第十三話 VS化け物
燃え盛る決戦のバトルフィールド。
向かい合うは銃を持った一般人とゴリラの化け物。
さぁ、賭けるなら今のうち!
………なんて、強がり言ってみても怖いもんは怖い。
だけど夢だ。
リアルな夢だけど、現実ではない。
そう考えれば、気が楽になる。だって、VRMMOな感じでデスゲームってわけじゃないんだからな。死んでも良いなんて、楽勝過ぎるぜ。
……コンテニューは無いけど。
「グルルルッ!」
不意にヤツがこちらに跳躍をする。
俺はヤツの居たところまで全力で走り込む。そして、振り返って射撃。
放たれた銃弾──亜音速の15g程度の塊──がヤツの背中に突き刺さる。
「ガ?」
おーのー。
まさかの脂肪的なサムシングに、銃弾が阻まれて効かないみたいなアレですかー!?
だが、まだ慌てるような状況じゃあない。バックに詰めた武器がある。
ヤツが動き出す。
こちらに向かって走ってくる。腰に銃を突っ込んでおく。
テレビで見た闘牛を思い出す。ちなみに闘牛士は牛に吹っ飛ばされていた。参考にならねぇ!
ギリギリまで引き付ける。
化け物が腕を振り上げ、俺を煎餅にしようとする。
右側に走る。
ゴッ! というコンクリートが割れる音を聞いて冷や汗が吹き出し、雨と混じる。
バックに手を突っ込み、別の銃を探す。
化け物はコンクリートに叩きつけた手でも労っているのか、ゆっくりと振り返る。まだ銃は見つからない。
あった。
しっかり握ると、手から熱を奪っていく冷たさと共に頼もしい手応えが返ってきた。それを一気に引き抜く。
その銃の大きさは両手で握らないといけないほど大きかった。
鈍く輝く銀色の姿は周りの炎を写していた。
両手でしっかりと握り、構える。
当たれば儲け物だと思いながら引き金を引いた。
バァン!
今までの銃とは全く違う強い反動が腕に来て、思わず腕が上がる。いてぇ!
すっ飛んでいった空薬莢が、コンクリートに跳ね返る。
そうだ、弾はどうなった。ていうかコレ、デザートイーグルじゃねぇか! 俺でも知ってるぞ!
化け物の肩に命中したのだろう。ヤツの肩からは血がドクドクと流れ出ていた。膝さえついている、だが、致命傷ではない。失血死を待つのには傷が浅すぎる。
「グルルルルルアアアアアーーー!」
怒りの咆哮。
考えなしの突撃。
単純そのもので、余裕で見切れる。
今度は左側に走る。
このままパターンにはめ
「んなっ………ぐぇっ!?」
首根っこを引っ張られたような感覚。内臓が腹の内側に押し付けられるような気がした。
吹っ飛ばされ、コンクリートの道路に石のように転がる。
そんなバカな、回避したはず。
しばらく混乱していたが、あるものに気づいた。
何か小さな紐のような物がヤツの指についている。
あっ、あれはバックの持ち手の部分だ。
「ゲホッ………そうか、グーじゃなくてパーにして面積を広げて………偶然、引っ掛かったってのか………クソ……」
走ってる車のミラーに、バックの持ち手を引っ掛ければ似たような体験が出来そうだな。二度と体験したくないが。
先程までは、デザートイーグルを撃ちまくってなんとかしようとしていたが、今の状態だと難しい。
ならどうすれば良い。
頭をフル回転させる。知恵熱は雨が奪い取っていく。
ふと、頭にあの姿が浮かんだ。
キノコを貪り食らう、髭親父の姿を。
その幻影は俺に語りかける。
『イヤッフーイヤッフーヒュウィゴー! ハッハー!』
「そうか………!」
その時、俺の頭の中に電流走る……!
