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夢の中の俺と現実の中の彼  作者: 私様
夢:レッツ生物災害
11/15

第十一話 マリオネットは糸を千切って走り出す

走る走る走る走る!

命がけの長距離走だ!

舞台は閉店ガラガラショッピングセンター!

追うのはアイツらゾンビども! そういえばいつの間に走れるようになったんだい!?

追われるのは俺ら生存者(サバイバー)! 親から貰ったこの足が頼りだ!  


「早く早く早く!」


誰かが叫ぶ。

商品棚の間を駆け抜けて、缶詰め見つけて後ろへ放り投げる。

カンカンコロコロ………と床に金属音を立てながら転がると、すぐに誰かに踏みつけられて誰かを転ばす。

誰かって誰だって?

そりゃ決まってるゾンビだよ!


「クソッ! 早すぎる!」


ハリーが悪態をつく。

俺も悪態をつきたくなった。

今度は斜め前からゾンビがやってきた!

腰にガンマンの真似事で挿してた銃を引き抜く。

構えて撃つ準備をする。もちろん射線上には味方は入れない。

ゾンビに狙いを絞って、引き金に力をいれる。

ん、あれ? 撃てない。

あ、セーフティ上げんの忘れてた。

なんてやっているとハリーとナンシーが、ゾンビの頭を銃弾でぶち抜いた。

本当に、この二人が味方で本当に良かったと思う。


「よし、あそこだ! あの扉だ!」


ハリーが叫ぶ。

ハリーの言う通り、恐らく商品を運ぶための大きな鉄製の扉があった。

あれならしっかりと施錠すれば、しばらくは開かないだろう。それだけの時間があれば、ショッピングセンターから脱出することは容易だ。


「ぁう!」


転ける音、そして可愛らしい声。出来ることなら平和な日曜日のピクニック日和な公園で聞きたかった。

そりゃそうだ。大人の全力疾走に子供がついてこれるわけがない。というか、ここまで持ったのが驚きだと言える。


(指示。サトミを助ける)


監督から指示が出る。

泣きたくなる。普通、こういうのは主人公がやるべきだろう?

バックから短機関銃──UZIとかいうらしい──を引き抜いて振り向く。

1、10、20、30………数えきれないほどのゾンビがそこにいた。

少女という新鮮な肉を手に入れようと、我先に倒れたサトミに襲いかかろうとしていた。

全力でサトミの元まで走り、サトミを小脇に抱えると短機関銃を狙いもつけず、乱射する。

短機関銃から発射された大量の弾はゾンビに命中し、少しだけ群れを後退させた。

おまけにばかりに、弾切れの短機関銃を近くのゾンビに投げつける。短機関銃………お前は良いヤツだったよ………。


「う、おおおおおおーーーー!!」


全力疾走。誘拐してるようにしか見えないだろうが、こっちは必死なんだ。

全力疾走。ゾンビたちも必死だ。死んでるのに必死だ。

ちょっとバックを引っ掛かれたような気がする。後ろは見ない。見たくもない。


「ヴァー!」


あ、ダメだこれ!

最後の手段を使うしかないか………。

大きく息を吸って………


「受けとれェーーー! ハリィーーーーッ!」

「! こぉぉぉぉぉおおおい!!!」


通じ合う二人の心。


「きゃあああああああああ!?」


唸れ! 俺の右腕ぇぇえええええ!

サトミを! ハリーの! 腕の中へ! ぶん投げぇぇる!

投げられると気がついたサトミは、絹の裂けるような悲鳴をあげる。

フッ…………この魔球………否、魔サトミにあえて名を付けるのならば………『ジャイロサトミ』…………イケてる名前だな………!

サトミはハリーのがっしりとした腕の中に収まる。ストラァーイク!


「ケビン! 早く来い!」

(指示。「先に行け!」)


この監督。生き残らす気が全くない。というか殺意に溢れてる。


「先に行け!」

「なっ!?」


ハリーは、俺の背後のゾンビと俺を交互に見た後、苦虫を噛み潰した様な顔をした。


「………チクショウ! 後でまた落ち合おうッ!!」


そして扉を閉めた。

鍵を閉める音と何かを倒す音が聞こえた。

そして、頭の中に声が響く。


(指示。死ね)


簡潔にも程がある!

もちろん、ゾンビの餌にはなりたくない。夢だとしてもだ!

無理矢理体を動かす。

筋肉痛で明日、動けなさそうだ。

バールを取りだし、覚悟を決める。

さぁ、どうしようか。 

……………まじでどうしよう。

正面はゾンビが多すぎる、よし。ここはとりあえず横に逃げよう。


「せええええい!」


バールで腐りかけの顔面を殴り飛ばして、道を確保すると同時にそこから逃げる。

当然のようにゾンビが後を追う。

それを商品棚の商品やバックに入ってる物を放り投げて妨害する。

だが、それをいつまでもやってはいられない。死者と生者のスタミナの差は大きいのだ。


「そうだ!」


俺がトマト缶をゾンビに投げつけた時、その策を思いつくことが出来た。

他の道は地図をハリーが持っていってしまったから、サッパリ分からない。だが、俺はこの地獄のショッピングセンターから脱出できる唯一の出口を知っている!

そう、それは!


「正面の出入り口から出よう!」


ゾンビたちが入店してきた場所だが、俺を追いかけるゾンビの量から考えて、正面の出口はガッラガラ!

邪魔なバリケードはゾンビによって吹っ飛ばされた!

よっしゃ! 完璧な計画だ!

お祝い代わりに、花火セットの袋に火をつけてゾンビの群れに放り込む。

爆音と共に後ろから飛んでくるロケット花火が、靴をチリチリ焦がすネズミ花火が、俺を祝福してくれていた。

なんだか、馬鹿馬鹿しくなってきて思わず笑ってしまう。


「あっはははははははは!」


笑いながら正面の出口から飛び出す。土砂降りの雨で体が濡れる。

ゾンビも飛び出そうとするが、数が多すぎてろくに身動きがとれない。


「やっ…………」

「グギャアアアーーーッ!」


た。と言おうとした瞬間、咆哮と共に化け物が上から落ちてきた。


「まさかずっと隠れていたのか……!?」


このやたら筋肉質な化け物は、ゴリラと人を足して2で割ってゾンビをぶちこんだような見た目をしていた。

正面から闘う?

もう少しもしたらゾンビが山ほど来るってのに?


「もちろん逃げるに決まってんだろおおおーーッ!」


背後から化け物の殺気を感じつつ、映画を見た記憶を思い出す。

ええと、ナンシーのケツ、エロか…………じゃなくて………そうだ!

思い出した! 製薬会社の研究施設のビル! そこに主人公は行くことになるんだ!

そうと決まれば話は早い。とっとと化け物を振り切って合流だ!

チラッと振り返ると、追ってくる化け物とショッピングセンターが見える。

ショッピングセンターの出口の真上の辺りに、大きな穴が出来ていた。そう、ちょうどあの化け物が入りそうなくらいの………って。


「隠れてたんじゃなくて刺さってただけかよ!」


雨はまだ降っている。

バカなことをしてるバカを笑うように。


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