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夢の中の俺と現実の中の彼  作者: 私様
夢:レッツ生物災害
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第八話 悪夢の都市

ヘリコプターの中で三人の男女が安堵のため息を漏らしていた。


「ああ、ハリー見て。朝日よ………」


透き通るような白い肌の美女が窓の外を見ながら言う。


「終わったんだな………」


いかにもなタフガイが呟く。


「………いや、まだまだやらなきゃいけないことがある」


操縦席に座るサングラスを掛けた男が言う。


「………そうだな、チャールズ。やることは沢山ある」

「だが、少しくらい休んだって誰も文句はいわねぇだろうさ………。幸いしばらく時間はある、寝てるといい」

「そうさせてもらうよ。ナンシー、君もそうした方がいい」

「そう、ね。………隣いい?」


そういって、ナンシーは近づくとハリーの唇と自分の唇を───



◆  ◆  ◆  ◆



プツンという音と共にテレビの電源がオフになる。


「結構おもしろかったなー。さすがハリウッド、実力が違うぜ」


さっきまで見ていたのは、ゾンビものの映画だ。

テンプレは外さず、力強いアクションが魅力的だった。

思わず手に汗を握ってしまう。

時間が経つのも忘れていた。今何時だろう?

ええと………今の時間は11時30分。まだまだこれからという感じだが、十分遅い。


「今日は歯ぁ磨いて寝るか」


健康は歯からってどっかで聞いたからね。  

そういえば金歯とかあるけど、ファンタジーな世界だったらどうなるんだろ。アレかな、オリハルコンの入れ歯すんのかな。


「どうでもいいか」


歯も磨いたし、さっさと寝よう。

明日は土曜日だけど、生活リズムは安定させた方が良いって誰かが言ってたような気がするし。

タイマーセットして、なんとなく入れたスマホのくそアプリ消して、これでよし。


「おやすみなさーいっと……………」



◆  ◆  ◆  ◆



「…………ですよねー」


目を開けるとそこは見知らぬ部屋。

そしていつもより高い視界。

ほっぺをつねる。

痛くない。


(終了条件。支配者のエンディングへの到達もしくは途中退場)


頭のなかに憎たらしい声が響く。

俺はいわゆる特殊能力を持っている。『夢の中の登場人物と入れ替わる』ただそれだけの能力だ。 

夢の内容を変える権利は基本的に無い。

夢の主が書いた脚本通りに動かなきゃいけない。もし、アドリブをするようなら翌日の筋肉痛を覚悟させられるはめになる。


(指示。自宅からの脱出)


頭の中に響くこの声は、俺の動きを指示する役割を持っている。

今回は丸投げだが、時々とても細かい指示が飛んできたりする。

いわゆる監督みたいなものだ。


「とりあえず、現状の確認をするとしよう」


そこそこ低い声。どうやら今回の役割は成人男性のようだ。勝手に喋ることが出来るなんて制限が緩い。幸先がいいな。

部屋の構造を把握するためうろちょろする。


「お、洗面所めっけ」


ちょうどいい。どんな顔をしているのか気になってたんだ。

洗面所に誰もいないことを確認して部屋に入る。

鏡が曇っていて見辛い。掃除しろよ。

服の袖で鏡を拭いてみる。さっきよりは見やすくなってるだろう。


「さて、どんなお顔かなー………………!?」


白人特有の白い肌。

顔の造形はいい方だが、見た印象としては優男と言ったところか。

どこかで見た顔………というかさっき見た。


「おいおい、まさか………ケビンなのか!?」


いくら選べないからってこれは無いぜ。

さっき見ていたゾンビ映画の、序盤の山場でゾンビに美味しく戴かれる主人公パーティーの尊い犠牲者枠。

ケビン・モットレイに俺はなっていた。

ん? 待てよ?

先程の指示を思い出す。


(指示。自宅からの脱出)


脱出?   

嫌な予感がして、窓の外をチラリと見てみる。


「「「ヴァー」」」


沢山のゾンビがうめきながらうろついていた。

耳を澄ませば鬱になる。カエルじゃなくてゾンビの歌が聞こえてくる。

道路は現代アートみたいに真っ赤で時々ピンク。絵の具の材料が何かは考えたくもない。


「物資と武器、脱出方法を用意したらとっと出ることにしよう」


二度とこの自宅………マンションに戻るつもりはないので、部屋にあるものを片っ端からひっくり返していく。


「で、これがその成果か……」


拳銃が一丁、それとマガジンが一つ。近くにあった説明書にはM1911と書いてあった。

キッチンからは飲み水と缶詰め。

工具箱があったので、そこからハンマーとペンチを持っていく。

スマホはポケットに入っていた。

後は金。隅から隅まで探して大体93ドル見つかった。まぁ、何の役に立つんだって話だが。

今は昼過ぎ。三時のおやつにはまだ早い時間だ。


「さて、脱出するか」


荷物を全部バックに突っ込む。

腰にハンマーを引っ掻けておく。

拳銃を構えて部屋から出る。


「大通りは止めておこう。………舞台はアメリカのはずだからガンショップくらいあるよな。そこから追加の弾を頂こう」


何の障害もなく、マンションから脱出出来た。

ちなみに、出る途中で覗いた部屋では相手を貪るようなディープなキスをしていたよ。ヤロー同士でな!

ほんと、嫌なもん見ちゃったよ。ドアぐらい閉めとけよな、閉められないだろうけど。

嫌なことは続くらしく、憎たらしい声が頭に響く。


(指示。ハリーとの合流)


「主人公様と合流か。映画みたいにアクション出来るヤツだといいなぁ」


こういうのは夢を見ているヤツが、主人公っていうことが実に多い。

ピンチは夢特有のご都合主義で何とかなるが、それに巻き込まれるコチラはたまったもんじゃない。


「ヴァー」

「アブなぁ!?」


振り替えって拳銃の引き金を引く。

町にパンッと乾いた音が鳴り響いた。

運良く弾はゾンビの頭に命中し、腐りかけの脳みそをかき混ぜていった。


「ふぅ………。油断大敵だな………」


とっとガンショップでも見つけて、合流しよう。

見上げた空の色は暗く、まるでこの町の未来を暗示しているようだった。


私が思うにゾンビは発酵食品の一種。

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