場所
きのこ たけのこ
位置関係 銃
髭
足
おじさん
全ては繋がり、1.21ジゴワットの閃きが降ってきた。
「なら、その閃きを実行に移すだけか……」
頭は夢の中の癖に冴えきっている。
手の中のデザートイーグルは、今か今かと待ち構えているような錯覚を受けるほど、ずっしりと重い。
「やい! ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ! 略してゴ・リ・ラ! 悔しかったらここまでこい!」
自分で言っておいて何だが、今の台詞に悔しくなる要素はあったんだろうか。
だが、ヤツは悔しいらしい。またも何も考えてなさそうな突撃をする。
先程の二の舞にならないよう、避ける。
ヒュッと俺の頭の上をヤツの手が通りすぎる。ヒヤリとするぜ。
ヤツの無防備な背中にデザートイーグルを向ける。
「肩ぶっ壊すってのは、都市伝説だよな……!」
引き金を引く。
反動で腕が上がる。いってぇ。
痛みを無視して、前に走る。
そうだ、弾はどうなった。
弾はヤツの背中に当たったんだろう。見事に穴が開いていた。
ヤツは両手を地面につけている。夢らしく、俺の都合良く上手くいっている。
足に力を入れ、飛ぶ。
「イヤッフー!」
着地点はヤツの背中だ! 嫌がらせとばかりに、傷口をしっかり土足で踏んでいく。生々しい触感が足の裏に返ってくる。
もう一度、足に力を入れ、飛ぶ。
「イヤッフー!!」
I can fly
決戦のバトルフィールド。そのリングを作っている、燃え盛る車たちを越えていく。
そう、起死回生の策とは化け物とまともに戦わず逃げることだ!
「ヒュウィゴー!!!」
高度が少し足りない。手をパーにして羽ばたく。
熱い。
靴がチリチリと焼ける。たい焼きの気分がわかるような気がする。
鼻を肉の焼ける臭いがくすぐる。食欲は湧かない、湧くわけがない。自分が焼ける臭いで、食欲を湧かせるヤツは異常者か飢え死にしかけてるヤツぐらいだ。
「ハッハー!!!!」
着地成功ゥ!
足が少し痛むが、走れる。
雨が全身の熱を奪い、冷ましていく。この時ばかりは恵みの雨かと思う。
後ろは見ずに走る。
今度こそ、乗り物に乗ろう。免許? 知らんな。
しばらくすると、バイクを見つける。速そうなヤツだ。
鍵は………ついてる!
やったぜツイてる!
そんな寒いギャグを飛ばしたのが悪かったのか、後ろから叫び声がする。復帰早いな! 野生の力か!
急いでバイクにまたがる。
クソッ! やっぱりわかんねぇ! Aボタンはどこだ!
適当にガチャガチャやっていたらエンジンが掛かった。
「よっしゃあ!」
映画とかアニメとかゲームの知識を総動員して、バイクを走らせようとする。どうせ自転車とそう変わらねぇだろ!
あー………確か………、握るところを回してたな………。
「うわあああああ!?」
いきなり加速し、重力が全身にかかる。内蔵が背中に張り付きそうだ!
ガランガランとバックから何かが落ちていく。
右側の欠けたミラーで確認すると、大量の缶詰めと何かの銃弾、グレネードランチャーっぽいのが転がっていた。ついでに皮膚が少し焦げてる化け物も見つけた。
「炎の中を走ったのかよっ!?」
あははまてまてー、と言わんばかりに追ってくる。
缶詰めを踏み潰しながら追ってくる。
やべぇ、このペースだと追い付かれる!?
何か……何か方法は………っ!
ベチャッ
ヤツの足が真っ赤に染まる。
トマトの缶詰めが潰れた。
ぶちっ
ヤツの足がサバの味噌煮まみれになる。
おい、ここアメリカじゃねぇのか。なんでサバの味噌煮あるんだよ!
サバの味噌煮の缶が潰れた。
どんどんどんどん距離を詰めてやがる!
そして、また缶を踏みつけ──
グシ、ボガアアアアアァァァァーーーーーン
「っはぁああああああ!?」
大爆発。
閃光がミラーから後ろを見ていた俺の目を焼く。
思わずブレーキ。
目をパチパチさせていると、白くなっていた視界が色を取り戻す。
いったい何が……?
振り向くと、化け物がいた辺りは炎上していた。
良く見れば、炎の中心で倒れているのはヤツだ。
「いったい何が………?」
いや、待て。
まさか………。名探偵バリの推理が思いついたが、もしそれが正しかったなら、俺はセルフ命の綱渡りをしていたことになる。
一度ゴクリと唾を飲み込み、その推理を言葉にしていく。
「グレネードランチャーっぽいのが、缶詰めと一緒に落ちていっていた………それすなわち、ちゃんと銃弾と食料を分けていなかったということに他ならない。もしかして、俺が今まで缶詰めだと思っていたのはグレネードランチャーの弾だった………?」
自分のバカらしさにホトホト呆れる。
顔に手を当てると、汗と雨でぐっしょりだった。
「………切り替えよう。どんなにマヌケな助かり方でも助かったんだ。生きてりゃ、万事オーケーって良く言うからな」
スマホを取りだし、マップを見るとバイクをまた動かす。
目指すは街の中心地!
物語の最終ステージ、全ての元凶の製薬会社の研究施設!
「ようやく、終盤だ………!」
雨に打たれながら走る。
雨はもう少しで止みそうだった。