは顔の高さに向けないで。鏡で反射して視界を塞いじゃうから、腰より下を照らすように心がけて」
4人が頷く。
「じゃあ、最後に一つ。怖がらせて悪いけどはっきり言うよ。スミレコもひとまず信じなくて良いから聞いて。『ミラーハウス』は確実に何か居る。この世の者じゃない何かかがね。ウチらはそれに閉じ込められた。いい? 絶対にはぐれないこと、これだけは守って」
うん、や、はい、と4人の肯定の返事が連なり、5人が1列に並んだ。
「行こう」
ヤヨイが歩き出し、ノゾミ以降も続く。
「ノゾミはこの迷路、簡単にゴールできる?」
ヤヨイが振り向かずに問う。
「えっと、この迷路ちょっと特殊で、中の構成を切り替えられる様になってて、定期的に変わるから正解の道はわかんないんだよね」
その言葉に少し落ち込むヤヨイに、でも、とノゾミが続ける。
「子供向けの迷路だから、私たちなら簡単にでられるよ。コツは何も映ってないところに行く。それだけ!」
なるほど、ヤヨイが止まった。そのままライトを腰の高さまで上げてゆっくりと360度回る。
「こっちか」
ゆっくりではあるけど、確実に続く道が分かる。あたりの鏡は5人の少女と5つの光を反射して、ヤヨイを混乱させていた。何十と人がいるように見える。でもこうして自分だけを探して周りを見れば、なんとか普通にクリアはできそうだ。
が、そんな余裕が心に芽生えた瞬間、ぎぃ、と後ろから音が聞こえた。
とっさに振り返る5人。何もない。
「今のは……なんですか?」
震えるスミレコに、マリが冷静に、しかし微かに震えながら答える。
「ミラーハウスの中で鳴ったね」
沈黙が続く。そこに、
――ぎぃ――
再度響く謎の摩擦音。
――ぎぃ……ぎぃ……ぎぃ――
徐々に近づくその音に、ハルナが限界を迎え、ライトを捨てて走り出した。
「あ、ハルナさん!」
横にあった分かれ道に入ったハルナを、スミレコが追いかける。
――ぎぃ……ぎぃ――
なおも接近してくる不快音に、ヤヨイが叫んだ。
「ああもう! ここホントやばい所だったわ! 5人で動けっつったスミレコもハルナの馬鹿追いかけてったっしょ!」
――ぎぃ……ぎぃ――
「どうするのヤヨイちゃん!」
「ノゾミ、マリ! ウチが一番後ろになるから、なんとか2人と合流する! 追いかけろ!」
「分かった!」
「う、うん!」
スミレコとハルナを追い、マリを先頭にした3人の少女が走り出す。床に残されたハルナのライトだけが、虚空を照らしていた。
――響き続ける不快な摩擦音。それから逃れるように駆ける5人の少女。地獄の足音が一歩づつ近付いてくるのを肌に感じながら、5人が足掻くその場所は、果たして一体鏡の中か、それとも外か……。