第九話 合流
ハローエブリワン!
大人も子供もおねーさんもゾンビなこのクソッタレた都市、観光するなら一度はおいで『ラットシティ』からケビン・モットレイだ!
今、俺は『ハロルドガンショップ』の裏口に来ている。
ドアに鍵が掛かってるみたいだが、遠慮なくハンマーで窓を壊させてもらおう。
音が響くが、とっと逃げれば問題ない。
「そぉーーーれっ!」
ガッシャーンという音を立てて、窓ガラスが景気良く割れる。
そこから店の中へ侵入する。
奥から呻き声がする。どうやら先客がいるようだ。
いつでも撃てるよう、拳銃を構えておく。
表の店の方に行く。
「ショットガンにマシンガンっぽいの………沢山あるな。持ってけるだけ持っていくとしよう」
数分もすると、バックはパンパンになる。入らなかった分はポケットだとか体に巻き付けたりしておく。
ハンマーで叩き割った商品ウィンドウを鏡代わりに、ポーズをとってみたりする。
「おお、なんか強そうだ」
実際のところはさっきの方がマシなんだろうが。
ポージングを止めて、店から出ることにする。
代金を置いてくほど俺はマジメでもないし、レジを打ってくれるような店員は居ないだろう。
「ヴァー」
訂正。いた。
レジの裏に潜んでいたらしいそのゾンビは、やたらハゲ散らかしていた。腐ってるせいなんだろうか?
彼………彼でいいのか?
まぁ、ハゲてるし彼でいいか。
彼の服にはデカデカとハロルドと書いてある。
どうやらここの店長さんらしい。
「ウヴァー」
お代として鉛玉を二、三発撃ち込んでおく。
調子にのって、西部劇のようにフッと銃口に息を吹き掛ける。
「小銭を撃ち込めたらカッコがつくんだけどなぁ……」
「「「「ヴアアアア!」」」」
「げえっ!?」
銃声に集まってきたのか、それとも殺ゾンビ強盗の俺を捕まえようという、腐ってもなお無くなることの無い正義感からか。
「俺は殺してないぞ! だって店長ピクピクしてるし!」
ともかくガンショップの表の道路から、大量のゾンビがこちらに向かってきていた。
「相手にしてられっか! 武器も持ったし主人公と合流だ!」
物を倒してゾンビが来られないようにしてから、裏口から逃げる。
なんとなく、主人公の位置はわかるのでそちらに向かって走る。
「重っ! 欲張るんじゃなかった!」
ぶつくさ言いながら道を走っていく。
気づけば、最初のマンションからかなり遠いところまで来ていた。
「ふぃー、やれやれ疲れた………お?」
放置された車に腰かけて休憩していると、建物と建物の間の隙間の道から何かが走ってきた。
「んー?」
目を凝らしてみる。
陸上競技に目覚めたゾンビではなく、人だった。
一人はムキムキなイケメン、一人は凛とした美女だ。
「ひゃほ………!」
(指示。主人公とコミュニケーション。指定の台詞以外で喋ることを禁止)
喜びの声さえあげさせてくれないらしい。
ケチめ。
(……指示。指定の動作以外をすることを禁止)
ごめんなさい。
ケチじゃないです、超気前がいいです。
(近づき、手を挙げながら話しかける。「おい! 待ってくれ!」)
言われた通りに演じる。
こんな下らないことで、いちいち筋肉痛になるのはバカらしい。
でも融通がもうちょっと効いてくれると嬉しい。
「おい! 待ってくれ!」
こちらの声に気づいたのか、二人が近づいてくる。
「生存者か? ゾンビじゃないようだな」
「そのようだけど、それ以上近づかないで貰えるかしら。強盗殺人はするのもされるのも嫌なのよ」
(指示。苦笑しながら「そりゃそうだ。俺はケビン・モットレイ。あんたらは?」)
「ハハ、そりゃそうだ。俺はケビン・モットレイ。あんたらは?」
「俺はハリー・ウィルソン。元軍人だ」
「私はナンシー・ソマーズ。警察よ。……あら? あの子は?」
ナンシーが首を傾げる。
その言い方だとついうっかりという感じだ。
頼むからゾンビに囲まれてるときにうっかりとか勘弁してくれよ……!
………ってもう一人?
おかしい。このシーンの登場人物はこれで全員………。
「ま、まってください~~!」
あめ玉を転がすような声というのだろうか。
やたら甘ったるいというか、なんというか、そんな声が二人が来た道から黒髪の子供と共に飛び出してくる。
………おい、まさか。
「ひぃ、ひぃ………。お、置いてくなんてひどいです……」
「ご、ごめんなさい。つい、うっかり………」
「うっかりで済んだら警察はいらないです……」
(指示。「ええと……、俺はケビン・モットレイ。君は?」)
「ええと……、俺はケビン・モットレイ。君は?」
そう聞くと、ナンシーを睨んでいたクリクリとした目がコチラを向く。
服装は、なんか草原が似合いそうな薄い布地の清楚な服とつばのやたら大きい帽子。
顔と相まって、実に可愛らしい。
「相原 智美です。あ、えっと、ま、まいねーむいず、サトミ アイハラ」
普通に自己紹介をしていたが、途中でこちらが日本人では無いことを思い出したのか、たどたどしい英語を使う。
(指示。にっこりと笑って「そうか、よろしく。サトミ」)
「そうか、よろしく。サトミ」
「よろしくです、ケビンさん」
笑いかけると、向こうも笑い返してくれる。
なるほど。孫についつい甘くしてしまうお爺さんの気持ちがわかった気がする。
(指示。ハリーに向き直り、「こちらには武器だとかの物資がある。共にこの街から脱出しないか? 悪い話じゃないだろう?」)
「こちらには武器だとかの物資がある。共にこの街から脱出しないか? 悪い話じゃないだろう?」
「脱出まで弾をやりくりするのは辛いからな。喜んでその話、受けさせてもらう」
(指示。手を差し出して握手。「これからよろしく」)
「これからよろしく」
「ああ!」
手を差し出すと向こうも差し出してきて、ガッと手を握り会う。
その光景をサトミは口をポケーッと開けて眺めていた。
「おおー、熱いです」
握った手を離すとナンシーが口を開いた。
「それじゃ、どこに行きましょうかしら?」
「俺は警察署を目指すことを提案する。ここならまだ生き残りがいる可能性がある」
(指示。ハリーに同意)
「俺もそう思う。俺のスマホのマップを見て確認してくれ」
「警察署はここね………。なら、このショッピングセンターを抜けていくのが近道になるわ」
現在地と警察署の丁度中間地点をナンシーが指差す。
ショッピングセンター。
序盤の山場。
そう、ケビン・モットレイ………つまり俺が死ぬ場所だ。
避けたくても避ける理由がないし、なにより監督が許さない。
今の俺に出来ることは、精々映画の通りに話が進まないことを祈るだけだ。
「よし、弾の分配が終わったら、ショッピングセンターに行くぞ!」
「オー!」
「お~! です!」
見上げた空は子供のように愚図っていた。
そろそろ降ってきそうだ。