第十四話 合流は弾丸のように早く
バイクで街を駆け抜ける。
その様子はまるで弾丸のようだ。
「ヒャッホー! はやいはやいはやーいッ! 風にでもなったみたいだ!」
腐敗臭のする風が頬を撫でる。
ああ、こんな時はノリノリな音楽でも聞きたくなるなぁ。
「でもバイクに乗ってる時に、イヤホンとかつけると罰金罰金バッキンガムだけどな!」
ま、取り締まるポリスもいないし、つけるイヤホンも無いから関係ないんだけどね。
調子に乗ってスピードを出す。法規定速度なんざどうだっていい。今は風になるのが重要なんだ!
ガガッガガガガッ!
マンホールだとか、コンクリートのひび割れの段差でバイクの振動が酷い。なんだこれ、新手のマッサージ器具か?
ははは! やべぇ、テンション上がってきた。今なら、何の躊躇いもなくエロ本をそのまま女性店員に精算して貰う自信があるぜ!
ガガガガボフッガガガッ!
何かエンジンから変な音したけど気にしなーい。
早い早い早いんだぜ! ああ、今なら時を越えられる!
ボフッボフッボッボオオオオ!
何かエンジンが火を吹いて炎上してるけど、気にしなああぁぁい!
アチッ、アチチチ!
やっぱ、無理! 熱い! 熱い!
ブレーキ、ブレーキ!
ガコンッ!
「ぬわあああああああーーー!」
前をまともに見てなかったせいで、大きな段差による揺れに耐えきれず吹っ飛ばされる。
高速回転する視界の中で、バイクも飛んでいた。
何かの上を通り抜け、俺は噴水の水の中にホールインワン。
バイクは何かに当たり、爆発炎上木っ端微塵。当たった何かも、ついでとばかりに爆発炎上木っ端微塵。
「ぷはっ」
噴水の中は幸い底があんまり深くなく、溺れるなんてことはなかった。
だけど服がずぶ濡れだ。いや、元からずぶ濡れだった。
「………ケ、ケビンさん!?」
「へ?」
名前を呼ばれる。
声がした方を見れば、そこにはサトミがいた。後ろにはハリーとナンシー、浅黒い肌で迷彩服でグラサンのオッサンがいた。
「………よぉ、しばらくぶり」
「よ、よぉ……って、ケビンさん! 何で生きてるんですか!」
「おいおい、その言い方だと死んでた方が良いみたいじゃないか。俺は悔いを、一片残らず消してからでしか死なないぜ」
「……ともかく、生きていて良かったです。私のせいで死んじゃったなんて、気分が悪いんですよ」
サトミの頭をグシャグシャと撫でる。被っていた帽子はさらに水が染みて、グシャグシャになってしまった。
それに気づいたのか、ほっぺを膨らませながらポコポコと叩いてくる。
「合流、だな。ケビン」
ハリーがクールな笑みを浮かべながら手を差しのべる。もちろん、差しのべられた手を握った。そして、噴水から引っ張り出される。
「俺は約束は破らない人間なんでね。ハリー」
「フッ、そりゃ頼もしいな」
ニヤリと笑い合う。
すぐに真顔に戻り、話を始める。
「さて、goodニュースとbadニュースがある。どちらから聞きたい?」
「あー……、ならgoodな方から頼む」
「goodな方だな? よし、先ずだな、お前のバイクのお陰で生物兵器らしき化け物が木っ端微塵になった」
「照れるぜ」
「……何故かしら、イラッてくるわね。命の恩人のはずなのに」
照れるぜ。
「次に仲間が一人増えた。軍人のチャールズだ」
「へぇ、そりゃいいね。よろしく、俺は一般人のケビンだ」
手を差し出してチャールズと握手をする。
「あんたとはいい酒が飲めそうだ。よろしく、ケビン」
グラサンをズラしてウィンクをする。
両目をつぶるなんてことはしない。かっけぇ………!
「さらにgoodニュースだ。この先のビルにヘリがある。それでこの街を脱出できるぞ」
「そりゃ最高だ!」
「さて、いい加減badニュースを聞かせてやろうか」
ハリーは一度大きく息を吸うと、話始めた。
「残念なことにヘリがあるビルは、研究施設で、この悪夢の元凶だ」
「逆を言えば、衝撃の事実が腐るほどあるってわけだろ? どこに売り込もうか、政府? それともロイター?」
「ポジティブね……」
ナンシーが呆れたかのように呟く。
「いや、これぐらいのタフさは無きゃ困るさ」
チャールズがフォローする。やや呆れているようだが。
「次は……」
チャールズがハリーを手で制す。
「俺から話させて貰うぜ、ハリー」
「……わかった」
「あー、これは最高にbadなニュースなんだが………その、なんだ」
チャールズは、とても言いづらそうだ。
何となく、今の俺の予想が当たるような気がする。
「なんだ? 早く言ってくれよ。間にCMを挟むわけじゃないんだろ?」
「オーケイ。じゃ、スパッと言うぜ」
「スパッと頼む」
「核が降る」
スパッとチャールズは言った。
核がこの街に落とされる。
映画を見て知ってはいたが、実際にその街にいて、改めて知らされれば、わかっていても怖いもんは怖い。
社会の授業で見た写真を思い出してしまう。その時はあんまり感じるものは少なかったが、数時間後のifの自分の姿だと思うとゾッとするし、それに対して、現実味をいまいち感じれない自分にゾッとする。
これに関しては『夢だから』で済ましてはいけないと思う。
「最悪のbadニュースだな……」
「悪い冗談みたいだろ? 軍の無線で聞いたから間違いない。小説みたいに軍の独断とかじゃなくて、大統領直々なんだぜ?」
「自国内で、それも都市に核を撃ち込むなんて………もう一度聞いてもつまらんジョークにしか聞こえないな。本当に」
「だが、安心しろ! ハリー! ヘリに乗ってトンズラすれば、俺たちはノープロブレムさ」
パンパンとチャールズは手を叩いた。
「さぁ、ビル目指して行こうか! 再会を喜びながら車に乗って行くとしよう! まだまだ席は十分にあるからな!」
雨は止んだ。
この最低最悪の都市の胃袋から逃げるとしよう。