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夢の中の俺と現実の中の彼  作者: 私様
日常:七曜 火乃の場合
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第五話 ちょっとした変化

七曜が静かに本を読んでいると、鐘が鳴った。慌てて生徒たちが席に座り始める。

鳴り終わると、ガララと音を立てて前の方の扉が開いた。


「おはよう。………よーし、今日も全員揃ってるな。ホームルームを始めるぞ」

 

このクラスの担任、吉岡が入ってくる。


「今日は皆に紹介する人がいる。耳ざとい連中は、もう知っているだろうが、転校生だ。喜べ、女子だ」


クラスの中がざわめく。

水面下で、金を賭けていた連中からギリギリ聞こえない位のうめき声がざわめきの中に隠れる。


「静かに。……よし、入ってきなさい」

「……はい」


入ってきた彼女は、とてつもなく美しかった。

その黒髪は光を飲み込むほどに黒く、宝石のような何かを見る者に感じさせる。

その手足はまるで人形のように華奢で、丁寧に触れなければ折れてしまいそうに見える。

総評するならば、女神であり、今まで新興宗教が発生しなかったことを疑問に思うべきだろう。


(綺麗な子だ。きっとモテるんだろうなぁ)

「彼女の名前は『春風 (めぐみ)』だ。字はこう書く」


吉岡が黒板に名前を書く。

彼女の名前を黒板に書くという畏れ多い行為を、軽々しく行うとは。

吉岡には遠からず天罰が下るだろう。


「それじゃあ、自己紹介を」

「わかりました。………えー、春風 恵です。これからよろしくお願いします」

(シンプルだなー。もうちょっと捻ってもいいんじゃないか?)


彼女は小さな口から天上の音色のような声で、隠しても隠しきれぬ知性がにじみでる自己紹介をした。

本来ならば五体投地するべき所だが、聞いているのがその価値を理解できない愚昧(ぐまい)な連中だ。

慈悲深い彼女はそれを気にすることはなかった。容姿だけでなくその心までもが美しいことがわかる。


「じゃ、春風。君の席は………一番後ろの窓側から数えて二番目の席だ」

「わかりました」


一番後ろの窓から数えて二番目の席とは、七曜の右隣だ。

彼女は、椅子を引きずると出る耳障りな音を出すことなく静かに座った。


「………隣か。なら後で挨拶はしとかないと……」

「この時期は気が緩んで風邪を引きやすくなる。気を引き締めろ、とまでは言わん。早寝早起きをして体調を崩さないようにしなさい」


生徒を見回し、少し背筋を伸ばす。


「これで、ホームルームを終わる! 次の時間の用意をしておくように!」


そう言うと、吉岡は教室から出ていった。

少し、教室の中の空気が緩む。

一呼吸、二呼吸ほどしたところで生徒が立ち上がり始める。

そうするとあっという間だ。

春風は女生徒に囲まれてしまう。

その光景はピラニアを何故か彷彿とさせた。


「春風さん! 趣味は何?」

「え、あ、りょ、料理」

「春風さん! ペット飼ってる?」

「えっと、飼っていないわ」

「春風さん! 春風さん! 部活とか入るの!?」

「今のところは………」

「春風さん! 春風さん! そのツインテール自分でやってるの!?」

「う、うん。そう………きゃっ!?」

「春風さん! 春風さん! 春風さん! 薄いかけ算本に興味は無いかしら!?」

「春風さん! 春風さん! 春風さん! 防腐処理しないといけないバカの話は聞かなくていいわよ!!」

「むー! むー!! ぷはっ、なにをするだァーッ!」


取り囲んだ女生徒たちは一気に質問責めにしていく。

彼女は答えを返すことも出来ずに場はさらに混沌を深めていく。


(…………は、入れない)


挨拶しようと考えていたが、甘い考えだったと思い知らされる。

あの中に無策で突入するのは無謀と言える。


(つ、次の授業が終わったら挨拶をしよう。今は無理だ。やめよう)


七曜は次の時間も、質問責めにあってるんじゃないかと不安を感じつつも、次の授業に備えて準備をするのだった。

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