第三話 変わらない日常
転校生が来たくらいじゃ、日常と言うヤツは変わらないらしい。
いつもと変わらない授業。
───転校生が数学の難解問題解いて先生をぐぬぬとさせてたような気もする。
いつもと変わらない昼食。
───生徒会長が転校生を捕まえてどっか連れてったような気もする。
いつもと変わらない昼休み。
───テロリストは現れなかった。校内に犬が迷い混むということすらなかった。
いつもと変わらない太陽の動き。
───別に東に沈むとかそんなアグレッシブな動きはしなかった。
気づけば、放課後になっていた。いつもと変わらない放課後だ。
俺は部活動に参加していないので、汗と涙の感動青春物語を繰り広げること無く、家に帰る。
寄り道なんてしない。
今日はそんな気分じゃないし、財布もややご機嫌斜めだ。どうやらダイエットのし過ぎで、ストレスが溜まってるようだ。
帰り道、周りを見渡せば極々普通に人が歩いていた。
別に、猫が道路に飛び出ようとしていないし、トラックにうっかり轢かれそうな愚か者もいない。
ついでにいえば、足元にペカーッと光ったりしてる魔方陣が現れて異世界に拉致されてるヤツもいない。
空から女の子は降ってこないし、宇宙人も降ってこない。
当たり前の日常を侵食してるような非日常は存在しておらず。
一言で言えば、その光景は平和そのものだった。
その光景の一部である俺も、日常と常識の中でしか生きられない平凡な人間なんだなぁと痛感させられる。
「…………はぁー」
ああ、うん。ダメだな。
なんとなく気分が落ち込んでるような気がする。
学校に居たときはむしろ逆だったような気がするんだけどなぁ。
財布の中身が少ないから、こんなセンチメンタルな気分になるんだろうか。
………うん、きっとそうだ。そうに違いない。
「ただいま」
返事なし。出迎えてくれる妹キャラなんていない。悲しいけど、俺って一人っ子なのよね。
代わりにキッチンの辺りから何かを炒めてるような音がしてくる。
今日は炒め物か…………。
二階の自分の部屋へ行く。
散らかった部屋。
本棚に入っている本はだいたいライトノベルだ。
着替える邪魔になるので、散らかった部屋を少し片付ける。
着替え終わると、少し時間が出来るので、読みかけのライトノベルを取り出して読む。ちょうど主人公がヒロインへの愛を叫んでいるところだった。
「愛………ねぇ?」
愛。小説や映画、ありとあらゆる創作物の中で『ゲシュタルト崩壊すんじゃねぇの?』ってくらい使われている言葉。今なら恋とセット価格でお得だ。
手の中のライトノベルを読み進めると、主人公がLOVEパワーとかいうけったいなパワーで敵を圧倒していた。
愛が人を強くするというのをよく聞くが、本当なのだろうか。
本当だったら、今ごろ熱心なファンと呼ばれる方々は超人になってるんじゃなかろうか。
「ご飯よー!」
「ふぁーい」
一階から呼ぶ声がする。
少しだけ読み進めたライトノベルに栞を挟み、下に降りていく。
………もやしの炒め物じゃないといいなぁ。
なんて平凡なこと考えながら。