第四話 日常の始まり
住宅地の普通の一軒家。
そこで一人の青年が朝食を作っていた。
青年の手つきは慣れており、それなりの経験を積んでいることをうかがわせる。
メニューは、目玉焼きにベーコン、いい具合に焼けた食パン。それに牛乳。
「いただきます」
テーブルの上にある写真立てには、青年とその両親が写っている。
しかし、この場にいるのは青年のみで両親はいない。
テレビをつけてニュースを確認しながら、もくもくと青年は朝食をとる。
この青年の名は『七曜 火乃』。
高嶺学院に通う生徒だ。
絵に描いたようなハイスペックで、容姿端麗、成績優秀。
まさに主人公。
「……ごちそうさまでした」
今日のニュースもいつもと変わらない普通の内容を垂れ流す。
食器をささっと洗う。
そして、テレビを消して自分の部屋に行く。
出かける支度を始める。教材だとかの支度はもう昨日の内に終わらせてある。
「行ってきます………は無くても変わんないか……」
彼の背中からは年齢に見合わない哀愁のようなものが漂っていた。
家の戸締まりを確認すると、学校にゆっくりと向かい始める。時間には余裕があった。
「あっ! おはよ、ひーくん」
「ひーくん………ってお前なぁ……」
「朝の挨拶は?」
「……おはよう、あーちゃん」
この笑顔が眩しい少女は『青木 亜紀子』。
七曜の所謂幼馴染みだ。
胸は薄い。やーい、貧乳! ツルペター!
「……なにしてんの?」
「んー……、いや、なんか悪意的なものを感じたような……。ま、いっか。早く行こ、ひーちゃん」
「はいはい」
「『はい』は一回まで!」
「……ハイ」
……………。
し、しばらくすると、高嶺学院の校門が見えてくる。
(そういえば、今の生徒会長って高嶺グループのお嬢様なんだっけ)
朝の時の憂鬱さはどこへやら。
いつの間にか、そんなくだらないことを考えるほど七曜はポジティブになっていた。
七曜は、自分のクラスに入り、自分の席に座る。一番後ろの窓側だ。
青木は、女子のグループに入っていった。
七曜が本を読もうとしたとき、青いハチマキが自己主張をしている男が話しかけてきた。
「おはよう、七曜」
「おはよう、文谷」
「今日も幼馴染みと一緒に仲良く登校か? カーッ! どこのギャルゲだよ、そのフラグ建築能力を少し位分けて欲しいもんだ」
「いやいや、無いもんは分けられねぇよ」
「売ったな!? 恵まれねぇ男どもに喧嘩売ったな!?」
「売らない売らない」
「まさか、あの時の選択がこんなことになるなんて──」
「不吉なナレーションを入れるなよ」
「ちぇっ」
文谷は少しつまらなそうな顔をしたあと、気持ちを切り替えてまた口を開いた。
「なぁ、知ってるか?」
「………? 何が?」
「今日、転校生が来るんだってよ。て・ん・こ・う・せ・い」
「へぇー、さすが自称情報屋」
「………反応うっすいなー。あと、自他共に認める情報屋だから。そこんとこよろしく」
「はいはい、情報屋さん。もう新聞取ってるからお断りしますー」
「『ふみや』だけど文屋じゃねぇよ! チクショー、情報料二倍にしてやる!」
と、文谷はおどけながら自分の席に戻っていった。
(転校生、かぁ)
遠足前日の幼稚園児のようにワクワクする──というわけでもなく、七曜は淡々と事実を受け止めるだけだった。
「──あんなことが起こるなんて露にも思わずに」
「………なにキメ顔で言ってるんだ文谷」